挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.02 竜になったはいいもののパートナーを選べと言われて悩む俺

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

24/160

11 君が欲しいと気付いてしまった

 結局、3年生達は全員、特典も罰も無しになった。
 勝ち上がったのがカケルのチームだと聞いて、普段のカケルを知る3年生は「嘘だろ」と空いた口が塞がらない。優等生で有名なイヴがチームメンバーだからかと、彼等は強引に自分を納得させた。

 寮生達は一旦自分の部屋に戻って普段着に着替えた後、夏寮の一階の食堂に集合した。
 なぜか真剣に空戦を展開してしまったが、入寮歓迎会の目的は、上級生と下級生の交流だ。鍵の取り合いとチーム戦は、話のきっかけになるよう企画されたに過ぎない。
 食堂に集った面々は食事をしながらそれぞれ歓談を始めた。

「ソレル、お前、この俺様を利用しやがったな!」
「たまたまっすよ」

 後で状況を悟ったらしいスルトが、オルタナの胸元を掴んで叫んでいる。オルタナの方はその剣幕に動じず、面倒臭そうに返している。
 彼等の隣では、顔面を腫らしたり、包帯を巻いたりした獣人の生徒達が不満そうに愚痴っている。

「解せん。何故我々だけボロボロなんだ」
「スルト先輩ひどいっす。俺らは被害者だ」

 オルタナはその様子を横目で見ると、スルトの手を振りほどいて言った。

「先輩達、俺が料理運んできましょうか。一応悪いとは思ってるんで」
「と、当然だ!」
「俺の分も持ってこい。飯だ飯!」

 繰り返すが、獣人は単純だ。
 オルタナが下手に出て給仕し始めると、上級生達はコロっと態度を変えて友好的になった。
 別に深刻な理由があって喧嘩している訳ではないのだ。状況が変われば、オルタナは彼等にとって可愛い後輩である。

「ソレル、お前、彼女はいるのか?」
「いーなー、お前のところのチームは半数女子で。俺らは男ばっかりだぞ」
「……チーム以外で探せばいいじゃないですか。アリエル先輩のところとか」
「アリエルのところは怖くて手が出せねえ」

 獣人達は揃ってブルブル震えた。一体何があった。
 男共がむさ苦しく騒いでいるとき、イヴとリリーナはテーブルの端で話し込んでいた。

「今回の作戦、カケルが考えたの?」
「そうみたい。私もびっくりしちゃった」

 ジュースを飲みながら、リリーナは頷いた。
 ばらばらだったチームを一つに纏めて勝利に導いたのは、一番やる気がなさそうに見えたカケルだった。そのことに、同級生の誰よりも、チームメイトのリリーナやイヴ自身が驚いていた。

「でも……意外かと言えば、そうでもないような」
「え?」

 リリーナは少し視線を逸らせながら呟く。
 イヴは首を傾げて、リリーナに先を促した。

「カケルさあ、ここだけの話、色々と家庭の事情がありそうなんだよね。いっつも阿呆なこと言ってるけど、それもわざとかも。試験の点数も良くないけど、手を抜いてる気がする。だって、きちんと話したら、そんなに頭悪くないって分かるもの」
「……」

 リリーナの言うことに心当たりはある。
 あの野外演習で彼と話すまでは、気付かなかったことが沢山あった。呪術の深い知識を持っていること、魔眼。時折見せる冴えた判断と勇敢な姿勢。
 崖から落ちる前に彼が話していたことが気にかかる。
 途中でうやむやになってしまったけれど。

「どう? 私達、これから先チームを組めるかな。イヴはカケルのこと、本当はどう思ってるの?」
「私は……」

 リリーナの問い掛けに、イヴは眉を寄せて考えた。
 彼と一緒に戦った時の気持ちを手繰り寄せて、それが自分にとって心地好いものかを確かめる。それはまるで、心の中を蒼い風が吹き抜けるような感覚だった。

「カケルは、悪くないと思う。昼寝のことばっかり言うのは困るけど、だからと言って話が分からない奴じゃないもの。面倒臭がってたけど、結局真剣勝負に付き合ってくれた」

 そうなのだ。本人はやたら睡眠について熱く語っているが、実際はイヴやリリーナを無視せず、協力してくれている。
 本当に昼寝以外はどうでもいいなら、リリーナの要望を無視しても良かった筈なのだ。

「うん、そうだね。良かった、イヴがそう言ってくれて」
「リリーナ?」
「私はイヴとカケルが契約するのが良いと思うんだ。カケルがだらけたがっても、イヴがしっかり手綱をとれば良いじゃない」
「まあ、そうね」

 イヴは苦笑した。
 不思議なもので、あれだけカケルとは駄目かと思っていたのに、一緒に戦ったことで蟠りが消え、前向きな気持ちになっていた。カケルの実力が垣間見えたことで「ちゃらんぽらんな同級生」という評価は撤回している。
 もっと彼の事が知りたいという気持ちが芽生えつつあった。

「契約するなら早い方がいいんじゃない? カケルの良さに気付く人は出始めてるよ。ほら……」

 リリーナの示す先には、豊満な胸を誇示するような年上の女子生徒や、白衣を着た男子生徒に挟まれたカケルの姿があった。





 カケルは上級生に囲まれて困惑していた。
 最初はクリスかオルタナのところで時間を潰して、頃合いを見て自分の部屋にこっそり撤退しようと思っていたのだ。
 だが、上級生のアリエルとウィルに捕まってしまった。

「うふふ。風船を風で飛ばしたの、君でしょう? 魔力が強い竜なのね」
「あはは、気付いちゃいました?」
「気付くわよ~。横から鍵を持って行ったことは不問にするから、お姉さんにお茶を汲みなさい」
「は、はーい…」

 この種の女性を敵に回すと怖いのはカケルとて承知している。彼は大人しく命じられるまま、器に飲み物を注いだ。
 向かいの席でウィルが口を挟んでくる。

「それにしても君は記憶力がいいんだね。あれ程本の内容を覚えている奴に会ったのは初めてだよ。君はどんな本が好きなんだい?」
「ええと……」

 家の英才教育で読まされただけで、特に好きとかではないんです、とは言えなかった。カケルは言葉に詰まって曖昧に笑う。幸い、ウィルはマイペースにカケルの様子に気を遣うことなく話を続けた。

「僕が好きなのは、歴史系の本なんだ。特にユーダ帝国の発祥と衰退について……」

 蘊蓄が始まってしまった。
 周囲の生徒はまたか、といった感じで聞き流している。カケルにしても、話の内容は理解出来ても、聞きたいかどうかは別だ。

 上級生に逆らうことも出来ず、頷いて相槌を打ちながら、虚に視線をさまよわせる。あれ?俺なんでこんなとこにいるんだろう。
 何とは無しに周囲を見回していると、奥のテーブルでリリーナと話すイヴの姿が目に入った。慌てて視線を逸らそうとするが、テーブルに近付いていくデュオの姿に気付いて、視線を戻す。

 デュオはイヴに何か話しかけていた。その様子を見て、カケルはなんだかもやもやした気分になった。
 最近イヴを見ると感じる、この複雑な気持ちは一体なんだろう。体調不良じゃないなら、俺は何が気になってこんな気持ちになっているのだろうか。

 少しの会話の後、イヴとデュオは連れ立って食堂を出た。二人で何の用だろう、気になる……

 その時、一方的な長話が数十分続いて飽きたのか、カケル目当てで隣にいたアリエルがウィルの話を遮った。

「ウィル、ユーダ帝国の話はもういいから。それより、貴方は研究科なんでしょう。呪術学専攻って聞いたけど、何を研究してるの?」

 話を遮られたウィルは少し不満そうな顔をしたが、質問は自分の研究のことなので、すぐに気を取り直して話を続けた。

「僕の研究は呪術の大家、七司書家セブン・ライブラリアンについてだよ」

 カケルはお茶を噴きだしそうになった。

「1000年近くに渡る彼等の謎に満ちた歴史と、呪術との関わりを研究している。魔眼が七司書家発祥だということは、知っているかい?」
「魔眼……噂には聞くけど、実物は見たことないわね。あれって七司書家と関係があったんだ」
「そうだ。七司書家は法に触れるぎりぎりで、禁断の呪術や人体改造を繰り返してきた一族だ。噂では実験場を作って、人体実験をしたりしているとか…」
「へえー」

 アリエルは興味深そうに頷いている。
 聞いていたカケルは、あながち噂がそう的外れではない実家の実態を思い出して気分が悪くなった。

「先輩、ちょっとトイレに行ってきていいですか」
「ええ、行ってらっしゃい」

 ひらひら手を振るアリエルに頭を下げつつ、騒がしい食堂から廊下に出る。廊下は扉の中の喧騒が嘘のように静かだった。
 廊下に出たカケルは周囲に他の寮生がいないことを確認すると、瞳を閉じて集中する。彼の周りを風がふわりと舞った。

 カケルは風を使ってイヴの居場所を捜した。

 彼女は寮の外にいるようだ。
 胸騒ぎを感じて、カケルは足早に寮から外に出て彼女の気配を追う。

 そして、寮からそう遠くない花壇の傍で、意識のないイヴを抱え上げようとしているデュオを発見した。
 意識せず、低い声が出た。

「……何をやってるんですか」

 カケルの声に気付いてデュオが振り返る。

「おっと、見られてしまったか。俺はこれから彼女と秘密の話があるんだ。君は寮に戻るといい」
「は?ふざけないでください。どうみても合意には見えませんよ」

 イヴを抱えたままこちらを見て、暗に見なかった事にして戻れと言うデュオ。カケルが言い返すと、彼の周囲に、2人の上級生が姿を現す。共犯者がいたらしい。
 デュオが顎をしゃくって合図すると、2人の上級生が襲い掛かってきた。

「寝るのが好きなんだろう、ここで朝まで寝るといいよ」
「いい加減にしろ!!」

 カケルの瞳が鮮やかな金色に輝く。
 彼の足元から蒼い風が沸き上がって、襲ってきた上級生2人を木の葉のように投げ飛ばす。上級生2人は跳ね返された後、木々にぶつかって崩れ落ちた。

「へえ」
「イヴから手を離せ」

 竜の魔力を漂わせながら言うカケルに、デュオは目を細めた。

「その魔力、少なくともレベルB以上か。イヴと契約したいのかい?」
「答える義務はない」
「いや、あるよ。俺はイヴが欲しい。君が別にイヴと契約する気が無いなら、俺達の邪魔をするな」
「卑怯な真似をして、無理矢理に契約するのを見てろって言うのか!」
「ああ」

 デュオは平然と微笑んだ。

「そうだ。欲しいものは奪い取る、それが竜だろう? 君がそんなに怒ってるのも、自分のものを盗られたくないからだ。違うか?」
「……」

 罪の意識もなくぬけぬけと言うデュオだが、その言葉の内容にカケルは動揺した。竜になって間もない彼は、自分の能力について把握し始めたばかりだった。
 種族が変わると、人間のときの肉体や精神も変わる。食事で野菜より肉が好きになったり、好戦的になったり。
 以前からイヴに抱いていたおぼろな好意が、竜になった事で変質し、彼女への欲望となっていたことを、カケルはここに来て初めて自覚した。

 好意。
 連鎖するように、薄闇に包まれて正体が分からなかった感情が今、ベールを剥がされ、光の下にその姿を明確にした。
 カケルはいつの間にか、彼女を好きになってしまっていたのだ。
 彼女に対して抱いているそれは、友人に対する明るい好意ではなく、もっと激しく深い別の何かだった。

「無事に契約が終われば、彼女も俺の気持ちを理解してくれる筈だ」

 そう言うデュオを、カケルは殴りたい気持ちで一杯になった。イヴとデュオが契約で繋がると考えただけで、胸がむかついて仕方がない。
 だが、カケルはここで踏み出す事をためらっていた。

 苦しそうな表情で拳を握って、その場を動けないでいるカケルの様子を見て、デュオは少し考えていた。どうやらこの後輩はイヴと契約したいらしいが、何かの理由で迷っている、と。ここで焦って彼女を手に入れなくても、次の機会があるかもしれない。

「……だけど、そうだな。遺恨を残すやり方はスマートじゃない。君の言う通り、卑怯だしね」

 デュオはイヴの身体を柔らかい草むらの上に置いて、立ち上がってその場を数歩離れた。

「今夜は引くよ。今回のことはお互い無かったことにしようじゃないか」
「勝手なことを……」
「君にとってもその方が都合が良いだろう」

 余裕の態度で言うデュオに、カケルは唇を噛み締めて否定しなかった。
 その様子を見てとると、デュオは「またな」と手を振って、寮とは別方向に歩き去った。倒れていた上級生2人も、起き上がって彼の後を追う。

 敵がいなくなってから、カケルは意識のないイヴの傍らに歩み寄って、彼女の前に膝を落として座り込んだ。

「……イヴ」

 ごめん、イヴ。臆病な俺を許してくれ。
 安らかに瞳を閉じる彼女を見下ろして、カケルは呻くように呟いた。

「君は、俺とは契約しない方がいいんだ」

 先ほどの食堂の宴会で、研究科の呪術学専攻のウィルの言葉でカケルは思い出していた。叔父の言った通り実家とアラクサラ家が敵対しているということも、理由としてあるが、もっと重要なこともある。こればっかりは七司書家の中枢にいなかった叔父も知らない事だ。
 気付いたばかりの気持ちを、カケルは再び覆いを掛けて、胸の奥にしまいこんだ。
 彼女を自分の事情には巻き込めない。

 月明かりの中、イヴの白い頬に手を伸ばしかけて、カケルはその動作を途中で止める。
 背後に気配を感じた。

「カケル・サーフェス……っていう名前だったよな、確か」

 ゆっくり振り返ると、寮長のセファンが心配そうな顔で立っていた。

「その娘、イヴ・アラクサラか。大丈夫か? ったく、デュオの奴、見境なく手を出しやがって」

 どうやらデュオの悪事に気付いて追ってきてくれたらしい。
 カケルは立ち上がると、セファンに言った。

「寮長。イヴのこと、お願い出来ませんか?」
「ああ?」
「寮長がイヴのことを見つけて連れて戻った事にして欲しいんです。俺が絡むとややこしくなるんで」

 後輩の申し出に、セファンは怪訝そうにした。

「お前が最後まで連れ帰らなくていいのか? 彼女はお前の絆の相手だろう」

 絆の相手、という言葉の意味は知らなかったが、状況で大体推測はできる。
 カケルはいつものふわふわした笑顔を浮かべて否定した。

「違いますよー。寮長、すいませんがよろしくお願いします」
「はあ、そういうことにしておくか」

 カケルの様子に何を悟ったのか、セファンは眉を下げつつ嘆息した。草むらに近寄ると、慎重な動作でイヴを抱き上げる。
 その様子にデュオほどの嫌悪感を感じない自分に気付いて、カケルは何故だろうと思った。

「俺はもうイリアと契約してっからな」

 セファンがぽつりと言った。カケルは何の事だろうと思って、次の瞬間に気付いた。それは先ほどの疑問の答だ。竜の本能が、セファンには既に契約してる相手がいて敵にはならないと判断したから、セファン相手には平静でいられるのだ。

「なんでって顔してんな。お前は最近竜になったばっかりだろ? 獣人ほど表には出ないけど、竜も結構勘が鋭い種族なんだぜ。まあ、契約関係に限られるけど。機会があったら色々教えてやるよ」

 不思議そうな顔をするカケルの頭を軽く叩いて、セファンはイヴを抱えて夏寮に引き返して行った。
 カケルはその背を黙って見送った。
 今夜は外で、その辺の木の上ででも寝ようと思う。
 彼女と同じ建物では、気になってよく眠れないだろう。



+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ