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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.15 そして、俺は君と巡り合う

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05 凍える海の中へ

 フウカは胸騒ぎを感じて甲板へ上がった。
 吹きすさぶ雨風の中、呪術で兄の居場所を捕捉する。冷たい雨はフード付きコートでしのいでいるが、強風でコートが飛ばされそうだ。
 人気の無い甲板の隅に兄がいた。
 誰かと話している。
 船員ではない。
 暗くて顔が見えないが、若い男女だった。雨に打たれるのに雨具を被らずに、動きやすい身体にフィットした服装をしている。

「貴方の都合なんか関係ないわ。私は貴方を連れ戻すために来たんだから!」

 金髪の女性がそう言った。
 その言葉を聞いてフウカは悟った。
 ああ、この人達はエファランから兄を迎えに来たのだ、と。

「ふっ、イヴらしいや」

 兄が女性の名前を呼んで笑った。
 その笑顔は見たことのないもので、とても嬉しそうだった。
 駄目だ、このままではいけない。
 フウカは兄が連れていかれる未来を直感して震えた。兄のカケルは、とても優しい。迎えに来た人達を最終的には拒否出来ないだろう。

 兄様が連れていかれてしまう。

 フウカは不安と焦燥にかられるまま雨の中に飛び出した。
 声の限りに叫ぶ。

「兄様から離れなさい!」

 今、運命の歯車が音を立てて回りだした。





 乱入した女性の声に、イヴは目を見張る。
 こちらに向かって身構えているカケルも動揺の色を隠せない。
 雨よけのコートを羽織ったその女性は風に黒髪をなびかせて、琥珀色の瞳でカケルを一心に見ている。整った容姿に白い肌、コートの下から見える深い赤のソルダートの軍服。
 予め兄妹だと知っていたからかもしれないが、カケルとその女性は、男女の性別の差でぱっと見は分からないが、良く見ると背格好も顔の造作もそっくりだった。

「フウカ! 船の中に戻れ!」
「嫌よ。放っておいたら、兄様はまたどこかに飛んでいってしまうもの」

 焦った声で言うカケルに、フウカというその少女は一歩も引かない構えだ。
 彼女は白い腕をかかげると呪文を唱えた。

雷撃球プラズマボール

 対峙するカケル達の間に割り込むかたちで、雷撃が甲板に着弾する。
 弾けるプラズマが雨の水分で拡散して爆発的に広がった。
 イヴは予め展開しておいた守護シールドを補強する。
 眩しい光が船の片隅を照らす。
 光は狼煙も同然だ。これでは部外者のイヴ達がここにいることが他の船員に見つかってしまう。

「撤退するか?」
「冗談言わないでよ」

 オルタナは数歩下がって、イヴを守るように位置取りした。
 撤収をほのめかされてイヴは拒否する。
 ここまで来て手ぶらでは戻れない。

「ちょ、ちょっとイヴも、フウカも、こんなところで止めてくれよ! ああ、なんでこんなことに! 俺のせいなのか、俺のせいなんだな!」

 カケルが紺色の髪をかき回して叫ぶ。
 そうよ、元はと言えばあんたのせいでしょう、とイヴは内心彼をののしった。
 オルタナが武器を降ろして面倒くさそうに言う。

「おいカケル、どう収拾つける気だ?」
「い、今考えてるとこ」
「兄様、敵と親しそうに話さないでください! そいつらは敵! 兄様は七司書家の者でしょう!」

 憤慨したように叫ぶフウカに、カケルは首を横に振った。

「違うよ。俺は七司書家を出た身だ」
「兄様!」

 柔らかな笑みを浮かべるカケルの金色の瞳が、一瞬、イヴを見た。
 二人の視線が絡み合う。

「……俺は、エファランの竜だ」

 カケルの言葉を聞いたフウカは絶望した顔になり、イヴの胸に歓喜が湧き上がる。
 電撃が散って暗くなった船の片隅で様々な思惑が交錯した。
 その時、雷鳴に混じるように銃声が響いた。

「え?」

 フウカの表情が固まる。
 彼女の胸から黒い染みが広がる。陽の光では赤く見えただろうそれは、血の色だった。
 物陰から現れる背の高い黒服の男。
 冷徹な表情をした男は、その手に銀色の拳銃を持っている。雨に濡れた銃身が雷鳴の光を反射して光った。
 男を見たカケルが顔を強張らせる。

「父上、なぜフウカを」

 イヴは振り返って現れた男をまじまじと見た。
 カケルの父ということは、この男は七司書家の当主なのだろうか。
 なぜ娘であるフウカを銃で撃ったのか。

「お前とフウカは二つで一つ。そう、私が作った。フウカを生かしていたのは、お前を確実に処分するためだ、ユエル」

 残酷なことを淡々と言って男は倒れたフウカにもう一発銃弾を撃ち込んだ。
 確実に娘を殺すため。
 狂っているわ。
 イヴはその様子に戦慄を覚える。
 まるで自分が銃弾を受けたように蒼白な顔のカケルは、震える声でつぶやく。

「そうまでして、呪術書アーカイブが欲しいのか……」
「それが我等、七司書家だ。さあユエル、お前も自分の役割を果たせ」

 男の足元に光の線で描かれた魔法陣が現れる。
 同時に同じものがカケルの足元にも描き出される。魔法陣から光の触手が伸び、妹を襲った惨劇に茫然とするカケルに絡みついた。

「ここで呪術書を渡せばお前の役割は終わりだ。お前はそれなりに役に立つ駒だったが、死んでもまた作り直せばいい」
「カケルっ!」

 イヴは魔法陣を止めようと、男に直接攻撃するための呪術を実行しようとする。
 しかしすぐに実行できるはずの得意な攻撃用の呪術、紅光弾ルビーショットの術式は途中で霧散する。呪術の補助を司るイヴのナビゲータ、白い兎のミカヅキがイヴにしか見えない呪術視界で首を振った。

『だめだよ、イヴ。呪術はあの男に中断キャンセルされてる』

 オルタナも黙ってみていた訳ではない。
 二刀を構えなおすと男に向かって踏み込む。
 しかし男の半径数メートルに光の壁が現れ、彼の二刀を阻んだ。
 手も足も出ない。

「……中断キャンセル

 突然、光の螺旋を描いていた魔法陣が弾け飛ぶ。
 内側にいたカケルの一言によって。
 男は目を見張ると、悔しそうに顔を歪めた。

「ユエル、どこまでもお前はっ!」
「……父さんに呪術書アーカイブは渡さない。これは、俺達が持って逝く」

 その声には不吉な響きがあった。
 イヴは嫌な予感を覚えてカケルを振り返る。
 青白い顔をしたカケルからは表情が抜け落ちている。琥珀色の瞳は光を失ったように虚ろだ。胸を押さえたまま後ずさりした彼は……そのまま船の外に身体を投げ出した。



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