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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.15 そして、俺は君と巡り合う

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06 欠けた半身

 暗い海に落ちていく青年の姿を、イヴは茫然と見つめた。
 途中で竜の姿になるのかと思った。
 だが、見慣れた空色が闇を裂くこともなく、青年の姿は呆気なく消えた。

「嘘でしょ……」
「おい、撤退するぞ」

 オルタナがイヴの肩を掴む。

「ここにいると俺達も危ない」
「カケルは」
「あいつは、諦めろ」

 もう駄目だ。
 言外にそう言われて、イヴは息が止まった気持ちになった。
 イヴを見る紅いオルタナの瞳には、鋭い痛みを耐えるような感情がある。動揺していない訳がない。オルタナは散々否定していたが、カケルの親友なのだ。
 これで終わり? 何もかもが、ここで終わってしまったの?

 イヴの友人であるリリーナは彼を信じようと言っていた。必ず帰ってくると、帰ってくるのを待とうと。だがイヴは思う。信じることと、期待することは別だと。

 カケルは先ほど海に落ちる直前に「俺は、エファランの竜だ」と言った。
 その言葉に偽りがないとイヴにも確信できる。彼はリリーナの言っていた通り、信じるに値する竜だ。それはイヴも知っている。きっと帰ってくるつもりがあったのだろうと、信じられる。

 けれどイヴは知っている。

 あいつは最低のお昼寝竜だ。
 ふわふわして、とらえどころが無くて、余裕ぶっているけど抜けていて。
 全然、秀才や天才なんかじゃない。
 一人で何もできない弱虫で、逃げ回ってばかりで。
 逃げ足だけが早い間抜けな風竜だ。

 私はカケルに期待しない。
 あいつにばかり重荷を背負わせたりしない。
 だから、私から手を伸ばす。
 いつだって。

「ソレル、一人で戻って! 私はカケルのところに行く!」
「っ、待て!」

 止めようとするオルタナを振り切って、イヴは船の甲板から飛び降りる。
 暗い海の中へ。





 どうしてこうなったのだろう。
 渦巻く水流に身を任せながらカケルはぼんやりと思う。
 思考が拡散して、考えるのが億劫だ。

 フウカが撃たれた瞬間、カケルも同じ痛みを負った。
 双子だから。
 ここ数年は離れていたけれど、二人は双子の兄妹としてずっと一緒に育ってきた。
 一緒にいるのが当たり前すぎて気付かなかった。

 カケルはフウカと魂を分け合って存在していた。
 だから彼女を失って魂が欠けたように感じている。

 深いところで繋がっていた。
 分かちがたい魂の半身だった。
 冷たく凍えた世界でお互いのぬくもりだけを頼りに生きてきたのだ。

 魂を分けた半身の死に、カケルは引きずられていた。

「……ずっと一緒にいよう、兄様。これからは離れることはないよね」

 世界に生まれ出でた時に二つに分かれた魂が、死によって統合されようとしている。
 まったき一つとなって今度こそ離れない。
 それは胎児となって暖かな液体にくるまれるような絶対の安心感。
 暗い闇の底で深い深い眠りへと……。



 行かないで!!



 その時、悲鳴のような声がカケルの胸に響いた。
 何も見えない暗闇の中に一条の光が差し込む。
 蒼天の瞳に鮮やかなストロベリーブロンドの少女が、カケルに向かって手を伸ばす。

「行かないで、兄様。そちらは冷たくて苦しい世界よ」

 双子の妹の声。
 二人の少女が「行かないで」とカケルに懇願する。

 一方は安寧の闇。
 一方は激動の光。

 俺はお昼寝したいんだよ。
 ゆっくりのんびり眠りたい。
 たくさん頑張ったんだからもういいだろう。

 馬鹿。

 光をまとった少女がカケルをなじる。

 あんたね……ずっと寝てたらそれはお昼寝って言わないわよ!
 死んだらお昼寝どころじゃないんだから!
 分かってるの?!

 そんなこと、分かって……死ぬ?

 カケルは目を見開いた。
 思考が現実に引き戻される。
 輪郭を曖昧にして境界が溶けようとしていた「自分自身」が呼び戻される。
 暗い海の中、水流にもみくちゃにされながら、カケルは状況を把握した。

 目の前には消えかけた光の泡がある。
 金髪の少女の伸ばした手がカケルの手首をつかんでいるが、その力は弱く解ける寸前だ。目を合わせた瞬間、少女の瞳が閉ざされ、光の泡が霧散する。力を失った彼女の手を、カケルは寸前で握り返して引き止めた。
 イヴは呪術を使って海に落ちたカケルの居場所を探し、結界を張って空気を確保しながら追いかけてきたのだ。しかし、激流の中で呪術の持続限界が訪れ、カケルの目の前で光は消えようとしている。
 放っておいたらイヴも死んでしまう。

 しっかりしろよ、カケル・サーフェス!
 お前は彼女を守るんだろう!

 カケルは自分自身を叱咤して、呪術が解けて意識を失ったイヴの身体を抱きしめた。
 竜の魔力で海に混ざる空気を抽出して、自分達の周りに泡を作り出す。
 嵐の海で進路を定めるのは難しかったが、持てる限りの風の魔力を駆使して近くの島を特定し、そこへ向かう水流に自分とイヴを乗せた。気を失っている彼女を抱えて暗い海の中、最後の気力を振り絞る。

 消耗していて、意識がもうろうとしていたカケルは、無事に島に辿り着けたかどうか分からない。
 ただ彼女の無事だけを祈り続けた。


 
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