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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.14 帰る場所を探して

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04 偽装

 翌日、フウカの元に出迎えに現れたのは、なんとラグラートその人だった。
 てっきり部下が来ると思っていたカケルは内心怪訝に思う。
 終末騎竜隊エストラストの事務所は巨大な竜舎と隣接している。命じられるまま大人しく連れてこられたカケルを、ラグラートは眼帯に覆われていない方の瞳で一瞥した。カケルは無表情に観察の眼差しを受け止める。
 ソルダートの男は冷え冷えとした声で命じた。

「……竜の姿になれ」

 竜舎の天井は高く、竜に変身しても頭をつっかえることは無さそうだ。
 周囲にはラグラート以外にも数人の軍人と、研究者らしい白衣の人間がいた。
 カケルは息をつくと彼等を踏みつぶさないように気を付けながら、竜の姿に変じる。
 眩しいサファイアの輝きを放つ、空のように蒼い竜が竜舎に現れる。
 ラグラート以外の人々から感嘆の吐息が漏れる。

「事前の情報通り、彼は風竜に違いありません。風竜は攻撃の力をほとんど持たず、素早く飛ぶだけが得意な竜です」

 白衣の研究者がカケルの竜体を見上げながら言う。

「他の竜と一緒に飼うと何か影響が出ると思うか?」
「さあ。せいぜいエファランの方が竜にとって天国だと無意味なことを言うくらいじゃないでしょうか」

 ラグラートの問に、研究者らしい男が冷笑した。
 無言で会話を聞きながらカケルは情報を分析する。
 どうやら彼等はカケルを風竜だと侮ってかかっているらしい。
 ちょうどいいな。

「エルセデスと戦わせてみよう」

 蒼い竜を見上げていたラグラートが知らない名前を出す。
 雰囲気的に模擬戦になりそうだったが、カケルは昼寝がしたいなと思いながら欠伸を噛み殺していた。やがて、濃い赤の鱗を持った竜に引き合わされる。彼がエルセデスらしい。
 火竜らしい逞しい四肢と鋭い牙が並ぶ顎。象牙色の角が額と後頭部にあわせて四本。それと、首筋の鱗に刻まれたソルダートを象徴する太陽の模様を見て、カケルはぞっとした。あんなものを刻み付けられて、従わされるくらいなら死んだ方がましだと一瞬思う。
 契約紋はまだいい。契約は個人対個人で為すものだから、少なくともカケル個人を尊重している。しかし、ソルダートの竜の首筋に刻まれた模様は、その竜が国家の所有物、モノであることを示していた。

『見ない顔だな……』
『……』

 エルセデスという竜から念話が飛んできたが、カケルは無視した。
 黙っていれば向こうから喋ってくれるだろう。

『俺は終末騎竜隊エストラストの最強の竜だ。今からそのことを教えてやる』

 気炎を吐く竜に、カケルは内心うんざりした。
 どうやらエルセデスとやらは、ソルダートでモノのように扱われている自分に違和感を持っていないらしい。しかし、これで先ほど白衣の研究者が「エファランの方が竜にとって天国だと無意味なこと」と言っていた意味が分かった。きっと、この竜にエファランに属する竜がどんなに自由か説いても理解してもらえないだろう。

「不可視結界の外で戦うように。我々が制止するまで続けろ」

 首都ジャグラダの上空で戦うように言われて、カケルは地を蹴って飛び上がった。竜が飛んでいることで市民に不安を与えないように、首都ジャグラダ上空には、結界の外の情報を隠蔽する術式が張り巡らされている。
 カケルの魔眼には結界が見えている。
 蒼い竜は結界を越えて上昇する。
 理由がなんであれ空を飛ぶのは楽しい。ストレス発散になる。
 すぐに追いかけてきたエルセデスと追いかけっこが始まる。

『捻りつぶしてやる……!』

 物騒な念話とともに炎のブレスが飛んでくる。
 カケルは軽やかにブレスを躱して、猛る火竜の周囲を飛び回った。
 本気になればあっという間にエルセデスを引き離せるし、いくら風竜が攻撃手段を持たないと言っても、相手にダメージを与える方法はある。けれども、下でこの戦いの分析をしているだろうソルダートの軍人達に余計な情報を与えたくは無かった。

「……やはり、同調技は騎乗する人間がいないと発動しないようですね。あれは竜の力に見えますが、エファラン独自の呪術によるものじゃないでしょうか。竜を捕まえて調べても無駄なのでは」

 魔力の高い風竜であるカケルには、地上の会話は筒抜けだ。風を操って、さりげなく彼等の会話を盗聴する。後ろを追いかけてくるエルセデスをいなしながら。

「あの竜は、エファランの基準で上位の魔力レベルAだと調査ではあったが」
「その魔力レベルというものが我々には計測できません。いったい何が他の竜と違うのか、もっと詳細に調べてみないと」

 ソルダートの連中は、竜の魔力のことや、竜騎士との同調技のことについて、よく知らないらしい。
 カケルも魔力レベル云々や同調技についてはエファランに来て初めて知ったくらいだ。彼等が知らないのは無理もなかった。しかし、カケルという特別な竜を調べることで彼等にエファランの技術を渡すのは避けなければならない。

 俺はエファランの竜だ。
 エファランが、大切な仲間達やイヴが、俺のせいで取返しのつかないことになったら。

 カケルは極力、風の魔力を使わずにエルセデスから逃げ回り、わざと被弾して攻撃を食らってみせる。ちょっと素早くて攻撃力を持たない風竜だと、ソルダートの彼等に印象付けるように。
 これ以上データをとっても無駄だと彼等が悟るまで、模擬戦は続いた。


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