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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.14 帰る場所を探して

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05 エファランの竜の秘密

 カケルがソルダートの空を飛んでいた頃、エファラン統括府の奥の一室では、カケルの叔父のソウマが空軍のアロール・マクセランと面談していた。
 ソウマは星翼協会エクセラードに所属する研究部門の呪術師だ。
 独身の中年男性のソウマは、身の回りの掃除洗濯は居候のカケルに一任していた。カケル不在の今、彼は汚れきった白衣に憔悴した面差しで、応接室の背もたれに沈みこんでいた。
 対するアロールは空軍の軍服を颯爽と着こなしている。
 白皙の美貌は年齢不詳の雰囲気がある。銀に近い淡い金髪に、ミステリアスな灰青色の瞳。注意深く見ると、その顔には僅かな疲労の陰があった。どうやら、彼なりにこの状況に疲れているらしい。

「……先日、ソルダートで潜入任務に従事している者から、連絡がありました。カケル君は、予想通りフウカ・エルナ・ライブラに捕らえられ、ソルダートにいるようです」

 それはスルトからの情報だった。
 アロールは、カケルの唯一の肉親と言ってもいいソウマを密かに呼んで、情報を伝えることにしたのだ。
 息子のように思っている少年の手がかりを伝えられたにも関わらず、ソウマは浮かない顔をしている。

「しかし、契約紋を付けられているのなら、あの子はもう帰って来られない。そうでしょう?」

 竜は呪術師に契約紋を付けられたなら、その意に反して動けなくなる。
 契約紋の解除はただ呪術師の死をもってのみ行われる。
 竜を傷付けずに竜騎士だけ殺すのは至難の技だ。
 絶望しているカケルの叔父を前に、アロールは柔らかな声を出した。

「ソウマさん、貴方に希望を持たせるのは残酷だ。しかし、私は彼が帰ってくる可能性を五分だと考えています」
「……五分?」

 必ず帰ってくるとは言わないものの、意外に高い確率である。
 まるで帰ってくる可能性が高いというような。
 ソウマは呆気にとられた。

「彼はエファランの竜です」
「……?」
「魔力レベルAの竜、つまりエファランのシステムに選ばれし竜で、絆の相手もいる」

 アロールはゆったりと長い脚を組み直した。
 意味が分からないという顔のソウマに向かって、言葉を続ける。

「ソウマさん、貴方はアオイデからいらっしゃった時、この国の竜に関する事で戸惑われたのではないですか? 魔力レベルに、竜騎士と協力して放つ同調技……これらは他国には無い、我が国独自の技術です」

 確かに高天原インバウンド出身のソウマは、エファランで竜になる者が多く、竜に関して独自の常識があることに驚いた覚えがある。

「魔力レベルAの竜は、エファランで覚醒した者にしか現れないのです」
「え?!」
「呪術師の貴方なら、この国のダイアルネットワークが高天原のものとは少し違っていることに気付かれているのではないですか?」
「……アラクサラ家が特別に調整していると、聞いたことがあります」

 星翼協会エクセラードで得た知識を思い出しながら、ソウマは答える。
 ダイアルネットワークとは、この世界の人の住む地域を覆う、目に見えない魔法の網だ。古代、神々が張り巡らせたというこの網にアクセスして、ソウマ達呪術師は呪術を使用している。また、竜の変身も、このダイアルネットワークを介しているらしい。
 アロールは我が意を得たりと頷いた。

「そう、アラクサラが竜に翼を与える。高天原とは別に調整されたダイアルネットワークが、エファランで覚醒した竜に特別な力と絆を与えるのです」
「力と、絆……?」
「この国では、しばしば特定の竜と人間のペアに運命の赤い糸とでも言うべき、強い相互干渉の力が働きます。それは時に契約紋の術式を上回る絶対的な力を発揮する」
「……絆の相手、ですか? あれはただの噂だとばかり」

 竜と人、獣人と人の間に発生する運命の番。
 それはロマンチックな話を好む人々の間でまことしやかに語られる、お伽噺の類だと、ソウマは認識していた。

「民間で流布している知識には枝葉が付いていますが、竜と人の間に特別惹かれあうペアが生まれるのは事実です。それは空軍では原因等も含め理論体系化されています」
「……」
「そして、魔力レベルAの竜は、エファランのダイアルネットワークに選ばれし、エファランを守る役目を負う竜です。卵が先か鶏が先かは議論が分かれるところですが、魔力レベルAの竜はエファランを守る理由と才能を持つ者の中に現れる。魔力レベルAの竜は劣勢の戦場の空気を覆し、奇跡を起こす。これらの竜に関する独自技術こそが、我らエファランが高天原の支援無しに一国で虫共と戦える理由なのです」

 アロールの長い演説を聞いたソウマは、顔を上げた。

「カケルは、戻ってくる……?」

 希望にすがるように聞くソウマに、しかしアロールは頷かなかった。

「彼がエファランの竜であるなら」

 静かに最初の言葉を繰り返す。

「癖の強い性格の魔力レベルAの竜が勝手をするのは、今に始まったことではありません。その行動こそが奇跡を生むことがあるのを我々は知っています。だから我々は今はカケル君の行動を静観している。しかし、もしカケル君がエファランの竜である自覚を失った行動をすれば……我々はカケル君を討たなければならなくなります」
「……!」
「エファランの技術を他国に渡す訳にはいきませんから」

 アロールの灰青色の瞳は冷静だった。
 空軍はカケルの器を見定めようとしているのだと、ソウマは気付く。アオイデで生まれた青年が帰る場所をどこに定めるのか、これはその選択を問う戦いなのだ。


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