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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.15 そして、俺は君と巡り合う

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09 始まりは憧れだった

 島に生えているヤシのような植物の枝葉を集めて、煙を出す準備をする。火と煙は呪術で制御して、なるべく長い時間、細長い煙が空に届くように工夫した。
 作業を手伝おうとしたカケルを、イヴは手を振って追い払う。

「邪魔よ、お昼寝竜! あんたはお昼寝でもしてなさい!」
「ええー。いつもと言ってること逆じゃない?」

 カケルがぼやくと、イヴは真剣な顔で言った。

「黙りなさい。あなた、自分の顔色悪いの分かってる? 大体、あくせく働こうとするなんてあなたらしくない。いつものホゲホゲお昼寝とか言ってる方がまだ頼りがいがあるってもんよ」

 俺らしいってなんだ、とカケルは思った。
 確かにらしくもなく奮闘してると自分でも薄々気付いている。
 七司書家に戻って狭苦しい檻に囚われて、自分を見失っていたかもしれない。エファランに来た頃はもっと自由だった。
 そう、俺の根本にある想いは……。

 青い空へ登っていく煙を見上げる。
 澄んだ空はエファランも高天原も変わらなくて。
 最近、父上に監禁されていて空を見ていなかったな、とふと思った。いつだっただろう。閉じた書架の中でうずくまり、窓の外を見た。四角に切り取られた空は青くて、室内なのに夏の風を感じた気がした。
 あの時、俺は何を思っていただろう。

「来た……!」

 狼煙を上げてさほどの時間が経っていない。
 意外に早く上空に竜が一体現れる。
 竜の所属は分からないがエファランでないことは確かだ。

「じゃあプランBだね」
「足手まといになるんじゃないわよ」
「はは、足手まといになったら蹴飛ばしてくれて構わないよ」
「馬鹿」

 現れた竜が敵だという前提でのプランB。
 捕まえて脅して陸地まで送ってもらうという成功率の低い賭けだ。今のところ戦力にならないカケルは、置いて行ってくれても良いと爽やかに自己犠牲を提案するが、イヴに即却下される。
 彼女は諦めるということを知らないらしい。

 島に近付いてきた竜は、いきなり攻撃をしてきたりせずに、カケル達の前に降りてきた。
 上に乗っている軍人のような二人の男は、どこの国か分からない服装をしている。

「遭難者か? どこの者だ?」
「アオイデからタレイアへ観光旅行に来たんですが、船が難破して家族とはぐれて、彼女と二人でこの島に流れつきました」

 カケルはするすると用意した口実を述べる。
 話を聞いた男達は顔を見合わせる。

「乗れ」

 呆気なく許可が降りて、男が手招きする。
 どうにもうまくいきすぎる。
 やはり敵だと思った方が良さそうだ。
 カケルとイヴは警戒しながら平均より大きな図体の竜によじのぼった。背中にいる男達に近付く。
 竜はカケル達の騎乗を確認すると島から離陸した。

「助けてくれてありがとうございます」
「何、礼はいらんさ。これも仕事、なんでね!」

 男の一人がいきなりイヴに向かって至近距離で銃を撃つ。
 銃弾は予め展開しておいた守護シールドに弾かれた。

「イヴ!」
「……やはり娘の方はエファランの呪術師か。男の方は七司書家の血縁だな。連れていけば金になる!」

 どうやらカケルは例によって手配されているらしい。
 男達は敵だと決定した。
 プランB始動。竜に乗っている男二人を排除して、竜を脅迫して陸地かあわよくばエファランまで連れていってもらおう作戦。
 だが……。

「っ!」

 カケルは敵の男の片方に体当たりで突っ込んで気を逸らそうとしたが、逆に腕を捻りあげられてしまう。間近で見た男の瞳には細長い瞳孔が走っていた。

「獣人!?」

 男の片方は獣人だったらしい。
 人の姿で接近戦をして獣人に勝てる者はいない。ましてや竜の力を思うように使えない今のカケルでは。

紅炎爆破カーネリアン……」
中断キャンセル

 イヴの相手の男は魔眼の使い手だった。
 展開しようとした術式を途中で無かったものにされて、イヴはたたらを踏む。
 その時、ちょうど竜が姿勢を傾けた。
 足場の揺れにあわせて男が彼女に向かって回し蹴りを放つ。
 斜めになった竜から、イヴの身体が蹴り落とされる。

「イヴっ!」

 カケルは彼女の名を叫んで、無我夢中でもがいた。
 今ここで彼女を失えば、自分は生きる意味も全て失ってしまう。妹のフウカを失って虚ろになっていたカケルが平常を保てたのは、彼女が側にいたからだった。
 獣人の男の拘束はゆるがない。
 しかし、火事場の馬鹿力という奴か、一瞬、蒼い風がカケルの叫びに応じてカマイタチを起こす。風の刃が顔の前を走って、獣人の男は拘束を弱めた。
 機を逃さず、カケルは全力で男の拘束から抜け出し、竜から飛び降りる。

「あ、待て!」

 男の焦った声を背中に受けながら、冷たい空に身を投げた。
 落下する金色の光を追って手を伸ばす。
 彼女は空気の抵抗を弱める呪術を展開しているのだろう、淡い光に包まれていた。ストロベリーブロンドの長髪が宙を舞う。
 こんな状況でも決して絶望することはない、彼女の蒼天の瞳がカケルを真っ直ぐに見た。その瞳を眩しいと、カケルは思った。





 はじまりは、憧れだった





 うだるような夏の午後。
 教室の片隅でカケルは頬杖をついてうとうとしていた。

「空を飛ぶ……ということを、思い描く通りの速度で空中を自由に移動することだと仮定すると、飛行船では役不足なのだ。旧世界では竜の代わりに飛行機と呼ばれる機械が存在した」
「飛行機……?」

 教師の穏やかな低い声はまるで睡眠への誘いのように教室に響く。
 質問する生徒に、教師が答えている。

「この飛行機はとても危険な乗り物だったらしい。当時の人々は呪術を使えなかった。だから、高い空中から落ちたら死ぬしかなかったんだ。しかも機械は竜と違って、飛んでいる途中で故障したりもする」
「理解できないですね。なんで死にに行くような真似をするのか」

 生徒達は感想を口にして騒ぐ。
 夢うつつだったカケルの耳に、すっと、教師の声が入ってくる。

「それでも彼等は、空を飛びたかったのさ」

 カケルは目を開けた。
 窓の外の夏の空には入道雲が湧き上がっている。
 抜けるような蒼天に一筋の白い線が横切る。上空を竜が通過したのだ。

「とても多くの人が飛行機に乗って死んでいった。それでも人間は空に憧れつづけた……」

 始まりはただ憧れだった。
 自由を象徴しているような空の青さに手を伸ばして、そこへ辿り着くことを夢見た。埃くさい閉じた図書室で、幼い頃のカケルが望んだのは、自由になること。
 空を飛びたかった。
 この肩にもし、翼があったなら。





 気が付くと、暗い夜空の下だった。
 満天の星空から雪のように光の欠片が降ってくる。
 尻餅をついたカケルを、黒髪に琥珀色の瞳の少女が上からのぞきこむ。

「兄様はずるいです」
「フウカ」
「欲張りです。なんでそう、届かないものを欲しがるんですか。私には理解できません。きっと……それが私と兄様の違いなんですね」

 少女は呆然とするカケルに背を向けた。

「私達はもう別の存在として歩き始めた。ここで道は分かれる。お別れだね、兄様」
「別れって……フウカ!」
「さようなら。……私を背中に乗せてくれて、ありがとう」

 暗い空がしらみ始めるのと同時に、少女の姿は静かにフェードアウトする。
 明けた空が徐々に青くなる。





 七司書家を出るのはリスクの大きい賭けだった。
 エファランに辿り着けなければ全てが終わりかもしれない。
 その恐怖を乗り越えるために何度も空の青さを思い出した。負けないように、くじけないように青空を思い描く。
 あの空を舞う竜の自分を想像する。







 人は、心に翼があれば、どこへだって飛んでいける。







 ストロベリーブロンドの少女を包み込むように、蒼い風が吹き荒れる。風に溶けるように青年の姿が消え、代わりに蒼い光が巨大な生き物のかたちを構成する。

 それはサファイアの輝きを秘めた蒼の竜。

 グラデーションする青空を切り取ったような一対の翼。
 風の属性の竜に多い長くしなやかな尾。
 頭部を飾る角は真珠色。
 瞳は明るい黄金に輝いている。

 竜は優しい動作で少女を受け止めると、空を切って上昇した。



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