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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.03 パートナー契約?それって食べれるの(と惚けたい)

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01 空から降ってきた少女

 広い庭園を、仏頂面の少年が歩いている。
 専門の庭師が剪定しているらしく、庭園の木々は丸い形に切り揃えられ、足元の小路は淡い色の石で舗装されている。カーブした小路の両脇には、等間隔に花が植えられていた。

 花に罪は無いのだが、少年は内心、花をちぎってやりたい気持ちでいっぱいだった。

 この庭園のある館へは、親の都合で無理矢理、連れて来られたのだ。親と仲の悪い少年は、無理矢理連れて来られた腹いせに、途中で会談の場から飛び出てきた。
 一人で家まで帰ろうかと思ったのだが、広い庭園に迷い込んでしまい、出入り口が何処か分からない。
 こんな迷路を作った館の主への復讐に、そこらの花を踏み倒して、思いっきり暴れてやりたい。
 そうしたら胸がすっとするだろう。

 物騒な事を考えつつも、欠片ばかりの良心で、少年は花への八つ当たりを我慢していた。
 むしゃくしゃしながら、ひたすら外を目指して歩き回っていると。

「きゃあああああぁ、そこ、どいてぇ!」

 可愛い悲鳴がして女の子が空から降ってきた。








 布団を脇に退けて起き上がりながら、オルタナはけだるく伸びをした。夢の残像がまだ頭の奥の方にある。
 少女が空から降ってくる夢。

 あれは実際にあった事だったと、オルタナは思い出す。
 親の付き合いで連れていかれた家で、その家の子供らしき少女と会って、少しの間仲良くしたのだ。
 少女と話したのはその時が最初で最後。
 彼女の名前も容姿も、もうオルタナの記憶には無い。出会いの瞬間に落っこちてきて、踏み潰されたのが印象的で、それだけははっきり覚えている。

 あの頃はぐれてたよな。

 今現在も、親や周囲を振り回して喧嘩ばかりしている自覚はあるオルタナだが、それを一切合切棚に上げて過去を思う。

 何故ぐれていたのか。
 それはオルタナの家庭の事情が大いに関係している。

 彼の父親は、由緒正しい良い家の坊ちゃんで、母親は下町の女性だった。絵に描いたような身分違いの恋は当然うまくいく筈がなく、オルタナを身篭った時点で破綻したのだ。
 後はお定まりの展開で、母親が一人でオルタナを生み育て、苦労した末に死んで、その直後に父親が迎えにくる。オルタナは盛大に父親を罵ってやった。
 そうしてオルタナは、母親が死ぬ原因の一端になった、由緒正しいソレルの家を没落させてやろうと、親が困る事ばかりをするようになったのだ。

 成人した今は、自分を第三者目線で見て、阿呆なことやってたなと思うようになった。オルタナが多少喧嘩をして、不良生徒と遊んだところで、そりゃ親は多少困るかもしれないが、全くもって現実世界を、自分の環境を変えることには結び付かない。

 反省したところで素行を改めるつもりはないのだが。

 いつの間にか夢の残滓は消え去って、目が覚めたオルタナは、シャツを引っ掛けたままの格好で部屋を出た。
 途端に良い臭いが鼻をくすぐる。

「何をやってんだカケルの奴」

 寮は2人で一組の間取りになっていて、寝る部屋だけ別だが、居間やトイレは共用だ。
 ルームメイトのカケルは、一応空戦科志望の竜である。一応と付けたのは、当初は空戦科に行くつもりが無かったという愚痴を聞いていたからだ。
 カケルは高天原インバウンドの北国の出身らしく、エファランでは見かけることが少ない、黒に近い紺色の髪と明るいはしばみ色の瞳をしている。男くささの少ないすっきり整った容姿なのだが、普段はふわふわ笑っているため間抜けなアホ顔に見える。

 申し訳程度に居間に備付けられている簡易キッチンで、カケルは何か料理をしているらしい。
 オルタナは料理をしないので、同級生がキッチンを汚そうが燃やそうが構いはしなかった。
 ふらふらとテーブルに近寄ると、手近な皿の上にあったソーセージをひょいと摘んで口に入れる。オルタナのつまみ食いにはとっくに気付いているのだろうが、カケルは調理の腕を止め、腕を組んで唸っている。

「うーん。お握りの具はソーセージが良いか、卵が良いか……それが問題だ」

 意味不明である。

 自分も変わっている方だと思うが、この同級生は輪をかけて変わっている。
 授業のサボり率はオルタナとそう変わらないが、喧嘩はしない。興味の対象は睡眠に酷く比重が偏っている。たまに起きているかと思えば、このように意味不明な行動をしていて、理解に困った。

 この同級生とは、学校の野外演習で同じチームを組んで以来なぜか親しくしている。なぜ親しくしているかは答えられない。それこそ意味不明だ。
 ただ、カケルとの付き合いは不快ではない。
 それだけは確かである。
 オルタナを毛の先程も恐れず、自然に話しかけてくるが、押し付けがましく返事を求めたり、何かを要求してくることはない。

 皿に行儀よく並べられた握り飯の具を眺めながら、こいつも良いところの坊ちゃんっぽいなとオルタナは推測していた。
 カケルは突拍子の無い行動が目立つが、基本的に礼儀正しいし、歩く動作や食べる動作に品がある。自分と同じでは無いだろうが、何かしら事情を抱えていそうだ。
 詮索するつもりはないが。

 オルタナは皿の上の厚焼き卵をひとつ、口に放り込むと、何やらうんうん唸って悩んでいる様子のカケルには声をかけずに部屋を出た。
 そっとしておこう。







 今日は授業に出ることにした。
 校舎前を歩いていると、声をかけられる。

「オルタナ」

 立ち止まって声の主と向き合う。
 それは年の離れたオルタナの兄だった。オルタナとは父親が同じで、半分血が繋がっている。とうに学校を卒業して陸軍に入っている兄は、深い緑の軍服を着ていた。
 自分と同じ深紅の瞳に見つめられてオルタナは居心地悪く身じろぎした。
 オルタナと違って兄は品行方正で真面目な性格だ。とは言っても、同じ獣人で武闘派のソレルの男なので、切れると半端なく乱暴になる。兄は長身で、服を着ていても分かる筋肉の付いた立派な体格をしていた。実際、オルタナは兄と喧嘩をして勝てた試しがない。
 兄のエイドはオルタナを呼び止めると、真面目な表情で聞いてくる。

「最近、家に帰っているか」

 帰っていない。
 ソレルの家はオルタナにとって居心地がいい場所ではなく、学校に入ってすぐにこれ幸いと寮に入ったのだ。それ以来なんやかんやと理由をつけて帰省を避けていた。

「たまに顔を見せてやれ。親父もお前のことを…」
「うるせえ」

 行儀悪く兄の台詞を遮る。
 父親も兄も、残念ながら優しくて人の好い性格だ。もっと厳しくて話の通じない奴らなら、遠慮なく憎めたのに。
 鬱陶しそうにするオルタナの様子に、兄は太い眉を下げる。

「年末には帰ってこいよ」
「……」

 諦めたのかそれだけ口にすると、兄はオルタナの横を通り過ぎた。朝から嫌な奴に会ってしまったと、オルタナは足早に校舎に入る。
 そういえば、兄は学校に何の用だったのだろう。




 

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