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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.02 竜になったはいいもののパートナーを選べと言われて悩む俺

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02 気になるけど素直になれない

 ストロベリーブロンドの髪を翻して、イヴは颯爽と学校の渡り廊下を歩いていた。
 窓ガラスに映るのは意思の強そうな空色の瞳をした、すらりと手足が長くバランスの良い身体付きの女子生徒の姿だ。道行く男子生徒がちらほら彼女に見惚れているが、イヴはそれに気づいていない。
 真っ直ぐ前を向いているように見えて、実は彼女はぼんやり最近の出来事を回想していた。

 ハプニングのあったあの野外演習の日から、イヴはある同級生の青年を意識するようになった。

 その青年は喧嘩で有名なオルタナ・ソレル程ではないが、授業に遅刻したり、授業中に寝ていたり、素行が不良で有名な生徒だった。
 いったい何のために学校に来ているのか、勉強するつもりが無いなら帰れと、イヴは言いたい。
 しかし流石に面と向かって罵倒するのははしたないとイヴも心得ていた。だから代わりに、自分と関わりあうことのない人種だと無視して、今までは意識から切って捨てていたのだ。

 それが、キャンプで同じチームになってみて、見方が変わった。ふわふわした外面の割に実は頭が良く、呪術に関する知識を持っている。それに、いざという時の決断力や勇気もあることも分かった。彼はあの非常事態で、うろたえたり、逃げたりしなかった。それは称賛に値する。

 崖で交わした会話を思い出す。

 まず間違いなく彼は呪術師の貴族の血を引いているのだろう。指摘したとき、否定しなかった。彼にも何か事情があるのだと思った。

 その後の崖からの落下について、イヴはぼうっと回想する。
 落下の瞬間、彼は真剣な顔をして、イヴの腕を掴んで、自分が下になるよう体勢を入れ替えた。その動作と真剣な顔に、イヴは不覚にも心臓が高鳴るのを感じた。一瞬抱き寄せられて彼の体温を感じたが、触れた身体は固く、意外にしっかり筋肉が付いていた。

「イヴ?」
「……あ、ゴメン、何」

 声をかけられて、ぼんやりしていたイヴは驚いて振り返った。そこは学校の東の渡り廊下で、不思議そうな顔をしたリリーナがこちらを見ていた。
 今日のリリーナは肩口で揃えた緑の髪の一部を脇で三つ編みにしている。
 同級生のリリーナとは、あのキャンプ以来友達になって、一緒に行動するようになっていた。

「何か考え事してた?邪魔だったら」
「いいえ、邪魔なんかじゃないわ!」

 カケルの事を考えていたとは言えず、イヴは手を振ってごまかすように言う。リリーナはその様子を不審に思いつつ、近寄って話しかける。

「そろそろ4年生用の寮に移動になるね」
「そうね」

 この学校は王都にあるので、地方から来る若者向けに寮を完備している。4年生からの選択で空戦科や陸戦科を選ぶと授業がハードになるので、王都に住まいがある学生も、4年生からは事情がない限り寮から学校に通っていた。4年生からはほぼ全ての学生が寮生になるので、4年生以降の寮の建物は大きく、施設も充実している。
 4年生以降の寮の建物は4つあって、それぞれ寮ごとに部隊を組んで寮対抗戦をしたりしている。どの寮に入るかは、基本的に学校側が決めていた。

 カケル達は来年の春で4年生だが、毎年数ヶ月早く4年生の寮に移動することになっていた。今は3年生の秋だが、そろそろ進路を決めて、成人した生徒から随時寮を移動する時期だ。

「キャンプで一緒だったから、寮も一緒になるかもね」
「え?」
「野外演習でのチーム分けは相性を見るためらしいよ。問題無ければ、4年生以降、野外演習と同じチームで小隊を組むんだって」
「聞いてないわよ」

 情報通のリリーナの言葉に、イヴは眉をしかめた。
 もしそうなら、4年生以降もオルタナやカケルと引き続き顔を合わせることになるのか。

「有り得ないわ…相性が良い?まさか…」
「私達、演習の最後の方は結構まとまってた気がするけど」
「……」

 確かに、キャンプ地奪還作戦の立案と実行は思いの外スムーズだった。引率で先輩のロンドがいたとはいえ、チームメンバーの誰もお互い足を引っ張る事なく、無事に作戦を成功させたのだ。

「イヴは……カケルと契約するの?」

 リリーナが小首を傾けて聞く。

「カケルと契約? まさか」

 イヴは渋面で否定した。
 竜と竜騎士の絆は強く、異性同士であれば高確率で結婚することになる。一生の番の相手を、ちゃらんぽらんの同級生に決めるのは抵抗感がある。

「そっかぁ。じゃあ私にもチャンスがあるかな」
「リリーナ? 貴女まさか」
「悪くないと思うよ、カケルは。別に竜は竜騎士としか契約しちゃいけないなんてルールは無いし、私の竜にしちゃおっかな~」

 水色の瞳を細めて、リリーナは小悪魔風の笑みを浮かべた。
 本気で言っているのか、ふざけているのか、踊るような口調からは判別できない。

「かっ、勝手にしたらいいわよ!」

 自分でもおかしいほど動揺して、イヴはどもりながら返事をすると、廊下を明後日の方向に歩き出した。




 リリーナを置いて一人でずんずん歩いていたイヴは、校庭の隅に来ていた。
 人気のない木立の間で立ち止まる。

「契約……騎竜か」

 イヴも竜騎士を目指す以上、学生の間に自分の騎竜を選ばなければならない。カケルの変じた蒼い竜の、サファイアのように輝く鱗を思い出す。今まで乗ったどの竜よりも美しく、素早く、力強い竜だった。
 彼女は嘆息した。その性格を抜きにしても、カケルが将来有望な竜だと認めない訳にはいかない。あのレベルの竜は探しても中々見つからないだろう。

 がさっ

 不意に近くの茂みががさがさ揺れて、イヴはびくりとした。
 背の高い草むらの中から葉っぱをいっぱいにくっつけて、四つん這いで姿を現したのは、今まさに考えていた相手だった。

「カケル……貴方、いったい何をやってるの?」

 かさこそと草むらを這い回る同級生の青年の姿に、イヴは恐々と声をかける。

「あれ、イヴ? どうしたの」
「それはこっちの台詞よ……」

 引き気味に見ているイヴに気付いて、青年はよっこらしょと立ち上がる。イヴは女子の中では背が高い方だったが、それでもカケルの方が僅かに背丈が高かった。

「昼寝に最適な場所を探しててさ」
「なぜ普通に立って探さないの?」
「フッ、いつもと視点を変えれば、いつもより良い場所が見つかるかもしれないじゃないか」

 さも当然とばかりドヤ顔で宣うカケルに脱力する。
 前言撤回。頭が良いなんて思ったのは勘違いに違いない。こいつはただの馬鹿だ。
 頭髪に絡まった木の葉を落としながら、カケルがふと思い付いたように尋ねてくる。

「そういや、イヴはもう騎竜を決めてるの?」

 その問いにイヴは動揺した。
 顔に感情が出ないように気を付けながら、逆に問い返す。

「なぜそんなことを聞くの?」

 二人はお互いの意図を探るように見つめ合った。

 イヴとしては今の時点ではカケルと契約を考えてはいないが、竜としてのカケルが気になっているのは確かだ。「契約してほしい」と言われたら、条件次第では考えなくもない。

 一方のカケルは、イヴのことは気になってはいたが、そもそも空戦科に進学するのに抵抗がある状態だ。パートナー選びにも消極的な気持ちだが、ロンドの言葉もあって迷っていた。
 彼は何故イヴのことが気になるのか、自分の気持ちの正体が分からずにいる。

 お互いに気になっているものの、お互いにプライドや思惑が邪魔して動けない。

「別に、ちょっと気になっただけだよ」
「ふーん、そう」

 素直になれない二人の前途は多難だ。


オルタナ「何地面を這ってんだよ。蹴飛ばすぞ」
カケル「なあ、オルト、昼寝に良い場所教えてよ~。ねえってば~」
オルタナ「知るか」
+注意+
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