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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.02 竜になったはいいもののパートナーを選べと言われて悩む俺

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10 空戦(vs.寮長セファン)

 去っていく赤銅色の竜を見送りながら、イヴはカケルに声をかけた。

「セファン先輩はどこにいるのかしら」

 蒼い竜は緩やかに旋回しながら答える。

『あの人は責任者だから、グラウンドも校舎裏の森も全部見渡せる場所にいるんじゃないかな』

 眼下には森と、森を背負って建つ学校の校舎、校舎の影にグラウンドの一部が見えている。歓迎会イベントの全貌を把握するには、どこに位置すればいいのか。
 答えは簡単だ。

「学校の一番高い校舎の屋上ね」
『正解』

 カケルは校舎の上に降下する。
 中央の校舎の屋上に、こちらを見上げる数人の上級生の姿が見て取れた。屋上は竜が発着出来るよう、広いスペースになっている。
 蒼い竜は上級生から少し離れて、屋上の端に着地した。

「イヴ!」

 階段を駆け登ったリリーナが小走りで近寄ってくる。
 イヴは竜の背から飛び降りた。カケルは人間の姿に戻るのが面倒臭いのか、そのままの姿で座り込んでいる。

「リリーナ、どうしてここに」
「カケルがここで合流しようって」

 そう答えるリリーナの後ろには、にやにやしているオルタナがいる。ここまでが全て計算の上だったというのか。イヴは蒼い竜を振り返ったが、カケルは竜の姿のまま欠伸をすると、首を回して眠りそうな様子だった。

「寝んな」

 オルタナが竜に近寄って脇腹を蹴る。
 イヴはチームメイト達ともう少し話したい気持ちだったが、上級生達がこちらに向かって来るのに気付いて気を引き締めた。

「見てたぜ、お前ら全部鍵を集めたんだな」
「見事です」

 寮長のセファンがそう言い、隣のイリアが眼鏡を持ち上げつつ無表情に賞賛した。
 イヴは睡眠以外は頭にないリーダーの代わりに、前に立って答える。

「全部じゃありません。まだセファン先輩のチームと戦ってませんから」
「おっと、そこまで気付いてるのか。パーフェクトだな、お前ら」

 セファンはひゅうと口笛を吹いた。
 彼は愉快そうに口の端を吊り上げて不敵に微笑む。

「察しの通り、最後の鍵は俺達が持ってる。勿論、ただでくれてやる積もりはない。空戦で勝負を付けようじゃないか!」

 彼の周囲を火の粉が舞う。魔力レベルA以上の竜は、人の姿でもある程度属性を操れるのだ。
 陽炎のようにセファンの姿が歪み、炎を纏ったオレンジ色の鱗の竜が現れる。先ほどのデュオが変じた竜よりも小さい体格だが、引き締まった肢体と身体の輪郭から放射される炎は、竜としての格の違いを感じさせる。頭部の二本の角は鋼鉄の色で、紅い瞳は石炭の中心に灯った炎のように強い闘志で燃えている。
 竜が翼を広げると、動作に合わせて炎の鱗片がはらはらと散った。
 副寮長のイリアは三つ編みを肩の後ろに払いのけながら、軽快な動作で竜の背によじ登る。

「矢は規定通り3本までとします。始めましょうか」
「望むところです」

 イヴは懐から紐を取り出すと、長いストロベリーブロンドを簡単にひとまとめにした。そして、後方で待機(睡眠)していた蒼い竜に飛び乗って鱗を叩く。

「行くわよ!」
『ええー、もうちょっと休憩を……』
「これが終わったら、昼寝でもなんでもすればいいじゃない」
『むう』

 カケルは不満そうに唸ったが、イヴの指示に従って離陸を開始する。セファンに遅れての上昇だったが、そこはさすが風竜。すぐに上空のオレンジ色の竜に追いつく。

 上空で向かって来る蒼い竜を観察しながら、セファンは対象を背中のイリアに絞って念話で話しかける。

『ありゃ風竜だな。スピードじゃ勝てねえぜ、どうする?』
「追いかけっこをするのは愚の骨頂ですね」

 イリアは冷静な口調で答えた。

「別に動かなくても良いのでは? こちらは彼等の望むものを持っています。それに、攻撃力と持久力はこちらが上です」
『ふーむ、そんじゃあ蹴散らすとするか!』
「後輩に怪我をさせない程度にしてくださいね」

 オレンジ色の竜はゆったりした速度で高度を上げていく。通常より遅い、むしろのろいと言ってもいい速度だ。余裕の態度で、いつでも掛かってこいといった様子である。

 あからさまにスピードを落としてきた先輩の竜に、イヴは警戒感を抱いた。何か罠があるとしか思えない。
 セファン達は、こちらを侮っていないようだ。罠を仕掛けてでも、全力で自分達と戦おうとしている。

「飛び込んでいいのかしら」
『そりゃまずいけど、近付かないと矢を撃てないよね』

 蒼い竜はこちらも速度を落としつつ、距離をおいてセファン達の周囲を旋回した。

『遠くからでも攻撃出来たらいいけど、俺は風竜だからブレスを吐いたり出来ないみたい』
紅光弾ルビーショットで狙いたいところだけど、今回は演習で物理の矢だから、あそこまで届かせるのは難しいわ」

 カケル達は考え込んだ。
 竜の中で最速を誇る風竜だが、その半面、攻撃力は劣る。火竜のように、ブレスを吐いたり出来ない代わりにカマイタチや強風を起こせるが、範囲が限られる上に竜の硬い鱗を切り裂くような威力はない。
 遠距離の攻撃はイヴの呪術が頼りだが、残念ながら使えるような呪術が彼女の手持ちにない。
 結局、罠を承知で突っ込むしかなさそうだ。

『行くよー?』
「ええ」

 蒼い竜は事前に垂直に上昇して、セファン達よりも上の位置まで昇ってから、斜めに急降下した。全力の風竜のスピードは凄まじく、空を裂いて一瞬でセファンに肉薄する。
 その速度に億することなく火竜は笑った。

『来る方向が分かってるなら、なんてことないぜ』

 彼はカケル達に向かって炎を吐いた。
 蒼い竜は炎の壁を避けて通り過ぎようとする。イヴは交差する瞬間を狙って矢を放とうとしたが、嫌な予感を覚えて寸前で攻撃を止め、代わりに防御の術式を組んだ。

守護シールド!」
流星炎メテオ

 イヴの判断は正しかった。
 交差の瞬間、イリアが呪術で攻撃をしてきたのだ。火竜の周囲に無数の小さな光の球が現れ、カケル達に向かって複雑な軌道で放たれる。ひとつひとつは大した威力はなさそうだが、霰のように降り注ぐ攻撃に、イヴは防御で手一杯になった。

『まだまだだなっ!』

 火竜が続けて炎を吐く。炎は数十メートルに渡って威力を損なわずに放射された。セファンはカケル達のいる方向の空間を炎で豪快になぎ払う。その様は、長大な炎の剣で空を切るかのようだ。
 魔力レベルAの火竜が吐く炎は、生き物のようにうねりながらカケル達に迫る。風で防御しようにもそんな余裕が無くなって、蒼い竜は必死に持ち前の機動力で炎の雨嵐を潜り抜けた。

 カケル達は炎の間合いから出ると一旦距離を取った。

『ふぅー。死ぬかと思った』

 人間の姿なら汗を拭う動作をしていただろう。カケルのコメントに、今のイヴは突っ込む気になれなかった。彼女は今の戦闘が危ういものと気付いていた。セファン達は想像以上に手強い。

「どうしたらいいの……?」

 途方に暮れるイヴに、蒼い竜が言う。

『イヴは設置型の呪術は使えないの?』
「え?」
『動かない竜の死角は2箇所ある。同時に攻撃できれば、勝機はあるよ』

 謎掛けのようなカケルの言葉をゆっくり吟味して、イヴはひとつの作戦を思い付いた。

「そうね。何も真正面から攻撃しなくてもいいんだわ」
『そうそう』

 他人事のように蒼い竜が追随する。
 突っ込むのは自分だと分かっているのだろうか。

『じゃあぐるっと天地を一周しようか』
「お願い」

 蒼い竜は、セファン達の攻撃の間合いに入らないぎりぎりの距離で、円を描いて上昇し始めた。







 不可思議な軌道を描いて飛ぶ蒼い竜を、セファン達は緊張して見守っていた。

『ありゃあ、なんか企んでるぜ』
「……」

 円を描いて上昇するカケル達は、ちょうどセファン達の頭上にさしかかる。ここで真上から襲ってくるかとセファン達は警戒したが、蒼い竜はそこから速度を上げて頭上を通り過ぎた。

『なんだ?』

 警戒していたのに拍子抜けして、セファンが呟く。
 蒼い竜は風竜らしい素晴らしい加速で、そのまま曲線を描いて下降して、ついにセファン達より下の位置に潜り込んだ。

「下から?」

 滑らかに飛ぶ蒼い竜は、セファン達の真下に到達した。そこから垂直に上昇してくる。

『下から上への攻撃は悪手だぜ』
「彼等がそれを知らないとは思えません。セファン、気を付けて下さい」

 真下から向かってくるカケル達を見下ろして、イリアが注意を喚起する。下から上の垂直上昇は重力に足を引っ張られるので通常は速度を期待出来ないが、そこは風竜らしく重力を感じさせない速度を維持している。
 いくらセファンといえど、高速で突っ込んでこられると、その瞬間は対応に集中せざるをえない。彼は体勢を整えつつ、真下に炎を吐いた。
 それと同時にイリアが下に向かって呪術を発動する。

流星炎メテオ!」

 今回彼女は、呪術に一工夫をしていた。
 小さな星のように光る球に、演習の矢に付いていたインクの球を仕込んでおいたのだ。光の球は複雑な螺旋を描いて、蒼い竜の背を狙って四方八方から襲い掛かる。

守護シールド!」

 イヴは竜の前方に集中した防御の術式を展開する。多少の攻撃は受けても、蒼い竜に真っ直ぐ突撃させ、セファン達の懐に潜り込む算段だった。
 蒼い竜はイヴの防御の術式の力も借りて、セファンの炎をまともに浴びつつも一気に駆け昇る。

 竜の間の距離は高速で縮まり、二体の竜は真正面に肉薄した。

「きゃっ!」
『イヴ!?』

 炎の圧力に負けて防御の術式が一部破られる。
 その破れた隙間から光の球が飛び込んできて、着弾する。蒼い竜の背に水溶性の赤いインクが飛び散った。

 上空からそれを確認したイリアは勝利を確信する。
 だが……

『イリア!』
「え?」

 気がつくと頬に赤いインクが付いていてイリアは呆然とした。こちらが光の球をイヴに当てるのと同時に、イリア達も矢のインクを浴びていたらしい。
 いつの間に。

『上だ。こいつら、上空に設置型の術式で、矢を設置していやがったんだ』

 舌打ちしそうなセファンの言葉に、イリアは目を見張った。
 竜になったばかりの下級生と、まだろくに空戦を経験していない竜騎士見習いの生徒が、まさかこんな搦め手を使ってくるとは。

「私達、油断してしまいましたね」
『ああ』

 勝負が付いたので、竜達はその場でホバリングをしている。
 蒼い竜の背で悔しそうな顔をしているイヴに向かって、イリアは呪術で通信回線を開いた。

「着弾は同時。今回は引き分けとなります」
『鍵は?』
「引き分けなので、無しで」

 イリアの宣告に、聞いていた蒼い竜が盛大にブーイングした。人間は遠距離で会話出来る程耳が良くないので、呪術で通信するが、竜達は優れた聴力で数十メートル範囲の物音を把握して、念話で会話できる。

『えー!? せっかく昼寝を我慢して、俺にしては頑張ったのに、そりゃないよー』
「歓迎会中は昼寝しないのが普通なのよ…?」

 イヴが呆れた様子で突っ込みを入れる。
 カケルの惚けたコメントに、真剣勝負の雰囲気が一気に霧散してしまった。
 後輩達の会話にイリアは頬を緩めた。

「決着が付いたので、歓迎会のイベントはこれで終了にしましょう。寮に戻って着替えたら、食堂に集合してください」
『はーい』

 いい子な返事をして、蒼い竜は下降を始める。
 その姿を見送ってイリアは苦笑した。
 通信回線を閉じ、彼等が十分に離れてからセファンに話しかける。

「本当は鍵をあげてもよかったんですけどね」
『そうすると、他のチームが鍵無しだし、不公平になっちまうからな。あいつらだけ特別扱いして、他の3年生は便所掃除とか、させられないだろ』
「今回は特典も罰もなしですね」
『ああ。まさかこんな突出した奴らが出てくるとは思ってなかったぜ』

 当初の予定では、ある程度手加減をしながら3年生のチームそれぞれに鍵が渡るようにする予定だった。勿論、優秀なチームは2つ以上鍵を手に入れるだろうから、その数を競う予定だったのだ。
 まさかぶっちぎりで鍵を全部集めてくる連中がいるとは思わなかった。

 セファンとイリアは、今後の相談をしつつ、寮生が集まっているグラウンドに降りていった。


カケル「次回からイヴが主人公の物語に変わりますー」
リリーナ「ちょっと、主役が面倒くさいからって、勝手に交代しないの!こらっ、寝るな!」
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