挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.15 そして、俺は君と巡り合う

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

145/160

02 夜に紛れる影

「カケルか……」

 ソルダートに潜入中にカケルに会ったというスルトは、少し視線を宙にさ迷わせて思い出すような仕草をした。

「あいつ……相変わらず、阿呆だったぜ」

 白銀の髪の少年は物憂げな表情で呟く。
 しかしその湖色の瞳には茶目っ気のある光が宿っていた。

「エファランは濃い味付けだけど、本当は薄味の食べ物が好きだからソルダートの飯が口にあう。妹も可愛いからソルダートに移住するってよ」
「嘘よ!」
「ああ、嘘だ」

 鋭く声をあげたイヴは、スルトの人を食った返事に青筋を立てた。

「貴方、そこに直りなさい。嘘を付いたその口を炎系の術式で溶接してあげるわ!」
「こええ……んな、怒んなよ」
「どうどう、イヴ」

 リリーナがよしよしと宥める。
 イヴは浮かし掛けた腰を椅子に戻した。

「カケルの奴は元気だったよ。一緒にエファランに戻るか聞いたが、あいつ、やりたい事があるからって自分でソルダートに残った」
「やりたい事……?」
「あいつ、その気になればいつでも逃げられるんじゃないか。何か良からぬ事を考えてるっぽいぜ」

 スルトの言葉に、イヴは唸った。

「お昼寝竜の癖に、手間を掛けさせて……帰って来たら覚えてなさいよ」

 会話していると一同の前のテーブルに飲み物が乗ったトレーが置かれる。厨房から飲み物を運んで来たのはオルタナだった。
 彼はこの店で給仕のアルバイトをしている。
 手慣れた動作でトレーからカップを取り上げ、リリーナの前に置き……そのまま自席に戻る。他のメンバーにはお茶を配る気が無いらしい。

「ちょっとあんたっ」
「面倒くせー」
「別に良いじゃねえか、セルフで」

 憤るイヴは自分でトレーから自分のお茶を確保する。
 スルトは怒る様子も無く自分のカップを手元に引き寄せた。
 優雅にお茶に口を付けたリリーナが口を開く。

「予定を早めて私は先に高天原インバウンドに行くわ。ちょうどフウカ・ライブラも動くという情報が入ってる」

 戦争を回避したいエファランは高天原の諸国に働きかけて、ソルダートとエファランが和解するための国際会議を開催しようとしていた。
 リリーナは高齢のエファラン王に代わって高天原に赴く事になっている。
 予定が早まったのは、先日、エファランの部隊が国境を越えて同胞を助けるためにソルダートに攻撃したことが原因だ。エファランの心証を悪くしないために早期に説明して回る必要があった。
 一方、フウカが高天原に戻るのは、実のところ七司書家当主アリトが関係している。呪術書を手に入れて帰還したいと考えるアリトが、フウカとカケルを連れて戻ろうとしているのだ。だが、イヴ達は七司書家の事情にまでは通じていないので裏の事情は知る由もない。

「リリーナの護衛として、私達とロンド先輩達も同行する……途中で隙を見つけてカケルを捕まえるわよ!」

 今現在、ソルダートとの関係悪化のせいで、エファランと他国を出入りが厳しくなっている。公式の理由がなければカケルを追うことは難しい。
 イヴ達は持てる伝手を尽くしてエファランを出ようとしていた。





 一方、七司書家の者がソルダートを離れることを、歓迎する者はイヴ達以外にもいた。意外にもそれは、ソルダートの内側の者達だった。
 首都ジャグラダの政府高官が住む建物の高層で。
 ソルダートの元帥位にあるラグラート・バランは、酒の入ったグラスを片手に首都の夜景を見下ろしている。自室にいても眼帯を外さないラグラートだが、外とは違い前髪を下ろしている。金茶色の髪が眼帯に掛かっていた。

「……邪魔な七司書家の連中が一気に出ていく。これはチャンスだな」

 彼の背後には部下と思われる人物が立っている。
 部屋の光量は絞られていて、その人物は闇に沈んでいた。

「ソルダートは独立を目指す……高天原の口出しを受けないように、他を圧倒する力を付けるのだ。それにはエファランの国土にある資源が必要だ」

 エファランの豊かな富を奪ってやる。
 暗い部屋に響く密やかな宣言。

「呪術は高天原のもの、竜はエファランのもの。で、あれば我等ソルダートは自分のものと言えるのは……」
「ソルダートにも独自の技術がある。それをエファランに知らしめてやりましょう」

 背後の人物が言う。
 ラグラートは酒が入ったグラスを掲げた。

「ソルダートの未来に」

 カケル達の知らないところで、もうひとつの思惑が動き始める。それは、動乱の始まりの合図だった。





 暗い部屋の中でカケルは、ふと顔を上げる。
 風の中に不吉な何かを感じた気がした。

「……ううむ。父上に喧嘩を売ったのは、やり過ぎたかなあ。おかげで動きにくくなっちゃった」

 カケルは妹のフウカと引き離され、別の部屋に閉じ込められていた。七司書家の当主アリトの怒りに触れたせいだ。壁に描かれた魔方陣から動けないように、立ったまま手足を金属の枷で固定されている。
 アリトは慎重で疑り深い。呪術書アーカイブについてカケルが言ったことの裏を取ろうと、カケルを動けなくして調査を始めた。
 移動の時以外は部屋に閉じ込められたカケルは……お昼寝を満喫していた。

「どんな体勢でも寝られるし」

 枷には竜の力を封じる術式が組み込まれていたが、実のところ魔力レベルAの竜であるカケルを封じ込めるには物足りない代物だった。
 魔力レベルAに近い竜は人の姿でも魔法を操ることができ、様々な能力を持っている。カケルの場合は風を使って数キロ四方の情報を収集すること、カマイタチや竜巻を起こすことが可能だ。
 しかし、それらの普通の竜とは違う力をソルダートに来てからは人前で使っていない。
 呪術書を七司書家に返し、ソルダートの情報を収集した後は、カケルは機会を見て脱出するつもりだった。

「……イヴ、怒ってるだろうなあ」

 怒っていても、許されなくても、一度は帰って彼女に会おう。
 そう、決めていた。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ