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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.15 そして、俺は君と巡り合う

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03 嵐の前

 フウカ・エルナ・ライブラは海の国タレイアに向かっているらしい。
 その情報をイヴ達が掴んだのは、高天原インバウンドに入ってからだった。

 エファランの王族だが、非公式に高天原の各国を訪問しようとしているリリーナの護衛としてイヴ達は高天原に入った。
 護衛のメンバーは、現役竜騎士のアロールとレディーネ、オルタナの兄で陸軍のエイド、そして学校の先輩でカケルの近所のお兄さん役であったロンドと、一時的にロンドの騎竜となっている学校の教師ステラ、学生であるイヴとオルタナである。

「……リリーナ様の護衛として高天原に来ている以上、下手に動けばエファランが疑われかねない。君達だけで動くのだ。そしてもし君達が失敗しても、もう私達は助けられない。それでもいくかい?」

 部隊長でもあるアロールは険しい表情で確認する。
 イヴは彼の灰青色の眼差しを受け止めて頷いた。

「それでも、行くわ」

 ソルダートの使者達は航路を船で来ているらしい。
 部外者が少ない海の上でなら、うまくいけば海賊を装って奇襲をかけられる。そのままカケルを捕まえて撤退できれば目的達成だ。
 黒竜のステラは、あまりソルダートや高天原に知られていない竜なので、所属を誤魔化しやすい。
 ステラに乗ってフウカとカケルのいるだろう船を襲う。
 あまりにも大胆でリスクの大きい計画だ。

「カケル君を連れて戻れなくても、首尾よく連れ戻せたとしても、君達は真っ直ぐエファランへ休まず直行しなさい。私達は君達の存在を無いものとして扱う」

 具合が悪くなって先に帰るということにして。
 タレイアは商売好きな国だ。利益さえあればソルダートにもエファランにも、どちらにも味方をする。そのタレイアの中でなら、襲撃が噂になっても揉み消しがきく。

「無事に戻ってきて、イヴ、皆……」

 リリーナが不安そうに手を胸の前で握る。

「何だか、嫌な予感がするの」

 今回の訪問の主賓であるリリーナは、イヴ達とは一緒に行動できない。彼女には彼女の、別な戦場があるのだ。

「エファランで合流しましょう。何があっても、エファランに帰るのよ……!」

 イヴは仲間達を見回す。
 故郷から離れた高天原の地で死ぬなんてもっての他。
 絶対に仲間と共に、エファランへ帰る。
 同じ気持ちを抱いているロンドやオルタナが黙って頷き返す。
 夕暮れになるのと同時に黒竜は闇に紛れるように飛び立った。





 港のある国カリオペイアで燃料を補給した船は、一路タレイアへ向かっていた。
 フウカは船の一室で海の音を聞いていた。
 七司書家の当主アリトは、タレイアへ行く前、カリオペイアで降りて、カケルを連れてアオイデに帰ろうとした。
 必死に引き留めたフウカに、アリトは溜め息まじりに言った。

「これが最後だ」
「!」
「何もお前からユエルを取り上げたりはせん。あれはお前の騎竜にするつもりだと何度言えば分かる?」
「でも……」
「まあいい。タレイアには私も用がある」

 当主がタレイアに何の用なのか、フウカは知らない。
 兄と違い、フウカはそこまで頭の回転が速い訳では無かった。
 アオイデに連れていかれれば危なかったというのに、相変わらず兄のカケルは飄々としている。連日、父の拷問じみた術式解析に付き合わされて顔色は悪いが、それでも妹を気遣う余裕はあるようだった。

「悪いね、フウカ。付き合わせちゃって」
「兄様……」
「あと、少しだから」

 兄は兄でなにやら企んでいるらしい。
 あと少し。
 何があと少しなのだろう。

 カケルは何か用があって、フウカの策略にのってわざとソルダートに捕まった。それは双子の妹のフウカには分かっている。フウカのもとに留まっているのは、妹を想う気持ちもあってのこと。彼の言動の端々にそれは感じられた。
 兄と一緒にいられて嬉しい。
 もっとずっと側にいたい。
 なのに……たぶん、用を果たせばカケルは去ってしまうだろう。
 あの時のように妹であるフウカを置いてきぼりにして。

「……いかないで」

 フウカはぎゅっと肩を両手で抱く。
 冷たく凍えた世界に一人きりにしないで欲しい。
 兄だけが優しくて暖かい光なのに。

 夜に沈んだ船室で膝を抱えていると、船が小刻みに揺れ始めた。
 波が荒くなっているのだろうか。
 気になったフウカは通路に出る。
 そこに通りがかった船員がしている会話を聞いた。

「嵐だって? 聞いてないぞ」
「いきなりシケリだしたらしい。運が無いな」

 どうやら静かな夜とはいかないようだ。
 船は嵐の下へ向かおうとしている。





 黒竜ステラは魔力レベルでいうなら、Bプラス。
 Aクラスには及ばないものの、多少の天候を操る力がある。
 近くにある黒雲をかき集めて船の上へ移動させる。
 彼女の放つ雷気が雲を変化させる。

「嵐に紛れて近付いて、アラクサラ君とソレルが船に降りるんだ」

 ロンドは眼鏡に湿気で曇らないように簡単な呪術を掛けながら言った。エファランの関係者だとバレないように、ロンドやイヴ達は私服に近い格好をしている。

「足場が揺れそうだな」
「自信がないの?」
「まさか」

 闇を透かすようにオルタナの紅の瞳が光る。
 獣人の彼には夜など関係ない。
 オルタナとイヴの二人で嵐の船に乗り込み、カケルを連れ出す計画だ。カケルに竜の姿を取らせないことが一番重要で、そにため素早く乗り込んで船の中でカケルを捕まえる必要がある。
 人の姿のカケルなら、多少力が強いだけの一般人だ。風を操る力は脅威だが、狭い船内ではその威力は半減するだろう。
 呪術で意識を刈り取って担いで逃げ出せばイヴ達の勝ち。

「……でも」

 イヴは真っ黒に塗りたくられた海を見下ろす。
 獣人でも竜でもない彼女には、船の位置も何も分からない。
 だが、風竜であるカケルなら上空の気配を感じられるはずだ。
 彼が本気で敵対するのであれば、この襲撃は事前に察知され妨害されてしまうだろう。

 カケル。
 貴方はどうするつもり?


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