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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.15 そして、俺は君と巡り合う

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08 君は中々お昼寝させてくれない

 漂着した島は無人島だったようだ。
 島の夜空は満点の星空だった。
 焚火を絶やさないように呪術で調整して、イヴは早々に寝入った。彼女は容姿こそ繊細な美少女だが、図太い神経をしていて普通の女の子より鍛えた身体をしている。
 嵐の海を流された二人は上着や靴を失ってしまっていたが、島は白い砂に覆われていて温暖な気候をしていた。薄着で寝転がっても大丈夫そうだ。

 穏やかな寝息を立てるイヴを眺めながら、カケルは考えに耽っていた。

 普段の自分なら嵐の海に飛び込むなんて自殺行為はしない。
 しかしあの瞬間、父がフウカを撃った時に、カケルはフウカの意識の影響を受けてしまった。死の間際に妹が願った「二度と離れたくない、一つになりたい」という想いに引きずられた。

 イヴが追いかけてこなければ、自分を取り戻すことは出来なかっただろう。
 あの時、カケルは妹の強い想いに呑まれそうになっていた。
 今は、自分と妹が別の人格を持つ別個の人間だと冷静に境界線を引くことができる。

 問題は……竜の力を使えなくなったこと。

 島に漂着してから竜に変身できない。
 今まで手足のように感じてきた周囲の風が思い通りにならず、竜に変身するスイッチが消えうせたように感じる。
 カケルは自分の不調の原因は、妹の死と関係があるのだろうと分析している。

 竜族は人間とは別の種族のように思われているが、本当は……厳密には呪術師なのだ。「竜に変身する」ことに特化し、肉体を強化した呪術師、変身のために容量を使い切っているせいで、他の術式を一切扱えない呪術師の亜種。
 呪術師は目に見えない呪術の術式を管理する領域を持っている。
 それは仮想的なもので、実質は脳の一部の機能に過ぎないけれど、ダイアルネットワークと繋がることで広く深い領域となっている。イヴやロンドのような呪術師は、その領域の中の術式を文字や絵のように、目に見えるかたちに変換して管理している。一方、カケル達のような竜は感覚的に領域にアクセスして無意識に術式を使いこなす。

 双子であるカケルとフウカは、この呪術領域が繋がっていた。
 竜になってもなお呪術書アーカイブを所持できるだけの容量は、二人分の呪術領域で維持されていた。カケルが自分の中に呪術書を保存できていたのは、フウカと連結した広大な呪術領域があってこそだったのだ。

 しかし今、フウカとの接続が切れて呪術領域は狭まり、術式が破損した状態になっている。

 海の中で竜の魔力を使って泡を作った時も違和感は感じていた。泡を作るより竜に変身してイヴを乗せて飛んだ方が良かったのに、できなかった。泡を作るだけで精一杯だった。

「ずっとこのままなのか……回復するのか……」

 分からない。
 前例が無いだけにどうなるか不明だ。

「俺を恨んでいるのか、フウカ。あんなに一緒だったのに、俺は結局お前と一緒にはいてやれなかった」

 あの日、妹を残して七司書家を一人で出た。妹は大丈夫だという確信があったとはいえ。
 また、つい先日は嵐の船の上で、エファランの竜だと宣言した。
 昔も今も我が身可愛さに妹を……見捨てたのだ。




 カケルが竜になれない以上、無人島を脱出する手段は他の船が通り掛かるのを待つしかない。
 だが通りかかった船はカケル達を救助してくれるだろうか。
 ここは高天原インバウンド。エファランの人々には優しくない国ばかり。
 ソルダートの関係者が通りかかれば逆に命の危険さえある。

「へっぽこお昼寝竜! なんとかしなさいよ!」
「うーん……いちかばちか、狼煙のろしを上げてみる?」

 敵が来るか、味方が来るか。
 運試しをしてみるか、と提案するカケルに、イヴは顔をしかめた。

「それは、最終手段よ……」

 彼女の言う通りだった。
 敵が来る確率の方が高い。他の手段があるなら先に検討した方が良い。真っ先に試したのは呪術による通信だった。ロンドやアロールに呪術で連絡が取れれば万事解決である。だが海の上で通信が不安定になっているのか、繋がらない。
 何もない無人島で時間は無情に過ぎ去っていく。
 先に音を上げたのは提案を却下したイヴの方だった。

「ああっ、何も出来ることが無いなんて堪えられないわ!」

 そうですかー。
 危機的状況だが食べ物や水は確保できる訳だし、のんびり昼寝しようかなとカケルは暢気に考えていた。だが彼女が嫌なら仕方ない。

「……ここはたぶん、タレイアの西、ユーダ帝国よりの海だと思う」
「なんで分かるのよ」
「基本的に海流はユーダ帝国の方へ流れてるから」

 ユーダ帝国は、東ユーダ帝国と西ユーダ帝国に分かれる。東ユーダはエファランに好意的で、西ユーダはソルダート側だ。
 狼煙を上げて先に反応するのはどちらか。

「敵に見つかったらどうする?」

 カケルが聞くと、イヴは好戦的に瞳を光らせた。

「決まってるじゃない」
「えーと」
「捕まえて、脅して、陸地まで案内させるのよ!」
「聞かなきゃ良かった」

 竜の力が使えないカケルは不安で仕方ない。
 しかし今は体力的にも精神的にもイヴを止めることは不可能だった。もうちょっと寝てから動きたいと思いつつ、カケルは狼煙を上げる場所や敵に見つかった時に具体的にどうするか、考えを巡らせた。

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