挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.02 竜になったはいいもののパートナーを選べと言われて悩む俺

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

16/160

03 学校の寮に入ります

 カケルの住まいは王都の中にある。学校に近いので通学に便利な場所だ。
 12歳の頃に実家を飛び出してから、カケルは親戚の叔父の家に身を寄せていた。叔父は呪術師だが、七司書家セブン・ライブラリアンの中では才能が無いと判断されたため、遠くエファランで自由気ままに生きる道を選んだのだ。
 そういう訳で、家出したカケルが転がり込むにあたって、カケルの叔父のソウマは特に家出に反対することなく彼を受け入れた。とは言ってもソウマは独身貴族を謳歌していたので、子育てや共同生活に関する知識に疎い。カケルの受け入れには様々なごたごたがあったのだが、何とか騒動を乗り越えて、二人は仲良く生活している。
 ソウマは研究肌の呪術師で、家の中でも呪術師らしい暗い色のローブを着用している。ローブは所々擦り切れて汚れていたが、本人は特に気にしていない。顎に無精ひげを生やして、いつも眠たそうに目をしょぼしょぼさせている。しかし、眠たそうな外見に反してソウマは意外と行動派だ。
 近所に住んでいるロンドから、カケルが竜になったと聞いた彼は、早速祝いのケーキを用意していた。

「カケル、成人おめでとう」
「ありがとう」

 この世界では、自分の種族を選んだときが成人だ。
 種族の選択は後戻りがきかない。文字通り、一生に一度の選択なので、この世界の人間にとってはひとつの人生の節目にあたる。
 叔父に祝われて、カケルは素直に感謝の言葉を述べて照れ臭そうに俯く。

「こいつ、女の子を庇って一緒に崖から落ちた時に、竜に覚醒したんですよ」
「ほう。そいつはスリリングでドラマチックな成人の仕方だな」

 ご近所に住むカケルの兄貴分のロンドはちゃっかり祝いの席に同席している。
 面倒見が良く、親切な彼はカケルが竜になった経緯について叔父に説明してくれた。
 あの時は必死になっていたから気付かなかったが、確かに珍しい覚醒の仕方かもしれない。他人のロンドの口から語られると、流石のカケルも気恥ずかしい。

「それで、うちのカケルの成人に居合わせた、幸運?なお嬢さんはどこのどなたなんだ。礼を言わなければ」
「イヴ・アラクサラです。ちょうど竜騎士を目指してる珍しい女の子なんで、そのまま契約してもいいかと……」

 ソウマは、イヴの名前を聞いたところで飲みかけの茶を噴きだした。

「ぐはっ!」
「大丈夫ですか?」
「ちょっとロンド兄、契約の件、勝手に決めないでくれよ。……叔父さん、茶のお代わりいる?」

 何故か叔父は激しく動揺した。ロンドはさりげなく雑巾を取ってきて机を拭き、カケルは器に茶を注ぎ直す。

「ごほん。あー、ありがとう。しかし、焦って契約をしなくても良いんじゃないかね」
「おっしゃる通りですが、カケルの場合、魔力が強い竜に覚醒してますからね。ご存知でしょう、魔力の強い竜ほど、搭乗者に同調して引きずられやすいことは」
「ううむ」

 ロンドの補足に、ソウマは困った顔で唸った。

「そうだな。いずれは決めねばならないことだ。だが、今はとりあえず成人を祝おうじゃないか。」

 ソウマからは、何かごまかしているような気配がしたが、ロンドは深く追求せずに「そうですね」と同意した。
 やがて卓上の料理が片付くと、ロンドは近所にある自分の家に帰って行った。
 室内に二人きりになると、ソウマは難しい顔で言う。

「……その、アラクサラ家のお嬢さんは、お前の実家のことは知ってるのかい?」
「知らないよ。魔眼のことを話したから、七司書家と関係がある家の子くらいに思ってるんじゃないかな。あれ、アラクサラって、やっぱり有名な家だったりするの?」
「お前の実家程ではないがな。エファランの呪術師の筆頭だ。七司書家と敵対する派閥のリーダーでもある」
「へえー」

 カケルは例のふわふわした表情で何でもないように相槌を打ったが、これは実はとんでもないことだった。

 そもそも七司書家セブン・ライブラリアンとは、世界に12冊しかない呪術書アーカイブの内の7冊を占有する呪術師の一族のことだ。
 昔は呪術書アーカイブが無ければ呪術師になれなかったため、事実上、呪術師を支配する一族だった。

 状況が変わったのは数百年前。
 呪術書アーカイブ無しに呪術師になる方法が開発されたため、呪術師の人口は爆発的に多くなる。それで七司書家の支配力が無くなったかと言えば、そうでもなかった。七司書家は彼等独自の呪術を開発して、今でも強い権力を持っている。魔眼は七司書家独自の技術のひとつだ。

 アラクサラ家は、呪術書アーカイブ無しに呪術師になる技術を開発した一派の中心で、真正面から七司書家と敵対している。

「私は傍系だし、今は特に七司書家と関わりが無いから別にいいが……お前は七司書家の直系男子じゃないか」
「元、ね」
「アラクサラの子供と契約すると、お互いの背景が分かった時に騒ぎになるぞ」

 未来を思って頭を抱える叔父に、カケルはふわふわ笑って言った。

「大丈夫。イヴ・アラクサラと契約する予定は無いから」
「……それならいいが」

 ソウマは眉を下げてカケルを見る。
 彼は、どちらにせよ将来に一波乱起きることを覚悟しなければならないなと考えていた。このカケルは見た目はふわふわしているし、中身も阿呆だが、何とかと天才は紙一重を地で行っている。元は七司書家では将来を嘱望された麒麟児だったのだ。
 どんなかたちにせよ、その背景や実力が明らかになった日にはただでは済まないだろう。

「そんなことより、成人したら、学校の寮に入るらしいよ」
「そうだったな。そうか、成人か」

 学校の寮に入るということは、この家を出るということだ。来月からこの家に自分一人だと思うと、ソウマは何だか寂しい気持ちになった。

「週末には帰ってくるよな?」
「お土産持って帰るよ。……主に食べ物をね」
「息子よっ!」

 叔父は両腕を広げてカケルを抱擁した。独身のソウマは手料理に飢えている。カケルは元は身の回りのことは何もできないお坊ちゃまだったが、家出してから必要に迫られて家事を一通り習得していた。
 それから数日後、荷物を纏めたカケルは手続きを終えて、学校の寮に入ることになった。





 4年生以降の寮は4つあって、それぞれ季節名で、春・夏・秋・冬となっている。1つの寮で50人程度の生徒が入っていて、寮ごとに食堂があるなど、かなり大きな建物だ。
 寮では、定期的にひとつの寮をひとつの部隊に見立てた寮対抗戦が開催されている。エファランは葦原国アウトバウンドのため、常にモンスターの脅威に晒されている。寮対抗戦は、有事に備えて子供を鍛える教育の一環だった。

 カケルに割り当てられた寮は夏寮だった。

 5階建ての大きな夏寮の建物の前に立って、カケルは玄関はどこだろうと、のんびり考えていた。

「……お前、これから入寮する3年生か?」

 ぼうっとしていると先輩らしき生徒に声を掛けられる。
 声を掛けてきたのは、白銀の髪の少女と見間違う容貌をした男子生徒だった。

「はい、そうです」
「種族は……竜か。ふーん」

 こちらをじろじろ見る白銀の髪の生徒は、カケルが竜だと自己紹介する前に見破ってきた。獣人は感覚が鋭いらしいから、分かるのかもしれない。
 玄関がどこか教えてくれないかな、と思っていると、白銀の髪の生徒は無造作に距離を詰めてきた。

「え?」

 なんとその生徒はカケルに向かって回し蹴りを放ってきた。
 咄嗟に何とか鼻先で避けたが、いつの間にか後ろに回り込まれていて、背中を蹴り飛ばされる。
 カケルは避け切れずに地面と接吻することになった。

「うわっ!」
「なんだ、弱いな」

 白銀の髪の生徒は地面に倒れたカケルを見下ろして、詰まらなさそうに呟くと、足早にその場を去った。
 なんなんだ、一体。

「……おーい、生きてるか?」
「オルト」

 呆然としていると、いつの間に近くにいたのか、オルタナが倒れたカケルを覗き込んでいた。
 彼はこの間のキャンプで一緒に行動した、獣人の男子生徒だ。目つきが悪く制服を着崩していて、独特の威圧感を放っている。いつも無表情で機嫌が悪そうに見えるが、実は親切で情に厚いことを、カケルはこの間のキャンプで知った。
 オルタナは紅い瞳を呆れたように眇めて言う。

「鼻血出てるぞ」
「マジで?」

 結構派手に地面にぶつかったらしい。こちらが頑丈な竜だから、あの生徒は手加減しなかったのだろう。
 鼻血を拭きながら半身を起こして、カケルは不意におかしくなって衝動的に噴き出した。

「ぶはっ、ははは……」
「頭大丈夫か?」

 見下ろしたオルタナが、突然笑い出したカケルに、いよいよおかしくなったかと顔をしかめる。

 オルタナの向こうに広がる秋空は透けるように高いが、手を伸ばせば届きそうな程に近くも感じる。
 昔、窓の外に見ていた世界がこんなに近くある。そのことがカケルには嬉しかった。同世代の子供と遠慮せずに遊べるし、今は竜になってあの空の上にも飛んでいける。
 これから始まる寮生活が楽しみで仕方なかった。


オルタナ「そろそろ鼻血拭けって。ああ、面倒くせえなーお前」
カケル「そういうオルトは面倒見いいよな」
オルタナ「……」
カケル「痛っ(頭を叩かれた)」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ