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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.03 パートナー契約?それって食べれるの(と惚けたい)

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04 どうして行く先々で事件が起こるのかしら

 不意に展望台の建物が大きく揺れて、イヴは近くの手摺りを強く握りしめた。下の方から微かに爆発音が聞こえる。

 何が起こったの?

 展望台にいたのはイヴを含めて20人程度の客だった。騒ぐ客に展望台の係員が「すぐに状況を確認します」と慌てている。
 揺れは程なく収まったが、展望台の床がどことなく不安定に感じて、イヴは嫌な予感を覚えた。

「エレベータが緊急停止しているようで……しばらくお待ち下さい」

 客達は不安そうな表情をしながらその場に留まっている。
 リリーナは大丈夫だろうかと思いながら、イヴも他の客と一緒に展望台の上で事態が進展するのを待つ他無かった。







 イヴ達が展望台へ観光に行っている間、カケルとオルタナは寮の食堂でぼうっとしていた。
 食堂の壁にはテレビが設置されている。
 地球のテレビと違い、設置型の呪術で薄い板に映像を映している。放送は公共放送の1チャンネルしかなく、ニュースや広告が延々と流されているだけだ。しかし、暇な時に眺めるのはちょうどいい。
 カケル達はお菓子をかじりながら、特に目的無しにただテレビを眺めていた。

「お前、いつも週末は家に帰ってるよな。今週は良いのか?」

 オルタナは目が死んでいる感じのカケルが気になって、何となく聞いてみる。
 テレビに視線を固定したままでカケルは答えた。

「お米炊くのに失敗しちゃったんだ……」
「はあ?」
「失敗ばっかりで、俺はもう駄目なんだよ。これからの人生、良いことなんて起きないんだ……」

 虚な目でふわふわ語るカケル。
 相変わらず意味が分からない。意味が分からないが、ルームメイトのオルタナは普段のカケルの行動から推測した。カケルは毎週の週末、何か料理を作って、それを家に持って帰っている。その料理が失敗したから家に帰らないということなのだろう。
 しかし単に料理が失敗したにしては、落ち込み具合が激しい。

「ひょっとして、馬鹿女に無視されたのをまだ気にしてるのか?」
「……」
「あんなじゃじゃ馬の何処が良いんだよ」

 イヴの事を仄めかすと、カケルは机に突っ伏して動かなくなってしまった。紺色のつむじを見下ろして、こいつも馬鹿だよなと思う。
 オルタナは気の強いイヴに食指が動かない。好みなのは、もっと大人しめの女性だ。尻に敷かれるのが目に見えているのに、何故カケルはイヴにこだわるのだろう。

 テレビに視線を戻すと、ちょうど速報のニュースが入ってきたところだった。
 画面いっぱいにもくもくと立ち上る煙と、火元の建物が映し出される。
 それはレグルスタワーと呼ばれる、例の展望台だった。
 アナウンサーの声が、展望台の被害状況と、エレベータが止まって上に取り残されている客がいると告げる。

「おい……! あいつら、あそこに行くって言ってなかったか?」

 オルタナはカケルに画面を見るように言おうとしたが、チームメイトは既に机から顔を上げて、食い入るようにテレビを見ていた。その瞳に鋭い光が宿る。
 彼は立ち上がると、お菓子の入った袋を手に歩き出した。

「これ、残り食べて」
「え? サンキュー」

 たまたま食堂にいて、他の寮生とテレビを見ていたカケルと同級生のクリスは、お菓子の袋を渡されて、戸惑いながら受けとった。
 そのまま食堂を出ようとするカケルに、オルタナも後を追う。

「……巻き込まれてると思うか?」
「分からないけど、とりあえず現場に行ってみよう」
「ああ」

 二人は学校の敷地を出て、急ぎ展望台へ向かった。







 舞台は展望台に戻る。
 2階にいるリリーナは、人の流れに従って避難しようとしていた。非常階段の手前まで来て、何処かから聞こえる子供の泣き声が気になって、リリーナは立ち止まる。
 見回しても泣いている子供の姿はない。
 他の客は気付いておらず、自身の避難で精一杯のようだった。

 壁際に寄って耳を澄ませていたリリーナは、少しの逡巡の後、意を決して避難する客とは逆方向へ歩き出す。
 声のする方向へ感覚を頼りに進むと、土産物店に行き当たった。
 既に多くの客は避難したらしく、周囲に人気はない。
 濃くなる煙と、凄まじい熱気にリリーナの額から汗が滴った。
 土産物店の棚の向こうに、小さな子供がうずくまって泣いている。親とはぐれたのだろうか。

「大丈夫……?」

 声をかけると、子供は涙に濡れた顔でリリーナを見上げる。
 しゃくりあげる子供を立たせて、小さな手を握り、一緒に避難経路に戻ろうとした。
 しかし……

「わっ!」

 棚の向こうに炎が見えたかと思うと、道を塞ぐように土産物が並んだ棚が崩れ落ちた。
 不幸中の幸いでリリーナ達の方向には倒れこんで来なかったが、退路が無くなってしまった。

 前方からじりじり迫る火の手に、リリーナは子供を連れて後退する。
 壁際まで下がって、何処かに道は無いか、必死に考えていると、土産物店のガラスの窓が目に入った。
 あれを割って逃げられれば。
 ここは2階で、下に飛び降りると怪我をするかもしれないが、命には変えられない。
 リリーナは子供と一緒に窓に近寄った。
 そして、窓の向こうに金色の獅子の姿を見つける。

『リリーナか? 窓から離れろ!』

 金色の獅子は壁を登って来たらしい。
 窓の下の取っ掛かりに器用にしがみついている。
 オルタナの声に従って窓から数歩遠ざかる。予想通り、獅子の姿のオルタナは豪快に窓を破って飛び込んできた。破片を浴びないように、窓から離れて子供を抱え込む。
 割れたガラスを踏み締めて、獅子は人間に姿を変えた。

「オルタナ…」
「大丈夫か?」
「ええ、私は大丈夫。イヴは…」
「そっちは心配ない。カケルの奴がどうにかするさ」

 リリーナはほっとした。
 きっと急いで駆けつけてくれただろう、オルタナとカケルに感謝する。学校からレグルスタワーはそう遠くないが、タイミングが遅れればどうなっていたか分からない。

 オルタナは目を丸くしている子供を軽々と抱え上げると、割れた窓から2階の高さを平気で飛び降りた。
 獣人の膂力で、子供を抱えたまま無事に地面に着地する。
 その様子を見ていたリリーナは、次は自分の番だと思いながら、背後に沸き上がる熱気に戦慄した。
 密閉されて高温になった室内に、オルタナが蹴破った窓から外の空気が急激に流れ込んだため、酸素を取り込んで急激な炎上が起こるバックドラフトに似た現象が起ころうとしていた。

 本能的に何かが起きようとしている気配を感じて、リリーナは身を震わせる。一方のオルタナも、2階の状況を獣人の鋭い感覚で感じ取っていた。
 戸惑うリリーナに向かって、オルタナが地上から叫ぶ。

「飛び降りろ、リリーナ!」

 迷っている時間は無い。
 リリーナは思いきって窓から外に足を踏み出す。
 そして下で腕を広げるオルタナに向かって、身を投げ出した。




クリス「このお菓子めっちゃ辛いんだけど!……コンソメ辛子明太子クリーム味!?何食べてんだよ、あいつら!!」
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