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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.14 帰る場所を探して

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07 脱出

 首都ジャグラダの竜舎3Cで、アルダ基地に移される竜が引き出される。
 エファランから攫われてきた火竜マリアも、その中にいた。
 彼女は前線のアルダ基地への増軍部隊の竜として派遣される。
 契約紋のくびきで繋がれたマリアは命令に逆らうことはできない。
 ソルダートの国旗が付いた鞍を取り付けられ、契約紋でしばっている兵士が鞍の上によじ登ってくる。

「飛べ」

 命じられたマリアは大人しく翼を広げて地を蹴った。

「国境線にエファランの奴らが近づいているらしい。お前にとっては、元仲間か」

 兵士が語り掛けてくる。
 ぞっとするほど軽薄な口調で彼は言った。

 お前は仲間を殺すことになる、と。

 マリアは絶望で心が黒く染め上げられるのを感じた。
 エファランの人間を殺したら、もう後戻りできない。
 たとえ許して貰えたとしても自分で自分を許せなくなる。
 もう戻れないのか。

 その時、色を失った視界に見覚えのある竜体が映りこむ。
 火竜ばかりの竜達の中で、すんなりとした肢体と大きな翼に長い尾を持つ竜。
 その竜は背中に軍服を着た少女を乗せている。
 風竜。
 冷たく澄んだ風が鼻先に打ち寄せて、鱗を撫でた。

 大丈夫だよ。

 そう、幻の声が聞こえた気がした。





 増軍部隊と一緒に移動しながら、カケルは部隊の中にマリアの姿を確認した。
 予定通りだ。

「……お兄様、何を企んでいるのかしら?」
『とっても悪いことだよ』
「言っておきますけど、私はお兄様の手綱を離すつもりはないですからね」

 いざとなれば契約紋を使って止めると、妹が脅してくる。

『おお怖い。俺の妹は乱暴だな』
「兄様……」

 フウカは蒼い竜の上で唇を噛んだ。
 彼女は知っている。
 兄を本当の意味で拘束することは不可能なのだ。
 本気になれば逃げられてしまう。
 ずっと、一緒にいたいのに。

『……フウカ。俺はまだ当分、君といるよ』
「カケル兄様は、嘘ばっかり」
『本当だよ』

 柔らかな兄の声音に、フウカは深呼吸した。
 眼下にアルダの街と基地が見えてくる。
 事前の情報ではエファランの部隊が国境近くに近づいているということだ。
 何かが起きる。
 それにはきっと兄が一枚噛んでいるのだ。





 妹を地上に降ろしたカケルは、人の姿に戻るとアルダ基地の竜舎に向かった。
 そこには火竜のマリアが収容されている。
 静かに竜舎の戸を開けて内部に滑り込んだ。
 カケルの姿を見ても竜達は騒がない。
 ここにいるのは無理やり捕らえられている竜ばかり。騒ぐ理由も意思もなく、ただ絶望して無気力になっている。静かな彼等の間をすり抜けて、カケルは上品な赤色の鱗をした竜に近寄った。

「マリア、人間の姿になって」
『どうして……? 命令されてない』
「いいから早く」

 戸惑う彼女を促して、人間の姿になってもらう。
 ソルダートの囚人服を着た彼女にそっと手を伸ばす。
 カケルの手がマリアの虚ろな瞳のそばを撫でた。
 同時に、竜舎の外で騒ぎが起きたらしく、ざわめきが聞こえる。
 囚われていたエイド達が、檻を破って逃走を始めたのだ。

 カケルは隠し持っていたナイフを自分の指に走らせて傷つける。
 指先に滲んだ血をそっと、マリアの腕に描かれた契約紋の上に乗せた。

「何?」
「……解析アナライズ

 マリアの腕を掴んで低く呪文コマンドを唱える。
 それはカケルに使える唯一の呪術。
 魔眼に付属するこの能力で、カケルは自分に掛けられた呪術なら解析して無効化することができる。今回は、血を媒介に竜の念話も応用してマリアの内部の術式と同期する。七司書家出身で、本家直系のカケルだからこそ使える、いわば裏技だ。
 複雑な契約紋の術式は普通、解くことはできない。
 だが新たな術式を作れるほどに呪術の術式に詳しいカケルなら、話は別だ。
 集中するカケルの額から汗が落ちる。
 その汗の滴に呼応するように、マリアの腕に描かれた契約紋の文様が薄くなって、消えた。

「君の契約紋は、解約した」
「え?」
「ここにエイドさんが、エファランの仲間が来るから、竜になって彼等を乗せて、脱出して。大丈夫、今ならエファランに戻れるから」

 身体が軽くなって、マリア自身も呪いから解放されたことを感じていた。
 しかし急には動けない。
 目の見えない彼女は硬直して周囲の物音に耳を澄ませた。
 荒々しく扉を開ける音がして誰かが踏み込んでくる。

「おいカケル、準備はできたかよ!」

 背の高い金髪の獣人の男性、エファラン陸軍のエイドを連れて、スルトが竜舎に入ってきた。
 二人はカケルの姿を認めて駆け寄ってくる。

「連れていくって、こいつマリアかよ! よく無事だったな! 連れ出して大丈夫なのか?」
「スルト……?」

 マリアはかつての同級生の声を聞いて、徐々にこれが現実だと認識し始める。
 冷めていた指先に血の気が通う感覚。

「大丈夫、契約紋はもう無い。竜になってマリアさん! スルト先輩や皆を乗せて、エファランに帰るんだ!」
「エファランに、帰る」

 繰り返したマリアは、これが悪夢から脱するチャンスだと気付く。
 彼女は頷いて、竜に姿を変じた。
 スルトはさっさと竜の背によじ登る。エイドと、エイドに続いて入ってきた獣人達もそれに続いた。竜舎の竜達は近くで行われている脱出劇に気付いているが、命令が無ければ動けないので静観している。
 火竜の背に乗ったスルトが、下に立っているカケルを見て叫んだ。

「お前も来ないのか?!」
「俺はここに残る」

 カケルは短く返す。
 まだ、確かめたいことや、やりたいことが残っていた。
 竜の背からエイドが身を乗り出すと鋭く、カケルに向かって叫んだ。

「サーフェス、エファランに帰ってこい!」
「……! 貴方は以前、俺にエファランから出ていけって」

 親友の兄である彼は、以前会った時は敵意を隠そうとせず、いつまでエファランにいるのか、と聞いたのだった。

「お前は面倒ごとの種になるが、私の弟はお前を気に入っているし、リリーナ様もお前の帰りを待っている。サーフェス、お前はどこに帰りたい?」

 帰りたい場所はどこか。
 そう問われた瞬間、目の前に、風になびくストロベリーブロンドの髪と、自分を真っ直ぐに見る蒼天の瞳の幻がよぎった。

「忘れるな、サーフェス! お前はエファランの竜だ!」

 エイドは叫び終わると、マリアに「飛んでくれ」と頼んだ。
 脇にのいたカケルの前で火竜は扉をつきやぶると飛翔する。
 エファランに向かって。


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