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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.01 君に出会った時から俺の(昼寝)人生設計が崩れ始めた

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01 昼寝大好きです

 学校に登校してきたカケルは、がらんとした教室を見回して首を傾げた。
 紺色の短い髪をがしがしかきながら考え込む。彼は、高天原インバウンドの北国アオイデの血を引く者に多い、黒に近い髪と明るい榛色の瞳をしていた。

「あれ……? 今日は休みだっけ」

 ここはエファランの王都レグルスにある、レグルス王立中央学校である。カケルはこの学校の3年生で、毎朝授業が始まるぎりぎりに登校する。いつも遅刻寸前で登校する彼を生暖かい目で迎える同級生達の姿が、今朝は見当たらない。
 教室に一人佇んでいると、後ろから声が掛かる。

「今日は建国の祝典で、学生は全員参加で王城前広場に集まっとる。昨日に教師から説明が無かったか?」

 振り返ると白髪のじい様が呆れた顔でカケルを見ていた。
 じい様は学校の用務員さんだ。

「いっけねー、忘れてた!」

 指摘されて思い出したカケルは、鞄を持って教室を飛び出した。2階から階段を降りようとするが、ふと面倒臭くなって、階段の前の窓を開けて、窓枠に足を掛ける。

「こら、きちんと玄関からでんか!」
「面倒くせー」

 怒るじい様を無視して、カケルはひらりと2階の窓から飛び降りた。なんでもないように着地すると、鞄を片手に走り出す。

「ってか、このままだと、式典に間に合わないな」

 昨日の教師の説明を思い出して、カケルは一人ごちた。
 彼は足早に学校の敷地から出ると、公道に寝そべる巨大な生き物に声を掛ける。

「なあ、乗せていって!」

 綺麗に整備された道を塞ぐように横たわっているのは、モスグリーンの体色をした生き物だった。トカゲのような四肢と尻尾は、固くて滑らかな鱗に包まれている。しかしトカゲとは違い、肩から鋭角を結ぶ曲線で構成されたコウモリの形の翼が生えていた。
 公道に横たわっているのは、竜と呼ばれる生き物だった。
 腹這いになって寝ていた竜は、カケルの呼び掛けに渋々目を開けてのっそり首を上げる。

『なんだ小僧、遅刻か?』
「うん。いや、違うんだよ、遅刻する前の段階。中央広場の手前まで連れてって欲しいんだ」

 頼むと、竜は寝かせていた翼を広げる。
 その動作を了承と受け取って、カケルは身軽にひょいと竜の背によじ登った。

「ありがとう! 恩に着る。俺も大人になったら、おっちゃんみたいな立派な騎竜になるな!」
『お、おお』

 礼を言われて、カケルの後半の台詞に引っ掛かりを覚えた竜は躊躇いまじりの返事をするが、カケルは聞いていなかった。これで間に合うとルンルン気分である。
 モスグリーンの竜は、街の上を建物の隙間を縫って低空飛行を始めた。



 竜に乗せて貰って何とか式典に間に合ったカケルは、何食わぬ顔をして、学生の列の最後尾に加わった。
 その気配を感じた教師が顔をしかめてカケルを見るが、式典の最中なので何も言わなかった。

「…なんで遅れてきたの? ひょっとして忘れてた?」

 近くにいた緑の髪の少女が話しかけてくる。彼女は同じクラスのリリーナだ。
 ひそひそ声の少女に合わせるように、カケルも小さな声で答えた。

「おお、すっかり忘れてた」

 内緒話をするカケル達を、鋭い視線が貫く。
 咎めるような強い視線にカケルは視線の主を探した。

 最前列で並ぶ女子生徒が、空色の瞳に敵意を込めてカケルを睨んでいる。
 その女子生徒は腰まで届く見事なストロベリーブロンドの持ち主で、光を集めたような金髪は見る角度によって赤みがかって見える。健康的な小麦色の肌に、明るくて濃い空色の瞳。ややきつめの、意思の強さを感じさせる顔つきだが、それは別に彼女の美しさを損なう程ではない。

「うっ、あいつか……」

 彼女はいわゆる優等生で、成績は下から数えた方が早くしかもそれを気にしていないカケルの天敵のような存在だった。
 何事も適当で、面白ければいいと思っているカケルに対して、彼女はいつも真剣で、勉学に武術に全力で打ち込んでいる。

 彼女の名は、イヴ・アラクサラ。

 やんごとなき家の血を引くという噂の才女で、竜騎士を目指しているらしい。
 瞳が合って一瞬睨み合った二人だが、すぐにイヴは視線を逸らして式典に向き直った。

「なんだよ」

 何故か物足りないような気持ちになって、カケルは密かにふて腐れた。
 広場を見晴らせるテラスの上では、国のお偉いさんが建国記念日について長々と演説している。
 欠伸を噛み殺しながら、カケルは長広舌を聞き流した。




 やがて式典が終わり、学生達はそれぞれのクラスに纏まって学校に移動し始めた。
 カケルも彼等と一緒に移動しようとするが、目敏い教師に捕まって小言をくらった。

「カケル・サーフェス! 君は、連絡事項を全く聞いてないのかな。何回も連絡している筈だが、休んでいたのかな?」
「いや、そういう訳じゃ……」
「毎日きちんと出席していたなら、何故、重要な連絡を忘れていたのか聞かせて貰おうか。ついでに、その雲より軽い脳みそに重要事項を忘れずに叩き込む方法を一緒に考えよう」

 青筋を立てる教師は、カケルが反省するまで離してくれなそうだ。退路を探して見回すと、見知った人物が通り掛かったので声をかける。

「あ、ロンド兄!」
「ん?」

 眼鏡を掛けたダークブラウンの髪の、落ち着いた雰囲気の青年が立ち止まる。眼鏡の奥のヘーゼルの瞳がカケルを見た。

「カケル……。それに先生、どうされました?」
「ああロンド君、カケル君が今日の式典に遅刻してきたので注意していたところです」

 背の高い青年の理知的な様子に、教師はカケルに見せていたのとは違う態度をとる。
 ロンドは苦笑して教師に言った。

「先生、時間は大丈夫ですか? カケルには僕からよく言っておきますんで、授業の準備に行ってください」
「前から思っていたが、君はカケル君に甘すぎないか。もう少し厳しくしても良いと思うが。しかし、君の言うとおり時間はない。カケル君をよろしく頼むよ」
「はい、今回は厳しく言っておきますんで」

 青年が頭を下げると、教師は頷いてそそくさと去っていった。
 カケルは汗を拭う動作をする。

「はぁ、助かったよ、ロンド兄……痛っ。」
「いい加減にしろよ。ちょっとは協調性とか、規則を守るとか、そういう基本的な事を身につけろ」

 頭を叩かれて、背の高い青年を見上げるとあきれ顔で諭された。ロンドはカケルがエファランに引っ越してきたときのお隣りさんで、かれこれ5年程度の付き合いになる。
 面倒見の良い彼を、カケルは兄貴と呼んで慕っていた。

「授業も、もう少し真面目に聞いたらどうだ?」
「ええー、俺、一般の騎竜になって道で昼寝をするのが夢だから、勉強とか必要ないのに」
「……そんな寝ぼけたこと言ってるのは、お前くらいだぞ」

 ロンドはこめかみを揉みながら嘆息した。 
 成人の種族の選択で、カケルは竜になりたいと言っている。
 別にそれはいい。問題なのは、竜になる目的だ。道端に寝転がって昼寝したいから、竜になるとは、いかがなものか。

「朝から晩まで一生懸命働くのやだよー。竜になって、毎日お昼寝してのんびりまったりエコライフを楽しむんだ」
「エコライフ……」
「ワークライフバランスのライフを充実させるのさ!」

 むっふん。カケルは鼻息荒く解説する。
 誤解を招きかねない発言だが、すべからく竜は昼寝をする生き物という訳では決してない。

 竜と言えば、火を噴いたり風を起こしたりできる種族だ。実は、そのような現象が起こせるのは一握りの才能を持った竜だけである。彼等は竜騎士と契約して国を守る戦務騎竜になる。
 それ以外の平均的な竜は概ね、巨体を生かして荷物持ちをしたり、地球でいう飛行機やタクシーの代わりになって、人を乗せて空を飛ぶ職業に就く。
 一部、仕事をするのは面倒臭いという連中もいて、彼等が道路に寝そべって昼寝をしていた。竜は寝ていれば人間ほど食べなくても生きていけるからだ。彼等は竜への進化が流行った年代の落ちこぼれで、世間ではごく潰しとして冷たい目で見られていた。
 朝にカケルを運んだ竜がカケルの台詞に戸惑っていたのも、新手の冷やかしかと受け取ったせいである。

「俺、将来は昼寝同盟を作るんだ! 雨の日も外で寝れるようにアーケードを作るんだよ」

 拳を握って力説するカケルは真剣だ。
 ロンドは何と言えばいいか分からず、ちょっと途方にくれた。


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