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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.02 竜になったはいいもののパートナーを選べと言われて悩む俺

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07 チーム戦だけどバラバラで…

 先に校庭に向かったオルタナは、広いグラウンドに出ると、そこに陣取る3つのチームを眺めた。
 先輩達のチームは、均等にグラウンドを三分割する位置に居座っている。制服の襟に入った線は4本。彼等は全員、4年生のようだった。

 向かってグラウンド左のチームは、人間が多いようだ。リーダーと思われる男子生徒は何故か白衣を着ている。胸のバッジからすると、彼は研究科のようだ。他のメンバーも、勉強をするのが好きそうな雰囲気の生徒が揃っている。彼等は一様にダルそうな表情をしていた。どうやら歓迎会に乗り気では無いらしい。

 グラウンド中央のチームは女子ばっかりだった。
 リーダーらしき女子生徒は、栗色の髪をポニーテールにしている。彼女は豊満な胸を見せ付けるように腕組みしている。気の強そうな女子達が戦意に満ちた表情で彼女の脇に控えていた。

 右端のチームは、過半数が獣人のチームだった。

 副寮長のイリアは種族が偏らないようにと言っていたが、任意だと結局、類は友を呼ぶようなチーム分けになるらしい。
 また、戦闘に及び腰な生産科や研究科の生徒は、空戦科や陸戦科の生徒と意見が合わない事がある。自然とチーム分けで、戦闘科と非戦闘科に分かれてしまっていた。

 オルタナはグラウンド右のチームに向かって歩いていく。
 一人で向かって来るオルタナの姿に気付いて、チームリーダーの鋼色の長髪の男子生徒が声を掛けた。

「おい、お前チームメンバーはどうした?」
「別にいいじゃないっすか、一人でも」

 鋼色の長髪の男子生徒は、ルークという名前だ。彼は血の気の多い獣人の友人達とチームを組んでいた。仲間達の間で一番真面目なので、リーダーをさせられている。
 ルークは投げやりな後輩の言葉に顔をしかめた。

「駄目だ。仲間と一緒に来い」
「別行動中で、後で合流するんですよ。皆で一緒に行動しなくてもいいだろ、別に。それともそういうルールなんすか?」

 確かにそういうルールではない。ただ、授業でも小隊を組んで、団体行動が評価されるので、先輩として、協調性を大事にしろと後輩に忠告したくなるだけだ。

「お前一人で俺達に挑む気か?」

 まさかと思いつつ聞くルークに、オルタナは犬歯を剥き出しにして笑った。

「先輩達全員で掛かってきて貰ってもいいっすよ」

 不敵な台詞に、様子を見ていたルークのチームのメンバーが憤慨して喚いた。

「大した自信じゃねえか!」
「生意気だな」
「ソレル、この間の借りを返させて貰うぜ!」

 血の気の多い獣人の男子生徒達は、オルタナの挑発に乗った。若干一名は私怨も入っているようだ。
 真面目なルークは慌てる。

「ちょっとお前ら、いくらなんでも後輩を皆でフルボッコは駄目だろ」
「はっ、掛かってこいよ!!」

 楽しげに叫ぶオルタナに、獣人の生徒3人が向かっていく。ルークは止めようとしたが、言うことを聞きやしない。獣人は短気で単純だ。
 かくして、校舎裏で不定期に開催されている喧嘩祭と同様の光景が目前に展開されるのであった。ルークの心労は推して知るべしである。







 グラウンド右側で乱闘が始まった頃、ようやく3年生の生徒達がチームごとに固まってぞろぞろと校庭に現れる。
 その様子を、カケルはグラウンドを見晴らせる木の枝の上で観察していた。

「ふあぁ、眠い……」

 彼は眠たげに呟くと、枝の上で寝そべる。リリーナに言った通り昼寝するつもりらしい。

 グラウンドに出た3年生の面々は、右側の乱闘に気付いて呆れると同時に、自分達が勝負する先輩チームが2つだけの事に気付いた。
 3年生のチームは3つ(カケル達は含めない)。
 その中には、先日の空戦科の事前説明会でカケルを起こした、クリスの姿もあった。

「おい、どうする? 先に校舎裏の森に行くか」

 1チーム対1チームで勝負するなら、単純計算で3年生のチームがひとつ余る。クリスはそれなら先に校舎裏の森に行くかと、仲間に提案した。
 すると、グラウンド中央で様子を見ていた先輩の女子生徒が、クリス達に声を掛ける。

「なあに、迷ってるの? 別に2チーム合同で掛かってきても構わないのよ」
「先輩。その場合、鍵は?」

 鍵はひとつしか無いのだ。
 そう聞くと、栗色のポニーテールをした女子生徒は華やかな笑顔を浮かべる。

「私はアリエル。このチームのリーダーで4年生よ。
 そうね、鍵はひとつしかないから、こういうのはどうかしら?」

 そういうとアリエルは、豊満な胸の谷間から鍵を取り出す。その動作の妖艶さに、クリス達男子は息を呑んだ。
 彼女はどこからか取り出したゴム風船に、鍵を入れて膨らませる。

「うふふ。お姉さん達とビーチバレーはどお?」
「是非お願いしますっ!」

 3年生の女子はドン引きしているが、クリス達男子はノリノリになった。隣の男子中心のもうひとつのチームも参加すると言う。
 アリエルのチームと、3年生の2つのチームは、鍵の入った風船を取り合うゲームをすることになった。

「呪術で風船が割れないようにしてるから、思い切り叩いても大丈夫よ。校舎前の時計が15時になった時に風船を持っていたチームが勝ちね。
 そうれっ!」

 彼女は風船を空中に放り投げる。ちなみにこの世界の時間単位は地球と同じと考えて貰って構わない。他に、幅の単位などは、厳密には違う単位があるが、地球と同じメートル法が主流だ。
 時間制限付きで、風船を巡って3チーム入り混じるゲームが始まった。

 そして、かしましいグラウンド中央と対照的に、グラウンド左側では静かな勝負が進行している。

「第二問、高天原インバウンドで海産物が有名な国は?」
「タレイア」

 4年生の研究科の学生中心チームと、3年生の生産科の学生中心のチームは、何でもありのクイズで対決するらしい。
 非戦闘科の生徒同士らしい戦い方である。
 本人達は真剣らしいが、第三者から見ていると余りの動きのなさに、カケルでなくても眠くなってくる。
 盛り上がらないまま、クイズは進み、3年生の敗色が濃厚になってきた。
 最初は学校の初等教育で出てきそうな地理や歴史に関する問題だった。しかし途中から4年生の研究科の生徒が、意地の悪いマニアックな問題を出しはじめた。3年生は生産科の集まりのチームだ。そんな偏った知識を持つ生徒はいない。

「東ユーダ帝国のフリード王が愛飲した紅茶の種類を答えよ」

 うつらうつらしていたカケルは、目を擦りながら起き上がった。
 枝越しにクイズ合戦の様子を伺う。
 3年生の生徒達は回答出来ずに苦しんでいるようだ。
 校舎前の時計は14時半頃を指している。

「どうした? 降参か?」

 白衣の生徒が意地悪く言う。彼は座学が好きな生徒達を集めてチームを組んでいた。名前はウィルと言う。ウィルは変人が集うと名高い研究科の、呪術学専攻の生徒だった。雑学が好きなため、クイズの後半は自分の趣味に偏った問題を出している。
 3年生の生徒達はチームメンバー全員で紅茶の種類をあれこれ挙げて考えたが、候補を絞り切れず、タイムアウトになった。

 ふむ。カケルは音を立てずに枝から飛び降りると、グラウンド左のクイズ大会に向かって歩き出した。
 絶望している3年生の同級生達の後ろから声を掛ける。

「フリード王が好きだったのは、オレガノ産のお茶だよ。それに、紅茶じゃなくて、ハーブティー」
「……正解だ」

 白衣の4年生、ウィルは突如割って入ったカケルに怪訝な顔をする。周囲の「なんだこいつ」という視線をものともせず、カケルは朗らかに言った。

「やー、なんだか楽しそうなことやってるね。俺も参加してもいい?」
「別に構わないが」

 戸惑いながらウィルは答える。彼はカケルをじろじろ眺めて考えた。状況から見て入寮の3年生のようだが、仲間は一体どこにいるのか。

「君一人で回答するのか?」
「うん。チームメイトはあっちで暴れててね。一人でも全問正解したら、鍵貰っていいよね」

 カケルは親指でグラウンドの右で暴れているオルタナを指す。ウィルは頷いた。

「身勝手なチームメイトで苦労するな。全問正解は無理だろうが、まあ、ゆっくりしていけ」

 なんだか同情された。勝手に背景を誤解しているらしい。
 カケルの自由さを知る3年生の同級生達は半眼になった。カケルの方はこれ幸いと誤解を解かずに話を進める。

「30問だっけ?」
「それはチーム戦だったからな。君一人だし20問でいいぞ」
「ありがとうございます」

 先ほどカケルの同級生を苦もなく下したウィルは、カケルの事をよく知らないので寛容になっていた。3年生の同級生達も、授業中寝ていてテストの点数も良くないカケルが、全問正解は有り得ないと思ったので、素直に場所を譲る。
 しかし、クイズが始まって、回答が進むにつれてその場の空気が変わった。

高天原インバウンドで最古の寺院は?」
「エラトスはメディエートのマスカル寺院。
 あ、教会じゃなくて寺院だよね。教会だったら西ユーダのウラヌス教会、神殿だったら中央山脈の大神殿フォールダウン

「呪術に使われる呪術文字で、アルファ配列の最後から二番目の文字の読みは?」
「ゼータ」

「エファラン建国のきっかけになった天空調停は創世暦何年?」
「1211年。ねえ、もうちょっと難しい問題出してくださいよー」

 4年生の生徒達の顔が引き攣る。
 既に10問以上の問題が出されたが、カケルは考え込む様子すら見せずに即答している。予想外の展開に、3年生の同級生達も唖然としていた。

「うぐぐ……アオイデの名物料理の手巻き寿司で使われる海苔の原料は」
「サビノリって海藻。俺のこの髪の色で、アオイデらへんの血を引いてるって分かりますよね」
「くっ、僕としたことが」

 問題はマニアック度合いを増していたが、カケルはさらさらと淀みなく回答した。ついでに入れる茶々に、ウィルが盛大に悔しがる。

 ここだけの話、カケルの実家である七司書家は、図書館の運営に携わる一族でもあり、家の名前通り書物に精通している。その七司書家の継嗣であったカケルは、この世界の過半数の図書の内容を英才教育で叩き込まれていた。雑学クイズなど、答えられない訳が無いのだ。
 しかしそんな事は当然、この場の生徒達は知らない。
 カケルの快進撃はいつまで続くのか、いつの間にかその場の生徒達は手に汗を握っていた。

「人は地に、獣は森に、飛翔せる竜は虚空にこそ輝く……この文章が出てくる書物のタイトルと、出てくる頁数を述べよ」

 ついに最後の問題となり、ウィルは額に汗を流しながらこれまでに無い難問を繰り出した。普通は、本の題名はともかく、頁数までは覚えていないだろう。
 苦し紛れの出題に、カケルは涼しい顔をして答える。

「ノルニルの武勲、第二版の109頁」
「ぐぉおおー!」

 ウィルは呻いて大袈裟に崩れ落ちた。

「この僕が、本のお尻かじり虫と言われたこの僕が負けるとは!」
「ウィル……最後の方ばっか読んでるからだよ」
「大丈夫、負けてもウィルが変なのは変わらない」

 4年生のチームメイト達は口々にリーダーを慰める。
 カケルは、崩れ落ちているウィルに近寄って、俯く彼に手を差し出した。
 それは戦いの最後に、和解の握手を求めているようにも見えたが。

「鍵ください」
「……情緒のない奴だな君は」

 がっくりしながらウィルはカケルに鍵を手渡した。
 思わぬ展開に空いた口が塞がらない同級生達を放って、カケルはふらふらと歩き始める。彼の向かう先には、獣人の生徒と乱闘するオルタナの姿があった。


 
作者「うおぉぉ、おしりかじり虫のBGMが頭から離れないぃー」
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