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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.02 竜になったはいいもののパートナーを選べと言われて悩む俺

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08 合流しようか

 校舎前の時計は14時55分頃になっていた。
 ルークのチームメイト達と乱闘していたオルタナは、向かってきた3人の内1人を乱闘最初の数分で倒していた。残る2人を相手に、傍目には防戦一方のように見える戦いを延々と繰り広げている。
 しかし、本人達の顔をよくよく見れば、どちらが優勢なのか分からなくなるだろう。

 先輩2人の攻撃を避けつづけるオルタナは、犬歯を剥き出しにして笑っていた。一方、後輩におちょくられていると感じている獣人の生徒2人は、怒りと、攻撃が当たらない苦々しさが表れた面相になっている。

 後ろから戦況を見ていたルークは、止めなくていいかと思いつつあった。甚だ遺憾ながら、後輩の方が勝ちそうな雰囲気だ。

「ええい、ちょこまかとっ!」

 4年生の獣人達は左右前後からオルタナを挟み撃ちしようとしていたが、オルタナは小刻みな足裁きで体勢や位置取りを調整しつつ、彼等の間合いに入らないようにしている。
 余裕の笑みを浮かべつつも、その瞳には冷静な落ち着きがあった。彼はタイミングを計っていた。

 不意に、不自然な強風が巻き起こり、グラウンドの中央から赤いゴム風船が飛んで来て、乱闘中の獣人達の間に着地する。
 目の前に転がるゴム風船に、ルークも含め周囲の注意が風船に向いた。

「……すいませーん、ちょっと頂きます」
「はっ?」

 後ろの気配に気付いて振り返ったルークが見たのは、ふわふわ微笑むカケルの笑顔だった。彼の手には燦然と輝く鍵が二つ。
 ルークがズボンの尻ポケットに突っ込んでおいたキーホルダー付きの例の鍵を、風船に注意が向いた隙に霞めとったものらしい。

「これもチームプレイっすよね、ルーク先輩。俺ちゃんと、仲間と途中で合流するって言ったし」

 これはオルタナの声。
 彼は目の前に転がり込んだ風船を手に取ると、先ほどまで相手にしていた獣人の先輩から距離を取り、一目散に校舎裏に向かって駆け出す。
 ルークが状況を理解するまで数瞬を要した。
 その間にカケルも鍵を持って、オルタナとは反対方向に走り出している。

「失礼しましたー!」
「し、失礼し過ぎだろ! 待て、お前ら!!」

 焦った獣人達はどちらを追うか迷ったあげく、手近なオルタナを追う。急いで追いかける内に、校舎裏の花壇前にある長椅子にぶつかった。そこはちょうどぶつかりやすい位置に椅子があるので、生徒からの苦情が上がっていた場所だった。
 長椅子で寝ていた生徒が不快そうに起き上がる。
 寝ているところを邪魔された白銀の髪の生徒、スルトは、脇を走り抜けようとした獣人の生徒達の首根っこを掴んで引き止めた。

「……俺様の昼寝の邪魔しようとは、良い度胸じゃないか」
「スルト先輩っ、これには訳があって……ていうか、なんでこんなとこで寝てるんですか?! オルタナの奴は」
「ああ? ソレルは俺の昼寝場所を心得てるから、基本的に邪魔しに来ないぞ。それよりも、お前ら一体何やってんだ」
「何って、歓迎会っすよ! セファン先輩が言ってたじゃないですかー!!」

 そんなやり取りの間に、オルタナとカケルの姿は見えなくなってしまった。後から追ってきたルークは、スルトに首根っこを捕まれたチームメイトの状況を見てとると、立ち止まって嘆息した。

「やられたな……」

 彼は頭を掻いた。どこからどこまでが計算か知らないが、自分達はすっかり後輩の策に嵌まってしまったらしい。
 風船を追ってやってきた4年生のアリエルが、ルークに声を掛けた。

「今の子達、もしかして鍵を3つとも持って行ったの?」
「そうらしい。とんだダークホースさ」

 二人はカケル達を追わずに会話する。
 イエローカードぎりぎりの、だいぶ型破りな奪い方ではあったが、勝敗は決した。命懸けの勝負でもないし、わざわざ鍵を奪い返す理由はない。

 後ろの校庭では、3年生が「一体何がどうなってるんだ」と騒ぎ出している。小隊同士で対抗戦をすると、たまにこういったイレギュラーな作戦で戦況をひっくり返される事はあるが、経験の少ない3年生達は納得出来ないかもしれない。
 まんまと鍵を奪われて唖然としている4年生達も含め、どう騒ぎを収拾するか。考えながら、ルークとアリエルは来た道を引き返して行った。






 校舎裏の森に入ったオルタナは、追っ手が無いことを確認して立ち止まった。どうやら上手くいったらしい。
 手に持った風船を割って中の鍵を取り出す。
 事前にカケルと打ち合わせていたとはいえ、それは方向性だけだ。細かいところは「まあ、何とかなるでしょー」とカケルはあっさりしたものだった。その辺のアバウトっぷりは、オルタナの性に合っていた。細かい指示を貰うより、自分で考えて自由に動ける方がいい。

「カケルの奴は逃げ切れたかな」
「カケルがどうしたの?」
「うおっ」

 気がつくとリリーナが傍にいて、オルタナは驚く。
 リリーナはくすくす笑って言った。

「なあに、あんたらしくもない。私はずっとここにいたわよ」
「そうかよ」

 オルタナは気まずそうに返した。
 後ろから追っ手が来ないかばかり気にして、前方不注意だったようだ。
 改めて見ると、リリーナは片手の指でくるくると鍵を回していた。

「お前、それ」
「うふふ。5年生の先輩にお願いして譲って貰ったの」

 彼女は余った手を口元に添えて笑った。

「毎週水曜の放課後に何処で何をしてるか、皆に教えてちゃっても大丈夫ですか?って聞いたらどうぞって」
「脅迫じゃねえか」

 情報通のリリーナらしい戦い方だ。オルタナは顔をしかめて、こいつは敵に回さない方がいいなと思った。何が怖いって、殴って勝てない相手が一番怖い。

「なんだあ、リリーナ自分の分の鍵を確保しちゃったんだ。せっかく頑張って2個取って来たのに」
「カケル!」

 草むらを踏み分けてカケルが姿を現す。
 これでカケル達の鍵は合わせて4つになった。

「後1つで全部集まるな。へっ、楽勝じゃねえか」

 オルタナが鼻歌を歌いそうな風情で言うが、カケルがそれを否定する。

「いや、あと2つだよ」
「え? だって、グラウンドに3つ、校舎裏に2つだって、セファン先輩が言ってたよね」

 リリーナは歓迎会の最初の説明を思い出して首を傾げる。

「うん。でも、5つで全部だとは言ってなかった。ここで問題でーす。夏寮の5年生の小隊はいくつあるでしょう? リリーナなら知ってるよね」
「……あ、そうか」

 カケルの説明に、リリーナはポンと手を打った。
 考えるのが面倒くさいらしいオルタナはどうでもよさげだ。

「じゃああと2つなんだな。どっちから頂くんだ?」
「まあ順当にイヴのところから、かな」
「カケル……」

 当然のように答えるカケルに、リリーナは目を見張る。これ、本当にあのカケル?中身入れ替わったとかじゃないよね。
 実際は昼寝を邪魔された恨みで変な風にテンションが上がってるだけなのだが、リリーナはそんな事は知らない。
 カケルは気安い調子で告げた。

「まずはイヴに会いに行こうか」







 5年生のチームに入れて貰ったイヴは、校舎裏の森の中にいた。彼女は無意識に溜息をつく。
 顔見知りがデュオのみの状況で、馴染みのない上級生に囲まれて、流石のイヴも多少気後れしていた。それに、他の3年生は挑戦者側なのに、自分は高見の見物となってしまい、後ろめたい気持ちがある。
 契約を迫るデュオがぐいぐい押してくるのにも参った。
 正直、後悔している。認めたくはないが。

 イヴ達は森の中にある、特徴的な大岩の周囲に陣地を張っていた。歓迎会が始まって1時間以上経つのに、3年生達が来る様子が無いので、デュオ達は索敵の呪術も使わずにのんびりしている。
 彼等と一緒にいると気が詰まるイヴは「お手洗いに」と断って、その場を少し離れた。
 森の中を歩いて気を紛らわせる。
 暫くぼんやりしていたが、突然自分を呼ぶ声が聞こえてきて、我に返った。

「イヴ」

 声の方へ振り返ると、そこにいたのは同級生の青年だった。

「カケル? 貴方どうしてここに」
「イヴこそどうしたの。歓迎会の説明の時にいなかったけど」

 聞き返されてイヴは言葉に詰まった。
 ちょうど後ろめたく思っていたところだったのだ。

「私はちょっと……5年生の先輩のチームに入れて貰って……」
「ええー? ずるいなーイヴ」

 無邪気な糾弾がイヴの胸にグサリとくる。
 彼女の様子に気付いているのか、いないのか、カケルは口を尖らせて不満そうに続けた。

「俺達は鍵を取るのに必死に走り回ってるのに、イヴはここでのんびりかー」
「……」
「がっかりだな。イヴはそんな奴じゃないと思ってたのに」
「カケル?」

 青年の口調に少し冷ややかなものが混じって、違和感にイヴは流麗な眉をひそめた。

「楽して成績を上げるとか、そういうこと、君はしない方だと思ってたけど……俺の勘違いだったかな」

 いつもふわふわしているカケルらしくない鋭い指摘に、イヴは唇を噛んだ。腹立たしいが、彼の言う事は一理ある。今回、イヴは自分の行動に疑問を持っていた。
 彼女は深呼吸すると、自分の過ちを認める。
 その上で率直な返事をした。

「確かに貴方の言う通り、今回私はズルをしたわ。
 けど、それを貴方に言われるとは思ってなかった。カケル、貴方どうしたの? なんだかいつもと違うけど、変なものでも食べたの?」

 問い返すと、カケルは一転して締まりのない表情になった。

「やっぱそう思う? 自分でもちょっと、やり過ぎたかなーって思ってたんだよ。こんなの俺の柄じゃないしー」
「何言ってるのよ……。分かるように説明しなさい」

 言い訳のような事を言うカケルに、イヴは困惑して眉を上げた。

「うーん。取り合えずこれ見て」

 そう言ったカケルは、手に持った物体をしゃらしゃら鳴らした。彼の手には2つの鍵がある。

「オルタナとリリーナが1つずつ鍵を持ってる。俺達、合計で4つ鍵をゲットしたんだ。もう少しでコンプリート」
「嘘……」
「イヴが協力してくれたら、残りの鍵も手に入るんだけどなー?」

 そう言って、カケルは例のふわふわした顔で笑った。
 彼は阿呆だが、嘘つきではない。どうやったものか知らないが、本当に鍵の過半数を手に入れたらしい。自分が浮かない顔をしてこんなところでのんびりしている間に、彼等は先へ進んでいたのだ。イヴは悔しくなった。

「今の私は貴方のチームじゃないわよ」
「そうかな。セファン先輩は、歓迎会の最中にチームを決めても良いって言ってたよ」
「……それで口説いてるつもり?」
「そうだけど、やっぱり駄目かなあ」

 慣れない事をするもんじゃないなーなどと、ぶつぶつ呟くカケルに、イヴはおかしくなって少し笑った。

「いいえ。とても魅力的な誘い文句だわ。
 私にも協力させて頂戴」



 
カケル「前に出て活躍なんて俺の柄じゃないね。そろそろ昼寝させてー」
イヴ「何言ってるの、行くわよ!」
カケル「あぐぅー(襟首捕まれてドナドナされた)」
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