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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.02 竜になったはいいもののパートナーを選べと言われて悩む俺

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04 竜の魔力レベルについて

「……起きろっ!」

 思い切り寝台から蹴り落とされて、カケルは額にたんこぶをこさえて床から起き上がった。
 見上げると寮で同室になったオルタナが、額に青筋を浮かべて仁王立ちしていた。

「普通に声掛けるだけでなんで起きれねえんだよ、お前は!」
「やー、オルトの声を聞くと何だか安心するんだよね……」
「寝んなっ!」

 懲りずにこっくりと船を漕ぎかけるカケルに、オルタナは胸の前で拳を作った。

「そうか、そんなに俺の声がイイなら、もっと遠い天国にいかせてやろうか?」
「……起きます。ゴメンなさい」

 本気の声で死ぬほど殴ると警告されて、さすがのカケルも目が覚めた。もそもそと謝罪して着替えを始める。
 制服を手に取りながら、カケルは首を傾げた。

「あれ? そういえば、オルト、いつもは起こしてくれないのに、今日はなんで起こしてくれたの」

 その疑問に、部屋から出て行こうとしていたオルタナが振り返って、呆れた顔で嘆息した。

「お前なぁ。今日は4年生からの選択科目の、事前説明会がある日じゃねえか。ロンド先輩が、今日だけは遅れんなって言ってたぞ」
「選択科目……空戦科。やっぱり寝直しちゃ駄目かな」
「好きにしろよ。まあ、お前がここで逃げるような奴だったら、もう二度と起こさないけどな」
「オルト、厳しい……」

 手厳しくも親切な言葉に、カケルは半泣きで準備をした。
 急かすオルタナと一緒に寮を出る。

「オルトは陸戦科志望だっけ?」
「ああ。お前は空戦科か。サボるのは別にいいが、程々にしろよ」
「別にいいんだ」

 それならサボらせてくれたって良いのに、と思いながら、カケルは手を振って校舎前でオルタナと別れた。

 気が乗らないながら、鞄から資料を取り出して、説明会が開催される教室を確認する。どうやら、空戦科は、竜騎士志望の人間と、騎竜志望の竜を分けて説明を実施しているらしく、二つ教室の場所が書いてあった。
 会場が別ということは、イヴとは顔を合わせ無くて良いということだ。なぜかカケルはほっとしたような、物足りないような複雑な気分になった。
 イヴは関係ないだろう。頭を振って気分を切り替えて、騎竜向けの説明会会場になっている教室に入る。

 ばらばらと十数人の生徒が、適当な椅子に座って資料を眺めている。カケルは後ろの方の席を選んで座った。

「あれ? カケルじゃん。お前は生産科だって言ってなかったっけ」

 同級生の青年が目敏くカケルに気付いて声を掛けてくる。
 彼はクリスという名前だ。特別カケルと親しい訳ではないが、3年生のクラス分けが同じなので話すこともあるという、まあそんな関係だ。クリスは抹茶色の髪に茶色の瞳で、カケルよりは背が高い。テストでは平均的な点を取り、格別これと言って特徴もない、ごく一般的な生徒である。
 カケルは面倒臭そうに答えた。

「ちょっと事情があってさ。クリスはなんで空戦科?」
「なんでって、竜騎士の騎竜って格好良いじゃん。
 それに空軍に就職したら将来安泰、食うに困らんし」
「ふーん」

 クリスの言ったことは、空戦科および竜騎士に対しての一般的な認識だった。危険と隣り合わせの軍人を目指す理由、それは高給取りになれる、格好良いし権力を持てる、または活躍すれば有名になれる、だいたいそのあたりだ。
 カケルにとってはどれも魅力的ではない報酬である。

 雑談していると、教室に教師らしきスーツ姿の女性が入ってきた。途端に生徒達は黙って席につく。

「……ここは、空戦科の騎竜を目指す生徒への事前説明会の会場です。間違って入ってきた生徒がいたら退出してください。」

 彼女は冴えた声で淡々と言った。
 誰も退出しないことを確認すると、彼女は生徒を見回して続ける。

「私は空戦科教師のステラ・ノクターンです。
 種族は皆さんと同じ竜です」

 ステラの声は楽器のように高く硬質な響きだった。
 短い艶のある黒髪はウェーブして白い頬にかかっている。瞳は薄い紫色。瞳に合わせたのか、スーツも暗くて品の良い紫色だった。地味な格好だが野暮には見えない。彼女は月影の花のように、涼やかで可憐な印象の女性だった。

「空戦科の騎竜に求められるのは、一般の騎竜より高度な飛行技術、戦闘に関する知識と、人の姿でも最低限戦える護身術です。飛行技術に関しては、まずは一般の騎竜と同じく、人を乗せて安全に空を飛ぶ技術を……」

 聞いていて、カケルは早速眠くなってきた。
 他の生徒や教師が見ていないことを良いことに、頬杖をついたままの姿勢で寝はじめる。

「……そのような訳で、空戦科の騎竜と一般の騎竜の違いは、魔力を持っているかどうかになります。魔力が強い程、戦いでは有利になります」

 カケルが寝ている間も講義は続いている。
 教師は空戦科で教える内容について説明した後、竜の魔力について話し出した。

「竜の魔力の強さは、大まかに3段階で評価されます。
 レベルA以上は、炎や水などを自在に操り、天候さえ変える強さを持ちます。レベルBは、炎を吹き出して攻撃する等、戦いに最低限必要な能力を持っています。レベルCは飛翔に必要な魔力だけで、攻撃に使えるような魔力を持っていません 」

 竜の魔法、炎や水で攻撃する魔力は、見た目に派手で実際の破壊力もあり、一般的には憧れる能力だ。
 生徒達は身を乗り出してステラの説明に聞き入った。
 カケルは寝ている。

「残念ながら、現在最も多いのはレベルCの騎竜です。もし、これからする判定でレベルCだったとしても気落ちしないで下さい。魔力は努力すればレベルBまでは成長する可能性があります」

 ステラは続けた。

「竜の魔力には属性があります。地水火風と、そこから派生する属性がいくつか。無属性ということはありえません。自分の属性によっては使えない技もあるので、属性は重要です」

 彼女は説明しながら、机に円形の台を置いた。平たい台の表面には時計の文字盤のように、細かい文字や記号が円に沿って彫られている。

「それではこれから、この計測器で、魔力と属性の判定をします。名前を呼んだら前に出て来て、この台の上に手を乗せて下さい」

 生徒はざわめいた。生徒の中には、既に他の場所で測定を終えた者もいたが、こうして大勢の前に判定結果を晒されるとなると、他の生徒の能力が気になるものだ。
 教師の呼ぶ声に応えて次々と生徒が前に出て、他の生徒に注目される中、判定を受けていく。
 やはり圧倒的にレベルCと判定される竜が多く、たまにレベルBが出ると歓声があがった。判定は次々終わり、カケルの番になる。

「次。カケル・サーフェス」

 生徒がしーんと静まり返った。
 近くの生徒が寝ているカケルを見て顔を引き攣らせる。親切な生徒が「起こしてやれよ」と言い、クリスが仕方なく、カケルの肩をつついた。

「おい、起きろよ……」
「うーん」

 つつかれて目が覚めたカケルは、衆目の中で背伸びをして、寝ぼけ眼を擦った。

「カケル・サーフェス」
「……はい、なんですか?」

 講義を聞いていなかったカケルは首を傾げる。
 ステラは冷たい表情で冴えた声を出した。

「やる気がないなら、帰ってもいいわよ」
「本当ですか?!」

 聞いていた周囲の生徒は一斉に心の中で突っ込みを入れた。
 馬鹿野郎、言葉通りに受けとる奴がいるか、と。
 ここにいた。

「じゃあ、俺、先に帰りますね!」

 喜色満面で声をあげるカケル。
 対するステラ教師は、怒るでもなく、笑うでもなく、無表情に言った。

「どうぞ、お好きに。君の判定は分かっているし、もういいわ」
「ありがとうございます。お先に失礼しますー」

 立ち上がったカケルはぺこりと頭を下げて、唖然とする周囲の生徒の視線を全く気にせず、鞄を持って教室を出て行った。
 限りなくマイペースなカケルの背を見送った生徒達は、あいつは落第決定だな、と思った。魔力レベルも大したことないから、ステラは「もういい」と言ったのだろう、と。

「次。クリス・ハイライト」
「はい!」

 自由過ぎる級友に呆然としていたクリスは我に返って返事をした。
 クリスを呼びながら、ステラは手元の、生徒の判定結果を記録する書類にさらさらと必要事項を記入して、次の頁へ移った。


 ――カケル・サーフェス 属性:風
   魔力レベルA 判定済








 説明会のあった日の夕方、カケルは寮に帰って、夏寮に付属する食堂に来ていた。食堂で食事が提供される時間帯は決まっていて、それ以外の時間は有料になる。必然的にほとんどの寮生が、同じ時間に食堂で顔を合わせることになっていた。
 食堂を見回すと、特徴のある金髪頭を見つけたので、カケルは食事の乗ったトレーを持って、彼の隣の空いている席に座った。

「オルト、野菜嫌いなの?」
「こんなもん、俺様の食べるもんじゃねえ」

 オルタナはむっつりと皿の上の野菜類をフォークでつついた。竜と獣人には野菜嫌いが多い。かくいうカケルも、竜に覚醒してから野菜より肉が美味と感じるようになっていた。
 隣に座ったカケルを横目で見ると、オルタナはフォークを指先でくるりと回した。

「あそこ見ろよ」

 彼が行儀悪くもフォークで示した先を見ると、光を束ねたような派手なストロベリーブロンドの女生徒の姿が目に入った。
 イヴ・アラクサラだ。
 向かいの席に座っているのは、リリーナだろう。彼女達は、カケル達とは向かいの壁際の席で談笑している。

「結局、同じ寮になったみたいだぜ」

 オルタナが仏頂面で言った。
 寮は4階以上が女子専用になっていて、男子は立入禁止だ。ちなみに寮の部屋は、2人一組で一つの部屋を使う仕様で、簡単な風呂とトイレが付いている。
 男女が同じ建物で住んでいる割には、きっちり生活場所が分けられていて、彼女達と会う場所は食堂くらいだ。

「聞いたか? 野外演習は、寮決めのためだったとか。また同じチームで小隊組めとか、かったるいな」
「同感」

 野外演習は思わぬハプニングに全員で協力して立ち向かったため、最後は良い雰囲気だった。しかし、非日常ゆえに許される連帯感というものがある。毎日顔を合わせるとなると、話が別なのだ。
 カケルとオルタナは自身の素行を振り返って、女子に毎日文句を言われるのは嫌だと思っていた。

「……はいはいっ、注目ーー!」

 突然食堂の奥でパンパンと手が叩く音とともに、快活な男性の声が響いた。食堂内の寮生は彼に注目する。

「3年生の諸君、寮の雰囲気には慣れてきたかなー?
 俺は夏寮の寮長のセファンだ。困ったことがあったら俺まで相談よろしく! ちなみに女子の方は――」
「副寮長のイリア・マクセランです。女子の方の相談は私までお願いします」

 ひょろっと背の高い男子生徒がおどけながら、寮長だと自己紹介する。セファンは明るい雰囲気の、オレンジ色の髪の青年だ。
 続いて隣の眼鏡を掛けた女子生徒が、冷静な口調で自己紹介を述べる。彼女は長い髪を三つ編みにして、両脇に垂らしていた。
 近くのテーブルの男子が、セファンに向かって「いきなり過ぎるだろ」「滑ってんぞ」などと野次を飛ばす。セファンは人気者のようだ。

「んー、声援ありがとー! いきなりで悪いけど、来週あたりに今回入寮してきた奴の歓迎会イベントするから」
「!」

 唐突な自己紹介は、どうやら歓迎会の予告のためだったらしい。3年生は、戸惑いながらセファンの次の言葉を待つ。

「歓迎会イベントは、ちょっとした模擬戦みたいにする予定だ。というのは、歓迎会イベントで、自分の小隊を決めて欲しいんだな。野外演習で一緒だった奴と組んでもいいし、別の奴と組んでもいい」

 小隊を組めと言われて、3年生の間にざわめきが起こった。
 野外演習と一緒でなくて良いとの言葉に、オルタナは少しほっとしているようだ。
 セファンと同じテーブルの端にいた白銀の髪の生徒が横やりを入れる。

「腕に自信があるなら、俺様みたいに単独でもいいんだぜ」
「スルトのような例外はともかくとして、3人以上6人以内で、一つの小隊を作って下さい。その際に種族が偏らないように注意してください。竜は各小隊につき一体のみ可とします」

 白銀の髪の生徒、スルトの言葉に重ねるようにして、イリアが説明をする。
 セファンが陽気に締めくくった。

「詳しくはまた後日案内するぜー! 以上、連絡でしたー」

 彼が元の席に座ると、食堂にざわめきが戻った。
 カケルとオルタナも食事に戻る。
 小隊をどうするか、ぼんやり考えるカケル達のテーブルに、長い髪を靡かせてイヴが近寄ってきた。リリーナも一緒だ。

「……野外演習と同じチームでなくて、良いそうね」
「みたいだな」

 イヴの言葉にオルタナが眉を上げて同意した。

「演習はともかく、日常生活までてめえに口を出されるのはごめんだぜ」
「あら、奇遇ね。私も問題児の面倒みさせられるのはごめんだわ。ただでさえ、忙しいのに」

 オルタナとイヴの間で火花が散った。
 後ろでリリーナがはらはらして様子を見ている。
 カケルはふわふわした表情でぼうっとしていた。

「はっ、今度は望み通り、お綺麗で頭のめでたい連中を集めて組むんだな。俺は一人で十分だぜ」
「ええ、そうさせて貰うわ」

 イヴは横目でぎろりとカケルを一瞥すると、足早にテーブルから去って行った。彼女が離れてから、オルタナも椅子を引いて立ち上がる。

「先に戻るぜ」

 トレーを持って去るオルタナ。
 後にはぽけっとしたカケルと、イヴの後ろで様子を見ていたリリーナが残される。リリーナは、音を立ててテーブルを叩くとカケルに詰め寄った。

「これでいいの!?」
「え?」
「え、じゃないわよ。カケルあんた、リーダーでしょ!」

 リリーナは豪快にカケルの襟首を掴んでかっくんかっくん揺さぶった。揺さぶられながら、カケルは思った。

 あれ? 俺ってリーダーだったっけ。



作者「ぐああ、せっかく同じ寮にしたのに、またしてもバラバラにっ! こいつらはぁ~(ポキっとペンを折る音)」
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