挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.14 帰る場所を探して

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

142/160

10 呪術書の守り手

 敵の呪術師に侵入ハッキングを受けた時、カケルの声が聞こえた。空耳ではない。何らかの手段を使って、カケルは自分と敵の間に割り込んだ。そして、ロンドを助けたのだ。
 蒼い竜の動きが鈍ったのは、おそらく侵入ハッキングに割り込むのに力を使ったせい。
 墜落する蒼い竜を見ながらロンドはそれを理解していた。

『討つなら今よ』
「待ってくれ!」

 追撃に移ろうとする黒竜ステラを押し止める。
 カケル、お前はそこにいるのか?

「……生かして、捕らえる。搭乗者もろとも」

 蒼い竜は背中に乗っている少女を庇う動作を見せた。
 ソルダートの軍人の服装をしているが、カケルと親しい誰かなのだろう。
 ロンドは傷付いた翼で地上に不時着した蒼い竜に近付こうとした。まずは、敵の呪術師を捕らえる必要がある。契約紋で縛られている竜は、主である呪術師を拘束しなければ止められない。
 しかし。

『撤退の命令が出たわ』
「ステラ先生!」
『落ち着いて状況を見なさい。私達は踏み込みすぎた。これ以上、ここに留まれば逆にソルダートに捕まってしまう』

 実戦経験豊富な黒竜の冷静な声に、ロンドは付近の空域に飛ぶ友軍と敵軍の位置を確かめた。
 こちらに向かってくるソルダートの竜騎兵。
 エファランの竜騎士達は、脱走したスルト達を囲んで撤退しようとしている。

「くそっ!」

 ロンドは毒づくと、素早く退路を計算し始める。
 黒竜は身を翻してエファランの国土へと戻り始めた。




 行ったか。
 遠ざかる黒竜の姿に、カケルは安堵する。
 雷撃を受けた翼がひりひり傷むが、風の魔力を操って何とか地上に降りることはできた。

「兄様……なぜ邪魔をしたの?」
『さあ、なんでだろうね。フウカ、魔眼を使った侵入ハッキングは切り札としてとっておいた方がいい。できる呪術師ほど奥の手は隠すものだよ』
「兄様は呪術師じゃないでしょ!」
『そうだね』

 カケルは呪術師ではない。
 呪術師ではなく竜だ。攻撃性を持たない風竜。
 だが風竜だからこそエファランの仲間を傷付ける心配はない。この牙もこの爪も、他の竜を倒すには余りにも弱く、魔力を駆使したとて、竜の鱗を切り裂く風を作り出すことはできない。
 弱いからこそ、誰も傷付けずに済む。
 誰も殺さなくていい。

『フウカ……誰かを傷付ければ必ず自分に返ってくるんだ。だから俺は卑怯と言われても逃げ回るんだよ』
「じゃあなんで私に捕まったの。兄様なら逃げられたはずでしょう」

 蒼い竜の首筋を撫でながら、フウカは答えが何となく分かっていた。
 兄が戻ってきたのは私のためだ。
 そのために自分の身を危険に晒している。
 とんでもない馬鹿だ。





 少し休んで体勢を建て直した後、カケルは妹とアルダ基地に戻った。
 二人を出迎えたのは異母兄ユーリだった。

「やあ、盛大にやられたようだね、ユエル。お疲れのところ申し訳ないが、父上が来てる」

 ユエルとは、カケルのもうひとつの名前だ。
 兄は冷ややかな表情で弟を見下ろした。人間の姿に戻ったカケルだが、翼の傷の影響で顔色が良くない。竜の姿で受けた傷は人間になれば塞がるが、傷の大きさによって体力を消耗する。
 青ざめた顔でユーリを見上げるカケル。

「兄様は怪我をしてるのよ。後にして」
「駄目だ」

 フウカが庇おうとするが、ユーリは却下する。

「当主の命令は絶対だ。お前はいつから拒否できる身分になったんだ、フウカ?」
「……っ」
「こっちだ」

 基地に戻ってすぐで、フウカは着替えも済んでいない。
 そんな二人をユーリは有無を言わさずに奥の部屋に連れていく。
 重い身体に鞭打って歩きながらカケルは父親との対面について考える。
 ずっと逃げて、逃げて、逃げてきた。
 七司書家から。自分の運命から。父親から。
 できればもう二度と会いたくないと思っていた。

 基地の中でも貴賓を迎えるための部屋、その重い扉がゆっくり開かれる。
 机を挟んで奥に立つ中肉中背の男。
 藍色の髪には白いものが混じり始めているが、険しい顔つきと鋭い目、鋼の芯を飲み込んだような姿勢からは、圧倒的な威厳が拡散されている。

「連れて来ました」

 ユーリは双子の兄妹を部屋の中に押し込むと扉を閉め、自分は扉近くの壁際に佇む。
 七司書家の当主、アリト・エルス・ライブラが口を開く。

「随分と、手間を掛けさせてくれたな。ユエルよ」
「くっ」
「兄様?!」

 カケルの足元に一瞬で複雑な術式が円を描いて絡み付く。
 普通の人間には見えないそれは、しかし、呪術を肉眼で目視できる魔眼を持つ七司書家の三人には当然のように見えている。
 フウカは兄に絡み付く術式を千切りたい葛藤に駆られたが、当主である父親に逆らうことは出来なかった。

呪術書アーカイブは無事だな……」
「はっ、息子より呪術書アーカイブの心配ですか」

 カケルは絡み付く術式を密かに解析しながら、父親に向かって吐き捨てた。
 呪術書とは、あらゆる呪術が収められた神代から伝わるアイテム。
 呪術師にとっては特別な意味を持つ。そして、七司書家はもともと呪術書を管理するために作られた家だ。
 血を分けた子供より、物の方が大事かと聞くカケルに、父親であるアリトは表情を変えずに答える。

「何を当然なことを。お前など呪術書を入れる器、只の入れ物に過ぎない」

 我らは司書。
 呪術書アーカイブの守り手なのだから。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ