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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.14 帰る場所を探して

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03 エストラスト

 さて、ソルダート国内でカケルの妹は特別な軍事顧問という立場にいる。通常なら外国から派遣された軍事顧問はその国に直接の影響力を持たないものだが、フウカ・エルナ・ライブラは違う。

 ソルダートは実質、高天原インバウンドの西ユーダ帝国とアオイデ、カリオペイアの支配下にある。そして、軍事において有用な呪術は、七司書家から提供されていた。
 七司書家の本家から来ているフウカの権力は大きい。ソルダートが抱える数々の問題は、七司書家の力で解決している。この国をうまく治めることによって、七司書家と高天原インバウンドの各国は利益を得ることができるのだ。

 フウカは軍事基地の視察のために、首都ジャグラダと対エファランの前線基地アルダを行き来していた。
 妹の騎竜にされたカケルは、彼女を乗せて首都ジャグラダとアルダ基地の間を飛ぶことが目下の仕事になっている。

『働きたくなーい』
「お兄様らしい仰りようですね」

 ソルダートに囚われているという現状を抜きにすれば、別に、竜の姿で妹を乗せて飛ぶこと自体に嫌悪感は無い。
 ただ、面倒くさいだけで。
 ゆるゆるやる気無さそうに飛ぶ蒼い竜は今にも欠伸しそうな気配があった。行儀良く背中に座ったフウカが苦笑する。

「兄様はなぜ竜になったのですか? 竜になれば使う側ではなく使われる側、支配される側になってしまうのに」

 高天原インバウンドでは竜に属する者はマイノリティで、竜や獣人は奴隷の立場に甘んじている。
 だから高天原では竜になる者は少ない。

「自分から身分を落とさなくても、兄様なら普通に人間の学者として、やっていけたでしょうに」

 カケルの知力があれば呪術師になれなくても、他にやりようがあったのではないかとフウカは思う。竜になってしまったことで隙を作り、こうしてソルダートに捕らえられることになってしまった。

『まあ、そうだね。他の道もあったと思うよ。だけど俺は、後悔していない』
「どうして?」
『……』

 蒼い竜は黙して答えない。
 フウカにはそれが兄の誠意ある返答だと分かった。
 宝石のように輝く深い青の鱗を撫でる。昔から、この兄は綺麗で賢く、フウカにとって自慢の兄だった。ソルダートの常識では蔑視される竜になってしまっても、フウカの思いは昔と変わらない。





 往復で首都ジャグラダに戻ってきたフウカは、カケルを連れて政治中枢ヘキサグラムへ向かった。
 ソルダートは国としての正式名称を、ソルダート開拓連合と言い、厳密には独立国家ではない。高天原インバウンドの外を開拓するために、各国が有志や兵士を融通しあって作ったのが国の由来だ。
 首都ジャグラダには、高天原6国の出張所が円を描くように設置されており、ここを政治中枢としている。

 アオイデの出張所の前で、フウカは眼帯を付けた背の高い男性と出会った。ソルダートの軍を支配する元帥の地位にいる男だ。
 彼の名はラグラートという。

「七司書家の姫君、今お帰りになったところですか」

 ラグラートは低い声でフウカに声を掛ける。
 言葉こそ丁寧だが、彼は頭を下げずにフウカを見下ろしていた。眼帯に隠れていない片方の瞳には不遜の光がある。

「何かご用でしょうか」

 フウカは胸をはって彼を見上げた。
 いかにも自分に自信のある横柄な軍人男性のラグラートを、彼女は内心、苦手に思っていた。

「そろそろお連れになっている竜を、終末騎竜隊エストラストで管理させて頂きたいのですが」

 ラグラートの視線は、彼女につき従うカケルに向いている。
 終末騎竜隊エストラストとは、軍で使う専用の竜を育成、管理する機関だ。カケルはもともと七司書家当主の要望で本家に連れていかれる予定だったのだが、フウカは終末騎竜隊エストラストに入れた方がソルダートのためになると主張して父の要望を退けた。
 ラグラートは終末騎竜隊エストラストの管理責任者でもある。父との交渉で彼に口添えを頼んだのだが、今になってあだになっている。

「……兄はエファランで育っています。他の竜と一緒に扱うと悪影響が出るのでは?」

 悪あがきをしてみる。
 こちらを見下ろすラグラートは口角を上げた。

「そこも含めて検証したいのですよ。それにエファランの竜の同調技についても、研究したい」

 竜の同調技はエファラン独自の技術だ。
 強力な効果がある同調技について、エファラン以外の各国も自分の国で利用できないか研究していた。ソルダートも竜の強力な力に注目している。

「あくまでも七司書家のものを貸し出すだけですよ? そこを忘れないで下さい」

 フウカは高飛車に言い放つ。
 兄におかしなことをされないように、念のためだ。
 ラグラートは彼女の内心を見透かすように冷笑したが、口では「分かりました」と答える。

「明日、迎えを寄越しますよ」

 言い置いて立ち去る男の背中を、フウカは睨み付ける。

『……大丈夫だよ』

 突然、頭の中だけで響いた声にフウカは瞠目した。それが竜の特殊能力である念話だと理解していても、身近に話せる竜がほとんどいなかったフウカは一瞬戸惑う。

『お兄ちゃんを信じなさい』

 肉声には出さず、カケルがかすかに笑みを浮かべる。
 誰が聞いているか分からないからの念話なのだろう。フウカにだけ聞こえる声は朗らかで、いつも通りの兄の声だった。
 フウカは苦笑した。
 彼女は兄を過小評価していない。むしろ兄は、自分の目の届かないところで何かしでかすだろうと思っている。きっと兄に振り回されるだろうラグラートには同情せざるをえない。


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