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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.14 帰る場所を探して

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09 きょうだいの戦い

 妹のフウカを乗せたまま黒竜ステラと交戦を始めてしまったカケルだが、妹の意図が気になっていた。
 特別顧問が前線に出る必要はない。
 フウカは基地に残っていても良い身分だったのだ。

『……フウカ。あの黒い竜とこれから交戦するけど、大丈夫?』
「大丈夫って何が?」
『いったい俺の妹は何のために前線に出てきたのかと思って』

 直接、前線の様子を見たかったのだろうか。
 考えてみても今一つ分からなかったので、カケルは念話で直接聞いてみた。

「竜に乗った戦い、空戦というものを体験してみたかったの。兄様と一緒なら危険はないでしょう」

 長い黒髪を風になびかせながらフウカはあっけらかんと答える。
 カケルは竜の姿で戦闘中でありながら、頭を抱えたくなった。

『妹よ! 頼りにしてくれるのは嬉しいけど、俺は風竜! 単体では攻撃力も無くて、自分で言うのもなんだけど弱っちくて使いどころが難しい竜なんだってば!』
「え? お兄様ならそこをなんとか」
『なりません。フウカ、エファランの空軍が空で最強なのは、色々な属性の竜を戦略的に運用できるからなんだよ。俺はソルダートの指揮下では竜としての力を十二分に発揮できない。だって俺は他の火竜や水竜を支援することで実力を発揮する竜だからね』

 我がことながら、カケルは説明していて泣きそうになってきた。
 風竜のカケルは攻撃性の高い呪術師とセットで初めて最強の竜として空に君臨できる。
 火竜と違って風竜は一人では何もできない竜なのだ。

「分かったわ。とりあえず、兄様は飛ぶことに集中して。あの呪術師は、私が何とかする」

 大丈夫かなあ。
 色々不安になりながら、カケルは雷撃を回避しながら急旋回を続けた。
 エファランの竜と竜騎士はお互いの能力を把握して、補いあって戦うものだが、兄妹でありながらカケルは妹のフウカの得意な呪術を知らない。とはいえ、妹は七司書家の呪術師として不得意な呪術などないはずで、おおよそどんな呪術でも使えるはずなのだが。

『おっと』

 上昇する先に罠を感知した蒼い竜は、進路をずらす。
 設置型の呪術で空中に罠を置くのはロンドの得意技だ。
 雷竜で素早いステラとの連携と、進路を遮る罠に、徐々に距離を詰められつつある。

「粗い設置型の呪術ね。術式中断キャンセル!」

 状況を理解したフウカが空中に置かれた呪術を解除しはじめる。
 七司書家の本家出身なら、誰でも魔眼と術式解析、解除の能力を持つ。
 フウカの琥珀色の瞳の先に設置された術式が解かれて消える。
 それと同時に黄金の雷撃が蒼い竜の翼の先をかすめた。
 バリバリと雷鳴が響く。
 黒竜が発する静電気のような雷の魔力が、蒼い竜の素早さを鈍らせる。
 本来のパートナーであるストロベリーブロンドの少女と一緒なら、風の魔力で強引に雷を散らすことも可能だっただろう。フウカは呪術師としては優秀で、双子の兄妹であるがゆえに同調しやすいが、それだけだ。
 もたもた飛んでいるうちに黒竜に斜め上の位置を取られてしまう。
 空戦は上を飛んだ竜が有利となる。
 しかし、空戦を知らないフウカには関係ない。

「私の上を飛ばないで! 不敬よ、貴方!」
『フウカ……?』

 風になびく艶やかな黒髪を抑えながら、呪術師の少女は笑った。
 その琥珀色の瞳と、上空から呪術を撃とうとしているロンドのヘーゼルの瞳が一瞬、絡み合う。





「……侵入ハッキング!!」





 ロンドは三次元に空間を把握しながら、蒼い竜の進行方向に罠を置き、黒竜と協力して蒼い竜を追い詰めようとしていた。蒼い竜の動きは彼の知る風竜らしい滑らかなものだが、今ひとつ力強さや意気込みに欠けている動きだ。きっと、あのストロベリーブロンドの少女と一緒ではないからだろう。
 胸に去来する痛みをロンドは眉をしかめるだけでやり過ごした。
 カケルが利用されて、エファランの人々を殺すようになる前に、ここで終止符を打つのだ。
 それが兄貴分としてロンドがしてやれる唯一の情である。

 速度で優るはずの風竜を追い越して、黒竜ステラは上昇する。
 ロンドは空戦において絶対的に有利な位置に立ち、斜め下に飛ぶ蒼い竜を見下ろした。

 蒼い竜の背中にはソルダートの軍服を着た少女が乗っている。
 黒い髪を風に散らしながら、少女がロンドを見上げる。
 遥かな距離をおいて少女の琥珀色の瞳がロンドを真っ直ぐに見た。
 少女の薄紅色の唇が吊り上がるのが見える。
 その瞬間、ロンドは彼女と視線を外せなくなった。
 視界が揺れる。

『いけない! ロンド!』

 ステラの慌てた声が脳裏に響くが、ロンドはそれに返事をする余裕がない。
 呪術師にしか見えない視界では、ロンドの呪術の支援妖精ナビゲータである円盤型の魚の姿をしたサーフィンが空中を泳いでいる。サーフィンは無機質な声でロンドに警告する。

第一防衛壁マインドウォールを突破されました。外部実行中の術式を中断、コアプログラムの防御システムの優先順位を上げます』

 知識でしか知らなかったが、これが侵入ハッキングなのか。
 頭の片隅でロンドは冷静にその事実を確認する。
 今、敵の呪術師と呪術回路が繋げられ、ロンドの彼女の呪術的な距離がゼロとなった。
 視界に白い靄が広がる。視界が敵の侵入で乗っ取られたのだ。
 靄の中にたたずむ黒髪の少女。
 その傍らに深紅の狐の姿が見える。あれが敵の支援妖精ナビゲータか。

「サーフィン、攻撃ウイルスの準備を」
『ここで使用すれば、術者本人も巻き込まれます』
「構わない。相打ち覚悟だ」

 ロンドは防御、補助タイプの呪術師だ。攻撃タイプの呪術師より侵入ハッキングは難しいはずなのに、こうも易々と、視線を合わせただけで侵入ハッキングされてしまうとは。
 残る迎撃手段は、敵諸共、内部で術式を実行して自爆する他ない。

「ふふっ。七司書家の者相手に、そんな見え透いた防衛や攻撃が通用すると思っているの」

 黒髪の少女がころころと笑う。
 少女の足元から紅蓮の炎が燃え広がった。炎は足元からじわじわとロンドを炙る。
 ロンドは冷や汗をかいた。こうして向き合うと、相手の力量をはっきり感じ取れる。目の前の少女の呪術は、ロンドの遥か上をいっている。はたして相打ちに持ち込めるかどうか。
 侵入ハッキングされて、内部を術式で攻撃されるのは、物理的な呪術の攻撃よりも厄介で深刻だ。術者の内部を攻撃されれば、良くて呪術を使えなくなり、最悪は精神破壊された廃人となる。それは、ある意味、死よりも恐ろしい末路だ。
 ステラと契約していれば、もっと他の対応方法があったかもしれない。残念なことに、ロンドはいまだ彼女と契約に至っていなかった。ゆえに、この戦いは孤立無援。誰の助けも借りることもできない。
 呪術師としてロンドは敵に敗北しようとしていた。

 その時。
 白い靄に覆われた視界に風が吹く。
 霧の切れ間に見える青空。

『……フウカ。ちょっとやりすぎだよ』

 馴染みのある、柔らかな青年の声。
 次の瞬間、ロンドの視界の霧は晴れ、竜同士の戦闘のただ中に引き戻される。

『ロンド! 仕掛けるわよ!』
「あ、ああ」

 黒竜ステラが雷撃を撃とうとしている。
 咄嗟に状況が分からないまま、ロンドは頷いた。急に現実世界に戻ってきたせいで戦況が把握できていない。
 視線の先で旋回する蒼い竜の動きが鈍っている。
 なぜ?

「……まさか」

 止める間も無かった。
 黒竜の正確無比な雷撃が蒼い竜に打ち込まれる。
 敵の呪術師は防御結界を張ったようだ。さらにその上から、蒼い竜が翼を傾けて搭乗者を守ろうとしている。その翼へ雷撃が突き刺さる。


 くぅぅおおおおおおっ……


 苦痛を訴える竜の咆哮。
 空の色の翼に無残な穴が空き、竜は辛うじて姿勢を制御しながら、地面へと墜落する。

「カケルっ!!」

 何が起きたのか、ようやく把握したロンドは、悲鳴のような声で彼の名前を呼んだ。


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