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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.15 そして、俺は君と巡り合う

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04 退路を絶たれて

 カケルは暗い部屋で顔を上げた。
 懐かしい風を感じて。

「イヴ……」

 焦りと動揺と歓喜と。
 目まぐるしい感情がカケルの中に沸き上がる。

「俺を追ってきたのか……?」

 自惚れかもしれない。
 それでもその想像はカケルに喜びを抱かせる。きっと、お前とは関係ないと彼女に言われれば、がっかりしてしまうだろう。

「さて、どうするか」

 頭上の黒竜の存在をソルダートの者達は気付いていない。
 七司書家の当主アリトもだ。
 呪術の気配なら察知できるだろうが、自然現象を起こす竜の力は呪術で事前に察知することは難しい。
 気付いているのがカケルだけなのだから、今なら好きな方を選ぶ事ができる。……逃げるか、留まるか、好きな方を。

 カケルの目的、呪術書アーカイブの取り出しはあと少しで達成される。
 当主アリトの調査と同時に、カケルは自分も解析を掛け、父の術式を利用して、呪術書を理解しようとしていた。
 実のところ父親をあてにはしていない。しかし、呪術書に精通しており、カケルに呪術書を埋め込んだアリトを利用しなければ、呪術書の状態を把握することが出来なかった。だから虜囚の身に甘んじてきたのだ。
 あと少し。
 それでも、もしイヴに帰って来いと呼びかけられれば、カケルは尻尾を振って彼女に従ってしまうだろう。

 揺れる天秤に頭を悩ませているカケルに、部屋に入ってきたアリトが声を掛ける。

「……何を考えている」
「父上」

 当主はご機嫌斜めのようだ。
 船が嵐で揺れているのにも関係あるだろうが。誰だって静かな船旅を楽しみたいものだ。

「お前達は欠陥品だ」
「……」
「二つ揃って初めて意味を為す……もし、逃げるつもりなら、フウカは処分する」
「ちょっと待って下さい! フウカは貴方の後継者じゃ」
「あんな半端な者は到底使えん。お前とセットでようやく使えるようになる代物だ」

 アリトはカケルの思考を見通すように言葉を紡ぐ。
 実際、ある程度バレているのだろう。こんなときに肉親の勘を発揮しなくても、とカケルは悔しく思った。この男は腹が立つことに自分の父親なのだ。行動の癖などは把握されている。

「返事はどうした?」
「……分かりました」

 カケルは苦い思いで承諾の返事をした。
 退路は絶たれた。妹を犠牲にして自分だけ逃げることは出来ない。
 返事を聞いたアリトは部屋を出ていく。おそらく嵐の状況を確認しに行ったのだろう。
 人目が無くなったことを確認すると、カケルは立ち上がった。
 どちらにしても、イヴ達が無事脱出できるように手を打たなければいけない。




 黒雲の下は雨が降っている。
 イヴは邪魔にならないよう髪をまとめると、オルタナに続いて波に揺られる船に飛び降りた。
 黒竜は気配を殺して船の周囲を旋回している。
 鱗の色だけでも闇に紛れたその姿を見つけるのは難しい。まして気配を断っていれば、普通の人間には知覚できない。

 揺れる船の上で一部の船員が忙しく駆け回っている。
 静かに船の甲板に降り立ったオルタナは、獣のごとき俊敏さで邪魔な位置にいる船員の背後から手刀を落として気を失わせる。

「ごめんね」

 無関係の人間はなるべく傷つけたくない。
 イヴは意識を集中して探査の呪術を展開する。
 カケルはすぐ近くにいる。
 船の中へ降りようと階段付近を伺う。出入口だけあって人の出入りがあって人目に付きやすい。
 どうやって侵入しようか。
 そう思っていたイヴとオルタナの前に、階段を登ってくる人影。咄嗟に身を隠そうとするイヴだが、オルタナは動かない。

「ソレル?」
「……」

 動かず階段の出入口を睨む彼の姿に、イヴは気付いた。
 まさか。
 階段から現れたのは、探していた相手だった。

「久しぶり。場所を変えようか」

 カケル。
 思わず名前を呼び掛けて、寸前で飲み込む。
 船の中で出てきた紺色の髪の青年は、ソルダート軍の軍服の上着を引っ掛けていた。着崩した格好だが隙が無い。いつも柔らかな光があった瞳は、今は冷たい温度になっている。口の端に浮かんだ笑みは作りもののようだ。
 雨の下で立つ青年の顔色は青白い。イヴは目ざとく、その手首に赤い傷跡を見つけた。

 何を痩せ我慢してるのよ。

 襟首を掴んで問いただしたい気持ちを抑えて、彼の誘導に従って甲板を移動する。
 カケルは明らかに一線を引いてイヴ達と接していた。
 場合によっては対決も辞さない覚悟がその姿勢に伺える。
 人気の無い甲板の隅で、三人は向かい合った。
 先に口を開いたのはオルタナだった。

「……帰る気はあるのか?」
「今は無い」

 即答。
 カケルから冷たい風が流れ出す。
 また勝手なことを。
 イヴは奥歯を噛み締めた。

「ふざけないでよ」
「イヴ」
「貴方の都合なんか関係ないわ。私は貴方を連れ戻すために来たんだから!」

 荒れ狂う雨風に負けないように、強い声で宣言する。
 宣言を聞いたカケルは一瞬目を見張ると、思わずこぼれたように呟いた。

「ふっ、イヴらしいや」

 その口元に浮かんだ柔らかい笑みは、先程の作り物めいたものとは違う、イヴが知る彼のものだった。

「でも今は戻る訳にはいかないんだよ。ごめん、オルト、イヴ」
「謝る必要はねえよ。こっちだって勝手にするからな」

 オルタナは腰から鋼牙ファングの二刀を抜いた。
 彼の意思を無視してでも、連れ帰る。
 イヴ達はそう決めていたのだ。
 戦闘体勢を取ったイヴ達を見たカケルの瞳に金色の光が灯る。風を使ってでも抵抗するつもりのようだ。人間の姿のままで。
 竜の姿を取らないでくれるのはイヴ達にとって都合が良い。竜の姿で暴れられたら手が付けられない。
 イヴも捕縛向けの術式を用意し始める。

 二刀を構えるオルタナは踏み込むタイミングに迷っていた。
 迂闊に飛び込めば風に押し返されると、彼の勘は言っている。まったく、敵に回すと厄介な奴だと、オルタナは内心唸っていた。
 間合いを測っている三人の間に、緊張感が立ち込める。

「……兄様から離れなさい!」

 その時、少女の高い声が三人の均衡を崩すように乱入した。


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