挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.02 竜になったはいいもののパートナーを選べと言われて悩む俺

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

22/160

09 空戦(vs.火竜のデュオ)

 イヴはカケルを連れて元来た道を引き返した。
 5年生達が待機している大岩に近付くと、1人ではないイヴに気付いて、彼等は不思議そうにする。
 決然としたイヴの面持ちと、後ろにいるカケルを見て、デュオは顔をしかめた。カケルを従えたイヴは、デュオと真正面の位置に立って言った。

「デュオ先輩、私と勝負してください」
「!」

 突然の申し出に、周囲の5年生達はざわめいた。
 デュオはイヴの顔を見てこの展開を予想していたのか、眉をぴくりと動かしただけだった。

「私が勝ったら鍵を頂けませんか」
「一体どうしたんだい?」

 口調だけは柔らかくデュオが聞いてくる。彼が内心苛立っていることは、険しい眼差しと温度が下がった空気で一目瞭然だった。

「私だけ、同じ3年生の皆を差し置いて高見の見物なんて、やっぱり納得がいきません」
「真っすぐなのは良いことだが、上に行くために時には妥協も必要だよ」
「いいえ」

 諭すようなデュオの言葉に、イヴは磨かれた鍵盤を弾いたような、明快で芯の通った声で答えた。

「デュオ先輩、私は上を目指してる訳ではありません。
 ただ、憧れの竜騎士に恥じない自分でいたいだけです」

 きっぱりとした返答にデュオは鼻白む。

「君はもっと賢い子だと思ってたんだが」

 イヴは胸を張って上級生を見返した。
 へこたれないその姿勢に、デュオは小さく舌打ちする。

「分かった、勝負をしよう。空戦の仕方は知ってるかい?」
「騎竜に乗って空中で、どちらが先に搭乗者に矢を当てられるか競う」
「そうだ」

 彼は足元の荷物から、小さなボールが付いた矢を抜き出してイヴに渡す。それから周囲を見回してチームメイトを呼んだ。

「アステル、空戦だ」
「後輩の女の子相手にマジになるなよ」

 アステルというらしい金髪の男子生徒は、困惑した様子で矢を手に取った。彼はデュオと暫定でパートナーを組んでいる呪術師だ。襟元には翼の形のバッジ。竜騎士志望の空戦科の学生らしい。見るからに体力が無さそうなひょろりとした手足に、日に焼けていない白い肌をしている。研究科だと言われた方が納得する容貌だ。

「煩い」

 相棒の言葉を不機嫌そうに遮ると、デュオは岩の前で竜に姿を変える。赤銅色の鱗の竜が岩の上に姿を現した。人間の姿の時とは違い、竜の彼はがっしりした骨格の太い体躯をしている。頭部から伸びる二本の角は象牙の色をして鋭く尖っていた。
 彼はアステルを背に乗せると、大地を蹴って空に舞い上がる。衝撃で地面が揺れた。

「カケル!」
「はーい」

 間の抜けた返事を返して、カケルも竜に姿を変える。
 森の木々の中で窮屈そうに、空色の鱗の竜が翼を広げた。鮮やかなサファイアの輝きを秘めた竜の姿に、5年生達はもの珍しそうに竜を見上げる。蒼い竜は、デュオの変身した赤銅色の竜に比べると小柄でスマートな体格だった。胴体に比べてやや翼が大きい。飛ぶことに長けた風竜ならではの容姿だった。
 イヴは屈んだ竜の背に素早く飛び乗る。カケルが姿を変えた蒼い竜は軽やかに翼を広げて飛び立つ。突風が地上の生徒達の間を吹き抜けた。
 二体の竜は森の上空へ上昇する。
 木々の海を舞台に、二体の竜は距離をあけて円を描いて飛びながら、間合いを計った。

 イヴは竜の背でミカヅキを呼び出す。

「ミカヅキ、この矢を使って」

 黒いタキシードを着た白い兎は、イヴの上空で小首を傾けた。

《 何これ? 》

「演習用の矢よ。実戦では呪術を撃ち合うけど、練習でそれをやると怪我をするから。インクを入れた球を付けた矢を使って、相手に色を付けたら勝ちにするの」

 イヴの説明を理解したかどうか分からないが、ミカヅキは彼女の肩で勇んで飛び跳ねた。

《 分かった、この矢をあっちの竜に当てればいいんだね 》

 兎が術式を展開して、呪術による光の弓に、演習用の矢をつがえる。イヴは呪術の制御をミカヅキに任せた。

「カケル、デュオ先輩の後ろは取れそう?」
『楽勝だよー』

 蒼い竜は気楽な調子で返事をした。
 彼方で旋回する赤銅色の竜を見つめて、イヴは考える。

 本人の言っていたように、デュオは魔力レベルBの火竜だ。炎のブレスには要注意だが、今回は実戦ではなく演習、攻撃力より速度や機動力が重要となる。
 その点、風竜のカケルは実戦でも演習でも有利な属性と言える。空戦は速く飛べて小回りのきく竜が有利だ。実戦では真正面からぶつかり合うよりも、不意打ちをしたり、索敵をかい潜って相手の背後を取り、一撃を入れて急速離脱をする戦闘の方が多い。
 先ほどカケルは楽勝と言ったが、その通りだ。能力や相性から言って、勝てなければおかしい相手とも言える。

 向こうはカケルの属性や能力を知らないから、あっさり空戦の許可をくれた。しかし、カケルの鱗の色を見て、こちらが普通の竜ではないと、そろそろ気付くだろう。
 相手が油断している最初の内に一気に勝負をつけるべきだ。

「一気に決めるわよ!」
『了解』

 イヴのやる気を感じ取ってカケルは身震いした。
 背中にいるイヴの考えが手に取るように分かる、どころか、彼女の考えに応じて身体の方が先に動き出している。
 魔力の強い竜は、搭乗者の意識に同調して引きずられる。
 いつかロンドが言った言葉の意味を、カケルは身をもって実感していた。魔力が強い程、周囲の状況を察知する力も強くなり、アンテナのように一番近い人間の感情を受信してしまう。好意を抱いている相手なら尚更のことで、彼女の強い意思にあらがうのは不可能だった。

 蒼い竜は速度を上げて、円を描きながら相手を追跡する軌道で飛ぶ。

 一方のデュオは、見たことのない蒼い竜に戦慄していた。
 竜は魔力が高い程、鮮やかな体色になる傾向がある。
 デュオ自身も火の属性の魔力を鍛えるにつれ、赤みがかる自分の鱗の色を確認していた。勿論、全ての竜の魔力が体色と比例する訳ではないが、それにしたって蒼い竜の色は目に眩しい。
 竜の本能が言っている。あれは強い竜だと。
 そんな訳はない、事前情報では今年の入寮者にレベルB以上の竜はいなかった筈だ。
 あれはただの体色が派手な竜だ、デュオは自分にそう言い聞かせた。

「追ってくるぞ!」

 搭乗しているアステルが呪術で矢をつがえながら叫ぶ。

『振り切ってやる』

 赤銅色の竜は唸って翼に力を込めた。
 しかし、蒼い竜との距離は近付く一方だ。

「どうする?!」

 アステルが背中で焦っているのを、デュオは鬱陶しく思った。アステルは呪術師としては中の上だが、戦闘では優柔不断になる傾向がある。基本的に気が弱い男なのだ。

『つかまっていろ』

 赤銅色の竜はアステルにそう言って、上向きに宙返りの軌道を取った。蒼い竜が追い付いてくる寸前で、胸を逸らせて急上昇し、反転して蒼い竜の上空へ飛ぶ。
 そのまま蒼い竜が通過するのを待って、蒼い竜の後ろに付こうとした。
 急速反転はそれなりに技術の要る技だ。反転する瞬間、体勢の入れ替えに集中したデュオは、蒼い竜の姿を見失った。姿勢を戻した時には、蒼い竜の姿は視界にない。

「上だ!」

 アステルが警告する。
 その瞬間、上空から蒼い竜が急降下してきた。
 デュオが宙返りしたとき、カケルは急停止して、垂直に上昇したのだ。速度を出している状況でもある程度小回りがきく、風竜ならではの荒技だった。

 竜の背でイヴが矢を構えている。
 赤銅色の竜の背でアステルも矢をつがえ、咄嗟に上空に向けて放った。だが、上に向かって放った矢は重力に引きずられて減速し、風に吹き散らされる。
 逆に上から下に向かって撃ったイヴの矢は、重力を味方に付けて真っ直ぐに赤銅色の竜の背に着弾した。

『糞っ!!』

 呆気ない幕切れに、デュオは悪態をつく。
 敗因はいくつもあった。竜の能力差もさることながら、搭乗者との連携不足もそのひとつだ。

 竜と竜騎士は絆を結んで、お互いの視界やリソースを共有できる。契約していない状態でも、竜は搭乗者の意識をある程度感じ取って行動できる。仲の良い竜と搭乗者はお互いの死角を補い合えるのだ。
 カケルが上空にいたことは、アステルはディオより一瞬早く気付いていた。もし同調して情報共有できていれば、一瞬早く回避なり防御なり出来たかもしれない。
 だが、デュオとアステルは仲が良いとは言い難く、彼等は十分に同調していなかった。

「僕達の負けだ」
『アステル!』
「負けてジタバタするのはみっともないよ、デュオ」

 アステルはそう言って、懐から鍵を取り出した。
 斜め向かいを飛ぶカケル達に向かってそれを放る。
 呪術で補助しているのか、鍵は綺麗な放物線を描いて、イヴの手元に届いた。

「ありがとうございます」
「礼を言うのは早いよ。最後の鍵を誰が持っているか、知ってるかい?」

 親切な上級生の言葉にイヴははっとする。

「まさか……!」
『寮長のセファン先輩ですよね』

 カケルは答えが分かっていると言わんばかりの調子で言った。
 向かいの竜の背でアステルは黙って微笑んだ。

『あの人は俺よりもずっと強い、レベルAの火竜だ。勝てると思うなよ』

 赤銅色の竜は唸るように言うと、緩やかに降下して飛び去った。


カケル「負け惜しみ乙」
イヴ「あんたちょっと黒いわよ。寝不足なの?」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ