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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.15 そして、俺は君と巡り合う

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01 雲のように風のように

 雲は綿菓子のように柔らかく甘く見えるが、実際は冷たくて固い。
 それでも雲を突っ切って飛ぶ爽快感は何物にも代え難い。
 地上から数百メートルの空は凍えるほどの風が吹いていて、空戦科で支給されているコートを着なければ、寒くて仕方が無い。生身の人間がそんな場所を高速で移動すれば本当は身体への負担があるのだろうが、竜騎士は竜の魔力で守られている。竜が高速で飛んでいても、竜騎士は若干の風圧を感じる程度で、普通に呼吸ができる。

 空は日々変化しており様々な天気になる。
 よく晴れて雲が少ない日は飛びやすい。
 逆に雲が多い、雨雲が掛かった空は雲が進路の邪魔をする。
 雲というのは水分の塊のようなものなので、雲が多い日、雲を突き破って何度も飛行すると、服が濡れるし自慢のストロベリーブロンドの長髪が湿気を吸って重くなる。

「ちょっと、雲に突っ込まないでよ!」
『まあまあ、後で乾かしてあげるからさあ。ひゃっほーー!』

 彼女を乗せた蒼い竜は雲がある時に飛ぶのが好きらしく、特に綿雲が大きく盛り上がっている時はテンションが上がる。雲に突っ込むのが気持ち良いらしい。
 火竜は水分を嫌うので雲に突っ込みたがらない。雲がたくさん浮いている空でも元気なのは、風竜と水竜くらいだ。
 イヴがパートナーを組んだ竜は風竜だった。
 彼は雲を長い尻尾で雲を蹴散らすのが楽しくて仕方がないらしい。
 飛行の実技の時に余裕があれば雲に飛び込みたがるので、イヴは手を焼いていた。
 もっとも普段から風竜の彼は自由気ままな行動をするので今更ではあるのだが。

「ちょっといい加減にしなさいよ、カケルっ」





 思い切り叫んだ次の瞬間、彼女はそれが夢だったことを知った。
 気付けば寮の自室のベッドの上で白い天井を見上げている。
 秋の陽光がゆらゆらと窓から差し込んでいた。

「カケル……」

 イヴ・アラクサラは、エファランのレグルス王立中央学校に通う4年生だ。
 成績優秀で、ちょっと見ないほどの美人で、特徴的な赤みがかったストロベリーブロンドの長髪を持つイヴは、4年生では結構な有名人でもある。
 イヴは竜騎士志望のため空戦科コースに進学して、パートナーを組んだ竜と共に空を飛ぶ実技を何度も受けている。先ほど見た夢はその飛行の授業の時の夢だった。
 パートナーを組んでいたのは風竜のカケル・サーフェス。
 自由気ままな風竜は今、敵国ソルダートに囚われ、彼女の元にいない。

 夢の残響にひたっていたイヴは、ベッドサイドのテーブルに置いた羊さんの縫いぐるみをぼうっと見つめた。羊さんはお昼寝大好きなカケルが「快適な昼寝のために羊を数える」という、しょうもない動機で量産した手作りの一品である。意外に手先が器用らしく、羊さんは絶妙な丸っこい身体に円らな黒い瞳が大変可愛らしい一作となっていた。

「馬鹿カケル……貴方、私が大人しく待っているとでも思っているの? 絶対にあんたを捕まえてやるんだから」

 貴方は私の竜よ。
 ふうっと息をつくと、イヴは掛け布団から抜けて立ち上がり、登校の準備を始めた。





 ソルダートと戦争に突入しつつある情勢のせいで、学校は上級生の姿が見えなくなっている。
 特にレグルス王立中央学校の空戦科、陸戦科は軍人の卵を養成する学科なので、真っ先に徴兵されてしまう。5年生、6年生で戦えると判断されたものは軍隊に編入されていた。学校の教師も軍人が出向扱いで教えに来ている者がいるので、彼等も今は軍隊に戻っている。
 学校は人が少なくなって静かだった。
 授業を受けたイヴは仲間達と打ち合わせをするために、放課後、街中の喫茶店の葡萄へ向かった。
 喫茶店の葡萄に入ると、そこにはすでに仲間達が集合して待っていた。

「おせえよ」
「あんたと違って私は真面目に学校に行ってるんだから、仕方ないでしょ」

 開口一番、文句を言ってきたのは金髪に浅黒い肌をした青年だ。
 彼の名前はオルタナ・ソレル。
 今は人の姿をしているが、獅子に変身できる獣人で、イヴと同じ学校の陸戦科の4年生である。彼は陸軍の将校を数多く輩出する名門ソレル家の生まれで、最近は家業の手伝いをしているようだ。もともと学校の授業に乗り気ではないのだが、これ幸いと家の手伝いを口実に学校をサボっているらしい。
 イヴは彼と気が合わない。
 恒例の口喧嘩をしてにらみ合っていると、様子を見ていた女子生徒がころころと笑った。

「イヴ、オルタナ、仲が良いのは分かったからそのくらいにしようよ。私、座ってお茶が飲みたいわ」
「仲良く「ない」「ねえよ」!」

 イヴに席に着くように促して、穏やかな雰囲気の緑色のショートボブの少女が微笑む。
 彼女はリリーナ・アルフェといってイヴの友人であり、また、今はいないカケルをリーダーとしたこのチームのチームメイトでもある。そして、秘密にしているのだが、実際の身分がエファランの王族でお姫様なのだ。オルタナは彼女の護衛だ。この面々の中でリリーナは唯一の非戦闘科である生産科に進学している。

「あーあ、相変わらずだな。お前等を見ていたら気が抜けるぜ」

 欠伸して椅子の背もたれに寄りかかっている白銀の髪の少年はスルト・クラスタ。
 カケルとイヴを中心としたこのチームの最後のメンバーである。
 童顔の美少年だが、このメンバーの中では一番年上だ。猫かぶりで必要なら天使の笑顔を使って敵を篭絡する手腕の持ち主だが、その実態はものぐさで天邪鬼な皮肉屋である。
 スルトはついこの間まで潜入任務のためソルダートにいた。
 彼がもたらした情報とこれからの動きについて検討するのが、今回集まった目的である。

「……聞かせて、スルト。貴方、カケルに会ったんでしょう」

 貸し切りになっている喫茶店の中、イヴは席に座って仲間達を見渡した。



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