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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.14 帰る場所を探して

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11 賢者となる者

 七司書家は呪術書アーカイブを管理する一族だ。
 呪術書とは、神が作り人に与え魔法の使い方を教えたという曰く付きの12冊の本のことである。見た目は辞書のように分厚い書物で、人間が扱える全ての呪術がそこに記載されているという。
 12冊の内、7冊を所有して呪術師の世界を支配したことが七司書家の始まりだった。

 しかし、七司書家にとって司書とは単なる呪術書の保管者を指す訳ではない。呪術書には、一般の呪術師が知らない役割がある。

「……そんなにダイアルフィールドの管理をしたいですか。俺には面倒な仕事にしか思えませんが」
「黙れ」

 カケルは父親に話し掛ける。
 足元で絡み付く術式を解析するための、時間稼ぎだ。

「七司書家の栄光も墜ちたものですね。本当の七司書である賢者サージを一人も揃えられないのだから」
「っ、この出来損ないが、何をぬけぬけと」

 アリトの額に青筋が立つ。

「お前が、役に立たぬからだろう!」

 呪術書アーカイブのもう一つの重要な役割。
 それは中央機構セントラルシステムへアクセスしてダイアルフィールドの調整を行うための鍵であること。
 高天原インバウンドを覆い、人間の住む地域を守る神代の結界ダイアルフィールド。選ばれし結界の管理者7人は、各国の王族や秘密を知る高位の呪術師達から賢者サージ、または七司書セブンライブラリアンと呼ばれる。
 七司書家の過去の栄光は、貴重な呪術書を揃えたことではない。叡知を誇る賢者を一族から輩出したことによるものだ。

 今の七司書家には、賢者となる者、本当の七司書セブンライブラリアンがいない。

 だが七司書家は力を失った事実を公から隠してきた。
 いずれは一族から再び賢者が現れると信じて。
 本家の長老達と当主であるアリトが禁術に手を出してきたのは、積み重ねられた焦りのため。
 数百年に渡る旧家の誇りは降り積もった雪のように、家の出入り口を埋め、氷の下に家人の心を閉じ込めた。

 血の繋がった父親の声は冷え冷えとしている。
 息子を見る瞳は他人を見るのと変わりない温度を保っていた。

「手間を掛けて育ててやったのに、呪術師になり損ない、あまつさえ家を出て竜になるとは。まあ初めから、双子のどちらかは竜にするつもりで調整していたが」
「竜にするつもりだった……?」

 カケルは父親の言葉を反復する。
 竜になるのには素質が必要だ。エファランに生まれた者ならともかく、高天原で生まれた自分に素質があるかどうか、悩んだ時期もある。

「勢い付いたエファランにソルダートを対抗させるため、エファランの騎竜技術について検証していたのだよ。同調効率の良い竜と竜騎士のペアを作るための実験を、七司書家で行っていた。お前とエルナは実験で産ませた子供だ。双子の内どちらか優秀な方を呪術師にして、余った方を竜にする予定だった」

 兄のカケルは想定を遥かに越えて優秀だったために、予定を変更して次期当主として教育し、本家で育てることにした。
 しかし、カケルは呪術師にはなれなかった。
 苛立たしげに語る父親に、カケルはうつむいて唇を噛む。

 竜になったのは自分の意思だと思っていたのに。
 初めから予定されていたことだったとは。
 実験動物だと血の繋がった父親に明言され、自分に何の価値も無いような絶望感が押し寄せる。理性は、所詮は血の繋がっているだけの他人の言うことなど気にするなと言う。だが感情は理屈では制御できない。

「……しかし、風竜とはな。火竜にするつもりだったのに、本当に役に立たない子供だ」

 暗澹とした気持ちで父親の言葉を聞いていたカケルは、顔を上げた。

 エファランで吹く乾いた風が、一瞬、頬を撫でた気がした。

 エファランでは、攻撃力の低い風竜だからといって差別されたりはしない。相性の良い竜騎士と組めば最強の竜になれることを、カケルは思い出した。
 カケルは風竜になって良かったと思っている。
 逃げ回ることも、弱いことも、悪いことではない。
 父親の言っていることは物事の一面でしかない。もっと広い世界を、青くて大きな空を、翼で空を切って飛ぶ風の心を知っているから。
 だから、もう怖くはない。

「呪術書さえ取り出せば、お前は用済みだ」
「……取り出してどうするつもりです、父上?」

 カケルは口の端に不敵な笑みを乗せる。
 会話を聞いていたフウカとユーリが、驚いた様子を見せる。七司書家の者にとって、当主の言葉は絶対だ。かつてそうだったからカケルにも理解できる。二人は当主に口答えするカケルに驚いている。

「アオイデではない、こんなところで呪術書を実体化させれば、盗まれても文句は言えない。論理化データにして自分の身体に入れますか? 俺がしているように」

 呪術書アーカイブの一冊は今、カケルが持っている。
 辞書のような重さと大きさがある呪術書は、持ち運びに大変不便だ。勿論、カケルは家出するときに本の一冊も持ち出すことは無かった。
 呪術書はカケルの中にある。
 目に見えないし、指で触ることはできないが、確かにここにある。書物という物理的なモノを呪術でほどいて論理的に圧縮し、物理法則の外にある呪術的な領域に収めているのだ。

「止めておいた方がいいですよ。内部の呪術領域を破損する恐れがある。だから、俺は呪術師になれなかった」
「何だと?」

 アリトは眉を動かして反応する。
 父親に向かってカケルは淡々と説明した。

「俺が何故、呪術師になれなかったのか。それは、正規では無い方法で呪術書を論理化して取り込んでいたからです。父上は気付いていましたか?」
「可能性は検討していた」
「じっくり調べる前に俺が家出しましたもんね。さて、リスクを冒して今ここで俺から呪術書を引き剥がしますか」

 ふてぶてしく笑う息子に、アリトは不機嫌そうにする。

「見え透いた時間稼ぎを」
「それでも俺の言葉が嘘か本当か、今すぐ確かめる術はない……ぐっ!」

 突然、足元の術式が弾けてカケルは壁に叩きつけられる。
 アリトはギリギリと歯噛みして唸った。

「言わせておけば調子に乗りおって。お前には躾が必要なようだな……」

 掛かった。
 うつむいた顔で父親に見えないように口角を上げる。
 カケルの計画は予定通り進んでいる。

 呪術書を七司書家に返す計画が。

 七司書家と縁を切りたいカケルにとって、自分の中にある呪術書は無用の長物だった。呪術書を持っていると各方面から狙われる。イヴを呪術書を巡る戦いに巻き込みたくなかった。
 だが困ったことに、カケルは自分自身から呪術書を取り出すことができない。
 呪術書を取り出すことが出来るのは父親のアリトのみ。
 また、自分の一部として溶け込んでいる呪術書を強引に引き剥がそうとすると、カケル自身にダメージがある。
 父親はカケルの身など気にせずに呪術書を取り出そうとするだろう。自分の身を守りながら呪術書を返すためには、アオイデにこもっている父親を引きずり出す必要があった。

 生まれ故郷、七司書家の本拠地があるアオイデは、もうカケルの帰る場所では無くなってしまった。

 俺はエファランに帰る。
 そして……彼女と一緒に空を飛ぶんだ。
 蒼天を貫いてどこまでも、いつまでも。







 Act.14 帰る場所を探して  完

 Act.15 そして、俺は君と巡り合う  へ続く

ここまでご拝読ありがとうございました。
次回はイヴ視点になる予定です。
二人の心境の変化や成長をじっくり追いかけたいので展開がスローペースですが、お付き合いいただければ幸いです。
ひとつだけ、読者の皆様にお約束します。この物語は「けっして絶望しない」物語です。シリアスになってもカケル君は絶望していないので、必ず乗り越えられます。
現実世界の皆様にもカケル君の諦めずにふわふわするする生き方、気持ち良い風が届きますように!
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