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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.13 もう一度、君と出会うために

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05 希望は捨てない

 イヴは、エファラン統括府の奥へ向かった。
 そこには待ち人がいる。
 人気の無い廊下を静かに進み、突き当りの扉をそっと開けて中に滑り込む。
 小さな執務室の窓際に佇んでいた少女が振り返った。

「……リリーナ」

 声を掛けると柔らかな緑色の髪を風に揺らして少女が微笑んだ。同時に、壁際で腕組みをしている陸軍の軍服を引っ掛けた青年がちらりとイヴを一瞥した。
 優しそうな雰囲気のショートボブの彼女はリリーナ・アルフェ。一見、どこにでもいそうな普通の少女だが、実はこの国の王族の血を引いている。このエファラン統括府を待ち合い場所に指定したのは彼女だ。統括府の近くに王族の住まう城があるので、ここは彼女にとって都合の良い場所となる。
 壁にもたれている目つきの悪い青年はオルタナ・ソレル。王族の護衛を専門に請け負う一族「陸のソレル」の次男である。リリーナと同じくイヴの同級生であり、学校で同じ班を組んでいるチームメイトでもある。統括府の中だというのに、相変わらず学校でいる時のように深い緑の上着を着崩している。中途半端に伸ばした金髪が襟に掛かっている。上司で兄のエイドに怒られたりしないのだろうか。

「イヴ、来てくれてありがとう」
「状況はどうなってるの?」
「国境は緊迫した状態よ……」

 イヴを歓迎するために一瞬笑みを浮かべたリリーナは、続く質問に顔を曇らせる。
 噂は本当らしい。
 国境を越えてソルダートの軍隊が入ってきているという噂は。
 エファランの軍隊は、本当は対人間ではなく、対モンスター、虫と呼ばれる葦原国アウトバウンドに生息する怪物に対抗するために存在する。
 ソルダートが侵攻してきたからと言って、全ての兵を国境に差し向ける訳にはいかない。
 虫が押し寄せてきた時に対応する余裕を残しておかなくてはならないのだ。

「できるだけ、戦争は避けたいの。そうすると、カケルの残した伝言通り、ダイアルフィールド連盟の加盟国に国際会議の開催を要求して、ソルダートの侵攻が正当か判断してもらうしかないわ……」

 リリーナは憂いを帯びた表情で言った。

「カケルの伝言……?」
「あの阿呆は全部予測済みだったんだよ」

 壁際でオルタナが吐き捨てる。
 彼はカケルとルームメイトだった。
 同じ部屋のよしみか、本人達は否定するが親友だからなのか、カケルから予めこの事態について聞いていたらしい。

「あいつの弱点は妹だ。ソルダートの件で妹が出てきた時点でこうなることは分かってたらしい。だから、帰る方法も考えとけっつったのに、あいつ、そこは何も言わずに出て行きやがった」
「フレイのユリアン王太子は、カケルの名前を出したら協力してくれると言ったわ。フレイの協力のもと、国際会議の開催日程を調整中よ。でも、早くても数週間は掛かるわ。それまで私達は、自分からはソルダートに手を出さずに防戦しなければいけない。エファランから手を出せばソルダートに有利な口実を与えることになるから」

 高天原インバウンドにも、エファランに協力的な国は存在する。
 味方の国に訴えて、何とかソルダートを押しとどめたいのだと、リリーナは語る。

「妹さん、ね……」

 イヴは映像で見た、黒髪の少女の姿を思い出した。
 今、カケルは彼女と共にいるのだろうか。

「あのフウカって子はソルダート国内にずっといる訳?」
「いえ。フウカ・エルナ・ライブラは、近い内に高天原インバウンドの東ユーダ帝国に行くことになっているみたい。ソルダートに兵器や資源を輸出してもらうための、調整のための訪問のようよ」
「じゃあ……」

 もしかすれば、カケルも彼女に同行するかもしれない。
 唇に指をあてて思案するイヴに、オルタナが希望を打ち砕くようなことを言う。

「カケルの奴がいたとしても、あいつはもう敵になっているぞ。あいつ、出ていく前に、もしものことがあれば遠慮なく攻撃しろって、俺に言い置いていったからな」
「オルタナ、貴方、本気でカケルを攻撃するつもりなの?」
「当たり前だろ」

 オルタナは紅玉の瞳を眇めた。
 どうやら本気のようだ。

「お前はどうするつもりだ、アラクサラ。まさかカケルが無事に戻ってくるなんて信じてる訳じゃないだろうな? だとしたら相当おめでたいぜ」

 揶揄するように言うオルタナを、イヴはきっと睨んだ。

「分かってるわよ。だから、あいつを生け捕りにする方法を一緒に考えて!」
「はあ?!」
「契約紋の術式も呪術じゃない。解約する方法があるかもしれない」
「んなもん、あるのかよ……」
「あってもなくても、とりあえず生け捕りにするの! 首に縄を付けてでも、エファランに連れて戻るのよ!」

 イヴだって真面目だ。大真面目だ。
 鼻息荒く言い放つ彼女を前に、リリーナとオルタナは困惑して顔を見合わせた。

「カケルがいなくなったなら、このチームのリーダーは、カケルのパートナーであるこの私よ……」
「てめえがリーダーとか、冗談じゃないぜ」
「なら、カケルを引っ張ってきなさいよ!」
「っ!」

 ああ言えば、こう言う。
 あくまでも譲らないイヴに、オルタナは苛立たしげに髪を掻いた。
 リリーナがくすくす笑う。

「……オルタナ。イヴの言う通りにしましょう」
「お前まで……」
「ねえ、カケルが今まで私達を裏切ったことがあった? お昼寝大好きで面倒くさがりなカケルだけど、いつも私達の望むことを叶えてくれていたよね。きっと、今度も……」

 信じましょう。
 そう、吐息のようにリリーナが呟くと、オルタナも溜息をついて、ゆっくり頷いた。
 こうしてイヴ達はカケル奪還に向けてそれぞれ動き出す。
 リリーナの協力のもと、イヴはオルタナと一緒にカケルを追う準備を整え始める。密かに空軍に入ったロンドとも連絡を取り合いながら。

「あれ? 誰か忘れているような気がするのだけど……」

 イヴは、これでチーム全員が揃ったと考えたのだが、何か引っかかるものを感じて首を傾げた。
 誰かを忘れているような……。




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