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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.16 風竜の俺と竜騎士な君

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02 繋がる絆

 会議室にはセファンやイリアと共に、軍上層部と思われる険しい顔をした大人達が並んでいた。また、空戦科の先輩である水竜のルルキスと彼女のパートナーのクリストルもいる。魔力レベルAの竜ということで戦列に加えられたのだろう。
 俺、こんなところにいていいのかなあ。
 ちょっと気おされつつ、カケルは壁際の下座にイヴと並んで立つ。小さな基地の会議室なので、偉い人は椅子があるが、下っ端には無いのだ。

「全員、そろったようだな。まずは一旦、状況を説明する」

 初老の男性がそう言って立ち上がり、壁に呪術で地図を投影した。
 エファランの地図らしい絵が白い壁に浮かび上がる。

「昨日の夕方、ソルダートのものと思われる金属でできた飛行物体が群れをなしてエファランに現れた。飛行物体は小型の銃を装着しており、人間に襲い掛かる仕組みとなっている。急ぎ各街の非常用結界シェルターを起動させ、竜による駆逐を試みたが、駆除しても駆除しても数が増すばかりだ。飛行物体はどうやら自己再生機能、および増殖機能を持っているらしい」

 続けて壁に飛行物体の拡大写真が投影された。
 さきほどカケル達を襲った金属の鳥だ。

「調査の結果、飛行物体には中心となる特別な機体があることが分かった。仮にそれをクライシス・コアと呼称しよう。コアは運動性能が他の飛行物体とは段違いで、かつ見つけにくく、飛び回っている。これを何とかしなければ飛行物体すべてをせん滅することは不可能だ」

 一通り説明した男性は席に座りなおした。

「戦力は今ここにいる者がすべて。空軍の主力はソルダートの国境線に張り付いている状態で、国内が手薄になっていたところを突かれた格好になる」

 軍の主戦力はソルダートとの国境線を守っている。
 彼等に引き返してもらうと今度は逆に国境線が手薄になるので、上層部は頭を痛めているらしい。今のところ非常用結界シェルターが有効であり、被害者が少ないのも理由のひとつだ。可能であればここにいる戦力だけで解決して、ソルダートのつけ入る隙を作りたくないという。

「まだ学生ではあるが、魔力レベルAの竜がここに三体いる。火竜のセファン・マクセラン、水竜のルルキス・イエーロ、さきほど帰国した風竜のカケル・サーフェス。この騎竜と竜騎士を中心に掃討作戦を実施したい」

 まさか名前が挙がると思っていなかったカケルは硬直した。

「コアはレグルス付近にいると思われる。空軍の竜による一斉捜索でその位置を割り出し、マクセランの火竜とラマダンの水竜で、コアを護衛する飛行物体の群れを一気に片付ける。素早い動きをするコアを撃ち落とすのは、アラクサラの風竜の役目だ」

 風竜はすべての属性の中で敏捷性がもっとも高い。
 魔力レベルAの風竜であるカケルのトップスピードは、他の多くの竜に優る。

「我々は全力でバックアップする。頼めるな、イリア・マクセラン、クリストル・ラマダン、イヴ・アラクサラ」

 竜と竜騎士では竜が従で竜騎士が主となる。一瞬の判断の迷いが命とりとなる戦場で、上下関係を明確にして判断に迷うことがないよう、空軍独自の規則で主従が定められていた。
 命令を受領するのは竜騎士で、騎竜は竜騎士に従う。
 つまりイヴが命令を受ければカケルもそれに従うことになる。

「分かりました」

 断る理由はない。
 落ち着いて受領の返事をするイヴを見つめて、カケルは苦笑した。




 作戦開始は翌日の朝ということになった。
 急いではいるが諸々の手配や準備も必要らしい。また、下手に攻撃して敵に増殖されると厄介なのだそうだ。
 カケル達は基地の仮眠室で休むように言われた。
 本当はすぐに寝た方が良いのだろうが、カケルはイヴを誘って基地の裏口に出た。夜空に上ったばかりの月を二人で見上げる。

「……イヴは、俺でいいの?」
「何を今さら」

 月に照らされた彼女の横顔に、金糸の髪がはらりと落ちる。
 カケルは壁際に立っていたが彼女は階段に座っていた。

「いや、俺って馬鹿だしすぐ逃げるしさー」
「自覚あるなら直しなさいよ」
「無理」
「即答?!」

 昼寝がしたいし、と言ってカケルは笑った。

「ここに来る時にも言ったけどさ。俺は自分に掛けられた呪術は解約できる能力を持っている……契約紋も解約できちゃうんだよ」

 イヴの肩がびくりと跳ねる。
 ここまで自分の能力を細かく話したのは彼女が初めてだった。
 カケルはどんな術式にも縛られないが、誰もカケルを縛ることはできない。
 限りない自由は、限りない不自由でもある。
 普通なら契約紋をかわせば逃げられなくなって互いに安心できるところを、カケルとイヴは安心できない。どこまで行っても交わらない。

「だから契約しても、ずっとイヴと一緒にいるって約束できないかもしれないよ?」

 意地の悪い宣言。
 また逃げてしまうかもしれないと言うカケルに、イヴは「馬鹿」と吐き捨てた。

「それでも、あなたは私の竜だわ。違うの?」
「違わないよ……じゃあ、イヴの印を頂戴」

 カケルは屈むと、階段に座るイヴの前に回り込んで膝をついた。

「俺が君の翼になるよ。君は俺の帰る処になってくれる? どこに行っても帰ってこれるように」

 それは少しアレンジをされているものの、竜が人間にたいして絆を約束する正式な誓いの言葉だった。
 イヴは膝を付いたカケルを見下ろすと、頬をぎゅーっと摘まんで引っ張る。

「いひゃい」
「格好つけんじゃないわよ! さっさと腕を出しなさい。思いっきり派手な奴を付けてあげるから」
「イヴはロマンが無いなあ」

 契約紋の形に決まりは無いので、紋様は人それぞれ形が違う。イヴは翼をアレンジした模様を考えていたようで、カケルの腕と言っても肩に近いところに黒い線で翼の意匠が描き出された。

「ちゃんと私のところに帰ってきなさいよ」
「頑張ります」
「帰ってこないと、地の果てまで追っかけて蹴り倒してやるんだから」
「それは怖い」

 イブの蒼天の瞳がうっすら涙に濡れて滲んでいる。
 たまらなくなって、カケルは少し腰を上げると彼女に近付いて、その身体を抱き締めた。抱き返してきた彼女の腕が背中に触れる。
 こうしてずっと捕まえていて欲しいと思った。


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