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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.02 竜になったはいいもののパートナーを選べと言われて悩む俺

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01 世界の始まりについてのお伽話

 さて、物語を進める前に少し時間を頂いて、この世界について語ろう。
 やや長くなるので、先のストーリーが気になる方は一旦読み飛ばして頂いても良い。




 これは、世界の始まりに纏わるちょっとしたお伽話。




 この星には元々、竜と獣人だけが住んでいた。
 彼等は人間の姿ではなく、獣の姿で暮らしていたという。日常生活も獣の姿で過ごしているうちに、いつの間にか人間の姿をすっかり忘れてしまっていた。

 数千年前、空から白い船が降りてきた。

 船から出て来たのは、二足歩行の不格好な生き物。
 人間。
 竜と獣人は白い船から出て来た生き物を見て、自分達のかつての姿を思い出した。

 それが全ての始まり。

 星の海を渡ってきた人間達と、竜や獣人が一緒に暮らすようになるには、長い時間が必要だった。というのも出会った最初にいさかいがあったからだ。互いの認識の相違から、竜は人間を殺してしまった。
 その過程で、宇宙を渡る程の技術があったのに、白い船は壊れ、星の海を渡る技術や、何故この星に来たのかという歴史は失われてしまう。
 唯一失われなかったもの。
 それが魔法、呪術や法術だった。

 白い船と、船に乗っていた人々を守護していた12柱の神は、魔法を使って、人間を守るために一部の地域を丸く覆う半透明の壁を作った。
 この壁の内側を高天原インバウンドと呼称する。

 神々は高天原から竜や獣人を排斥した。

 白い船の神々は最初に起きた悲劇を忘れなかった。竜や獣人をモンスターの類とみなし、壁の向こうに追いやった。

 長らく、竜と獣人と人間は交わらなかった。

 事情が変わったのは700年程前。
 勇気のある一部の人間や竜が、神の作った壁を乗り越えて、交流するようになった。
 そうして、高天原の外に竜と獣人と人間が住む、エファランという国が出来た。

 創世暦1650年現在、竜と獣人と人間は同じ人類として、共に手を携えて歩みを進めている。




 続けて、現在の世界の情勢について説明しよう。




 カケル達が住む大陸は、祝福された大地「ブレスフィア」と呼ばれている。しかし、ブレスフィア大陸と真面目に呼ぶ者は少ない。この大陸に住む多くの者は、「出身地は?」と聞かれると、「高天原インバウンド」もしくは「葦原国アウトバウンド」と答える。
 人が住む場所は、神が住まい結界に覆われる高天原と、その外である葦原国に分かれている。

 カケル達の国、エファランは葦原国だ。結界の外には人間を食うモンスターが生息していて、葦原国にある国は少ない。ブレスフィア大陸ではエファランともう一国、ソルダートという国があるだけである。
 キャンプの事件があったように、この2国は仲が悪い。

 エファランは竜や獣人が中心となって建国した国だ。対して、ソルダートは高天原インバウンドから支援を受けた人間中心の国。
 二つの国の争いは、この世界の人類が抱える問題の縮図だ。
 星の海を渡ってきた人間達。
 この星に元々住んでいた竜と獣人。
 長い時間を掛けて融和していった両者だが、いまだ埋められぬ溝がある。




 長くなってきたがあともう一つだけ。
 魔法について説明する。




 人間の使う魔法は、この世界には2種類存在する。

 ひとつは、神の力を借りて実行する法術。
 リリーナが使った神唱歌ディバインソングはこれにあたる。法術は、12柱の神それぞれで異なった効果を持つ。使うには教会で洗礼を受ける必要がある。神に気に入られるかどうかという条件があるため、法術の使い手は意外に少ない。

 もうひとつは、呪術。
 法術より条件が緩いため、使い手の数は多い。呪術書を読み解く、あるいは先輩の呪術師から特殊な方法で呪術を写して貰うことで呪術師となる。特別な条件や特別な能力は必要ない。呪術師になるだけなら、勉強する必要もない。呪術を使いこなすのには、ある程度知識が必要だが。
 呪術師になった瞬間、呪術の実行をサポートしてくれる妖精のような存在が現れる。妖精はナビゲータと呼ばれ、呪術の簡単な使い方を教えてくれたり、呪術師が困った時には自分の判断で呪術を実行してくれる。ナビゲータは通常、一抱えほどの大きさの動物の姿をしており、術者本人以外には見えない。

 竜や獣人も、魔法のような能力を持っている。

 特に竜の使う魔法は、地水火風などの属性で攻撃するもののため、呪術や法術より想像しやすいかもしれない。勉強しなくても使えるので、呪術などよりずっと使い易い。ただ、人間の使う魔法と違って、本人の素質に大きく左右されるため、使える者が非常に少ない。



 世界についての説明はここまでにしよう。



 カケルは昼寝のために、竜となる進路を選択した。
 無事竜になったはいいものの、希少な風の魔力を持つ竜を昼寝させておくのは勿体ないと、無理矢理、空戦科に転向させられる。
 果たしてカケルは本人の望み通り、毎日だらだら寝て過ごす生活を実現できるのだろうか。







「無理じゃないか」
「ロンド兄~!」

 そりゃないよ、とカケルはがっかり肩を落とす。
 パレアナ女史に空戦科へ進学するよう宣告された帰り、カケルは頼りになる兄貴分のロンドの元に寄って、なんとかならないかと泣きついていた。
 学校の放課後の廊下で、涙目で愚痴るカケルの姿はとても目立っていたので、取り急ぎロンドは彼を連れて食堂の隅に移動していた。

「運が良いと言うか、悪いというか…魔力の強い竜になってしまったんだから、仕方ないだろう」
「そんなこと言わずに、ロンド兄からも言ってやってくれよ~。俺は空戦科には向いてないって」
「うーん」

 強い力を持つ竜に進化出来たのだから、普通なら喜ぶところだが、カケルの顔には悲壮感しかない。
 そんなに昼寝がしたいのか。

「でも実際問題、竜騎士と契約した方がいいぞ。魔力の強い竜は狙われるし、契約していない竜は無防備だ。
 無理矢理契約させられて、操られて戦わされて、もっと昼寝どころじゃなくなるかもしれないんだぞ」
「契約……」

 カケルは酸っぱいものを食べたような顔になった。

「別に空戦科行かなくても、契約できるじゃん。
 そうだ、ロンド兄はフリーだよね。俺と契約してよ!」

 今日の夕食を決めるような気軽さで言われて、ロンドは渋面でカケルを諭した。

「カケル、契約は一生ものなんだぞ。そんな簡単に……」
「俺、ロンド兄は信頼してるからさ、大丈夫だよ。ロンド兄は決めてる竜いるの?」
「いや、いないが。だがな」
「なあ~、人助けだと思って、一生のお願い!」

 両手を胸の前で組んで、うるうるした目で見上げるカケル。ロンドは眉間を揉んだ。言いたいことが色々あるが、その前に。

「アラクサラ君でなくていいのか?」
「え? そこでなんであいつの名前が出て来るの」
「こないだのキャンプの最後の方で、お前達、息が合ってるように見えたが」

 そう指摘すると、いつも単純明快なカケルには珍しく、眉を寄せて複雑な表情になった。

「たまたまだって」
「そうか。とにかく、僕も自分の騎竜については、ゆっくり慎重に決めたい。お前ももう少し考えてからにしろ」
「あ、ロンド兄、空戦科だっけ」
「忘れてたのか。別に僕と契約しても、空戦科なのは変わらないぞ?」
「そうだった」

 ロンドは空戦科の4年生だ。4年生以上を表す濃紺の制服の衿元に、空戦科所属を示す翼を象ったバッジが付いている。対して、カケル達3年生以下は灰色の制服だ。
 思い通りにいかずに落胆したカケルは、ぐだーっと机に寝そべって俯く。

「俺はただのんびり優雅に昼寝したいだけなのに」
「おや、お前のことだから、その辺の道端で昼寝するかと思ったが、まだなのか? 別に昼寝禁止じゃないだろう」
「してみたんだけどさ…はあ……」

 竜の姿で昼寝をしようとしてみたカケルだが、寝そべって数分で周囲に人が集まり出したので諦めた。
 カケルの竜の姿は、蒼い鱗がサファイアのように輝く美しい竜だ。普通の竜は茶色か緑系の落ち着いた体色なのに比べて、明らかに特別な竜だと分かる容姿をしている。
 近所の人が珍しがって見に来たり、サファイアのような鱗を子供がつんつん指で触ったり。
 ゆっくり眠ることは不可能だった。

 人目に付かずにのんびり眠れる場所を確保すること、空戦科の授業を効率よくサボるために、煩く言わない竜騎士と契約すること、さしあたってはこれがカケルの目標だった。


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