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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.13 もう一度、君と出会うために

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07 信頼の証

 スルトは屋根の上に立つ竜の青年をまじまじと見上げる。
 ここ最近エファランを離れていたスルトは、カケルの失踪にまつわるあれこれを知らなかった。

 久しぶりに会う後輩はいつも通りふわふわした表情をしている。
 だがその服装はソルダートの軍に属するものに変わっていた。
 ソルダートの軍服共通の暗い赤。着崩したその上着には、通常の軍人なら階級章が付いているところだが、それは見当たらない。代わりに襟元に、剣に貫かれた竜のバッジが付いている。首には細い金の鎖。
 スルトも最近知ったのだが、そのバッジと首の鎖は、ソルダート軍に使われる人の姿をした竜の印だった。
 観察されていることに気付いたカケルが笑う。

「……ああ。ちょっとへまをして捕まっちゃったんだ。てへ」
「てへ……ってお前。緊張感ないけど、マジに捕まってんのか」
「マジで捕まってまーす」
「……」

 自由すぎる返事を聞くと、本当に捕まっているのか疑問に思えてくる。
 第一、捕まっているなら基地を離れてこんなところをふらふらできる訳がないだろう。

「お前、何やってんだよ」

 半眼で聞くと、カケルはふわふわ笑った。

「まあ普通に捕まった竜なら散歩できないからね、疑われるのも無理はないけど。スルト先輩が知っているか分からないけど、俺はもともと七司書家の本家にいたから、どちらかと言えばソルダート側に連れ戻されたってのが正しいのかな。俺の素性を知っている人もいるから、あんまり乱暴には扱われない」
「なんだそれ。お前の事情ってそういうことだったのかよ」
「家族もこっちにいるからね。無茶なことをして逃げ出さないだろうと思われてるのさ」

 カケルは肩をすくめてみせた。
 同じチームに属していたスルトは薄々、各メンバーの複雑な背景に感付いていた。
 カケルの説明に、そういうこともあるだろうと一応納得する。

「で、戻る気はあんのか?」

 肝心なことを聞くとカケルは視線を逸らした。

「出がけにイヴと喧嘩しちゃったんだよ……大丈夫だとは思うけど、時間が経つと不安になる。俺、帰れるかなあ」
「本当に何やってんだお前」

 本人は真剣な様子だが、聞いているスルトは惚気を聞かされている気分になった。
 阿呆か。勝手にしろ。

「ところでエイドさん達を助け出すチャンスだけど」
「ああ?」

 呆れていると、唐突にカケルが話を戻す。

「明日、軍の壮行式で、基地内の人が少なくなる時間があるんだよ。仕掛けるならその時だよ」
「だけどあいつらは負傷してる」
「檻に施されてる術式を切ればいい。獣人の力を抑制する術式さえ破っておけば、タイミングを見て自力で脱出できると思う」

 カケルは口早に檻のどこを傷つければ術式が破れるかを説明する。
 ついでに基地のどの経路を通れば簡単に侵入できるかも。

「助けに行ってスルト先輩まで捕まらないようにしてね」
「捕まんねーよお前じゃあるまいし」

 スルトは説明を聞いた後、手を振って背を向ける。
 二人は次の約束をせずにその場は別れた。





 次の日、スルトはカケルに聞いた情報を元に再び基地に忍び込んだ。
 カケルの情報は確かなようで、基地内部にいる人間は少なかった。スムーズに侵入を果たしたスルトは、奥のエイド達が閉じ込められている檻まで到達する。

「よっと……」

 予め持ち込んだ刃物で、檻の一部に刻印されている術式に傷を付ける。

『どうっすか?』
『……身体が軽くなった感じがする』

 檻の中でヒョウの姿のエイドが長い尻尾を翻して足踏みする。
 具合を確かめているらしい。

『スルト・クラスタ。情報提供元はサーフェスということだが、お前は彼を信じているのか?』
『何を言うんですか』

 エイドの問いにスルトは首を傾げる。

『あいつはエファランの竜ですよ?』
『元は七司書家の人間だ。企みが無いとも言い切れまい』
『あー、それは無いんじゃないっすか』
『何故そう思う? 根拠は何だ』

 ヒョウの赤い目には猛った感情はなく、伝わってくる思念は静かだ。スルトは、後輩の竜の青年を思い出して、自分の中に理由を探す。

『……あいつ、アラクサラと喧嘩したって落ち込んでたんですよね』

 家族がソルダートにいるという、あの竜の青年は。
 それでも一番大切なものを見失ってはいなかった。
 スルトが感じた彼の風は、エファランで吹いていたそれと同じ。檻に背を預けながらスルトは思い描く。獣人の悪友と緑の髪の少女、竜騎士を目指す威勢の良い少女と彼とのやり取り、その周囲に吹いていた柔らかい風を。

『だから大丈夫ですよ』

 そう答えると、檻の中のヒョウは無言で考え込む仕草を見せた。
 エイドは判断材料が欲しいのだろう。
 本気でカケルを疑っている訳ではないのだと、スルトは何となく気付いていた。

『……今すぐ脱出するのは無理だ。スルト、お前はサーフェスと情報を共有しながら、脱出の機会を探ってくれ』
『了解っす』

 スルトは頷いて立ち上がる。
 ここは敵地だ。
 敵に囲まれた危機的状況の中でも冷静にいつも通り動けるのは、信じられる仲間が近くにいるから。
 例え向かう先が暗闇だとしても、恐れることはない。その手に決して消えない絆の明かりを握りしめているのであれば。手の中の小さな明かりが、心に火を灯してくれるだろう。

 今は離れている仲間と、目的地は同じだと信じて。
 彼等は歩き出す。







 Act.13 もう一度、君と出会うために  完

 Act.14 帰る場所を探して  へ続く


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