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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.01 君に出会った時から俺の(昼寝)人生設計が崩れ始めた

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12 俺は昼寝がしたいのに


 敵の竜騎兵2体が戦場から離脱しようとしていることに、カケルは気付いた。
 彼等は状況が不利だと悟ったようだ。人質となっていた学生や教師は解放され、敵側の兵士も半分程度戦闘不能になっている。もうソルダート本国に帰った方が良いと判断したのだろう。
 撤退してくれるなら、別に追わなくてもいいかと思ったが、厄介なことに学校の生徒が2人、その背に乗せられて連れ去られそうになっていた。

「逃げようとしている?」
『うん。あの竜騎兵の背中にウチの生徒がいるみたいだけど』
「それを早く言いなさい! 追いかけないと」

 イヴが背中で急かしてくる。
 蒼い竜は速度を上げて、敵の竜騎兵を追った。大きく羽ばたきながら、カケルは開放感を感じていた。

 初めて竜の姿になったにも関わらず、身体の操作に戸惑うことは無い。高度が高い空の大気は冷たかったが、彼の鱗はそれを心地好いものと感じていた。身体を取り巻く風は、まるで竜の身体の一部のように、自由に動かせる。
 竜は獣人ほど夜眼がきかないのだが、カケルは風を操って数百メートル四方の空間を、竜独特の感覚で詳細に把握していた。

 竜騎兵たちは、彼等に出せる最高スピードで戦場を離脱しようとしていたが、カケルからすれば、目の前をのろのろ歩いているも同然だ。
 彼は自覚していなかったが、彼が変化した竜は希少な風の属性の魔力を持つ風竜だった。最速で空を翔ける風竜にとっては、大概の竜は止まっているようなものだ。

『そこの人達、ストーップ!』

 蒼い竜はいとも容易くソルダートの竜騎兵の前に回り込むと、敵の行く手を遮る。あまりにも簡単に追いつかれて、ソルダートの兵士達は目を白黒させた。

「エファランの生徒を降ろしなさい!」

 イヴが竜の背から鋭く叫ぶ。
 素早そうな蒼い竜にソルダート側の竜騎兵は対応に困った。
 逃げるのには蒼い竜をなんとかしなければならない。
 しかし、戦闘をするには、竜騎兵は多数の人間を積みすぎている。

 一方のカケル達も、ソルダートの竜騎兵の行くてを遮ってみたものの、次のアクションに困っていた。
 ソルダートの竜騎兵の背には同級生が人質として乗せられている。
 迂闊に手を出せば彼等がどうなるか分からない。

『……そこまでだ!!』

 睨み合う両者の間に第三者の声が滑り込む。
 彼方から凄まじいスピードで、深紅の竜が飛び込んできた。
 竜の背にはエファラン国軍の竜騎士であることを示す、明るい青色の軍服を着た若い男が乗っていた。

『ソルダートの諸君に告ぐ。我々はエファラン国軍第三特務隊だ。これ以上の戦闘は無意味だ。命が惜しくば、今すぐ投降せよ!』

 深紅の竜から、艶のある女性の声が響く。
 竜の念話は、会話する対象者を絞ることも、無差別に広げることもできる。エファラン国軍の竜の声はその場の全員に届いた。

「援軍が来てくれたのね」

 ほっとしたイヴが呟く。
 駆けつけてきた特務隊は、それぞれの地域ごとに駐留する部隊とは違い、王都で勤務して緊急事態に備えるエファラン国軍の中でもエリートが集う部隊だった。
 ソルダート側の指揮官は自分達が絶体絶命の危機に陥っていることを悟る。
 追い詰められた状況の中で、彼等は最後の悪あがきに出た。

「落とせ」

 ソルダートの竜騎兵は、乗せていた学生2人を、宙に蹴り出す。その直後に反転して、一気に戦線離脱しようとした。
 同級生2人がなす術なく落下する様を見て、カケル達は慌てる。

「なんてことを!」
『俺たちで助けるんだ!』

 蒼い竜はソルダートの竜騎兵を無視して、急降下する。
 それこそがソルダートの狙いだった。人質を助けようとする隙を狙って弾幕を張り、エファランの注意が人質に向いている間に逃げるつもりだ。

 だが、カケル達にとっては、同級生の安否こそが最優先である。ソルダートの竜騎兵は無視して、蒼い竜は学生の落下する下に先に回り込もうとした。同級生2人の落下スピードはかなりのもので、彼等に接触しないよう下に回り込むだけでも一苦労だ。
 風を操って同級生の落下スピードを弱めようとするカケルだが、竜になって間もない彼には繊細な操作は難易度が高い。
 状況を見てとったイヴは自身のナビゲータを呼び出した。

「ミカヅキ、落下の衝撃を和らげるわよ。招風ブリング!」

《 了解。風の強さと方向を調整!》

 空中で白い兎が飛び跳ねる。
 カケルが落下する2人を魔力を帯びた風で引き寄せ、細かい位置調整と落下の衝撃を和らげる術式をイヴが展開する。カケルとイヴは共同作業で、人質になっていた2人の学生を受け止めた。

 衝撃を殺したものの、音を立てて2人の学生が竜の背に落ちる。手枷を嵌められている2人の学生は、肩を上下させて苦痛に呻いていたが命に別状はなさそうだった。
 なんとか無事に同級生を助けられて、イヴは安堵の息を漏らす。

「……見事だ!」

 賞賛の声に見上げると、すぐ上空に深紅の竜と、特務隊の竜騎士の姿が見えた。
 その姿を確認して初めて、イヴは自分達が褒められたのだと気付く。深紅の竜の背景に、ソルダートの竜騎兵2体が翼を負傷して落下していく姿が見えた。どうやら特務隊の竜騎士が攻撃していたらしい。

「私は、第三特務隊のアロール・マクセラン。
 君達と再び会える日を楽しみにしている。
 だが今は、ソルダートの奴らのことは私達に任せて学校に戻るといい。君達の帰りを、学校の先生達が心配して待っているようだ」

 竜騎士の男、アロールは、貫禄のある落ち着いた声で上空からカケル達に呼び掛けた。
 イヴは先輩となる竜騎士に緊張しながら、感謝の言葉を返す。

「ありがとうございます!」
『ありがと! じゃあ俺たちは行くね』
「……ちょっ、ちょっとカケル、失礼でしょ」
『えー、面倒臭い』

 天衣無縫なカケルの返事に、イヴは慌てて窘めるが蒼い竜はどこ吹く風だ。
 深紅の竜の上で竜騎士のアロールは苦笑したが、気分を害してはいないらしい。

「気にしなくても構わない。さあ、行きなさい」

 大人の風格で促されて、イヴは恐縮して何度も頭を下げた。
 蒼い竜はゆっくり元きた方向へ戻り始める。
 その後ろ姿を見送りながら、アロールは目を細めて呟いていた。

「これはまた、見事に美しい風竜だな」
『何よ、私よりあの子の方が綺麗だって?』

 すかさず深紅の竜が艶めいた声で返す。言葉の内容は嫉妬のようだったが、声の響きから彼女がただふざけて笑っていることが伺えた。
 アロールも笑って言う。

「私にとって世界で一番美しいのは君だけだよ、レディ。
 さあ、私達も面倒な後始末に移ろうじゃないか」

 深紅の竜はソルダートの残党を逮捕するため、不時着した竜騎兵を追って降下を始めた。
 いつの間にか夜の空は明けはじめ、暗い空は藍色に染まりつつある。消えていく月の姿に別れを告げて、竜は飛翔した。




 それから数日後。

 予想外のハプニングに見舞われた野外演習は、幸運にも誘拐されたものや重傷を負った者もおらず、軽く火傷を負った生徒がいた程度で、後処理はつつがなく完了した。
 学校に戻ったカケル達は元の平穏な日々を取り戻していた。

 念願の竜になったカケルは早速、道端で昼寝を試してみようとしていたが、その矢先に学年主任に呼び出しを受ける。
 彼は今、生徒指導室の椅子に座って、学年主任のパレアナ女史と、一対一で向き合っていた。

「……俺の志望は、生産科ですが」
「残念ながら」

 パレアナ女史は凛々しい雰囲気の女性教師だ。豊かな金髪を結い上げて清潔できっちりした印象の上着とタイトなスカートを身に付けている。
 彼女はピンク色のマニュキアで彩られた爪で、黒檀の机を軽くこつこつと叩いた。
 その指の下には、専門科目の進路希望書類がある。

「君は空戦科だ。これは決定事項となる」
「なんでっ?!」

 カケルは常にない真剣さで、学年主任に詰め寄った。

「だってほら、憲法にもあるじゃないですか。すべて国民は、個人として尊重されるって…俺たちには選択の権利があるんでしょう?」
「ふむ、そうだな。だがその続きにこうある。すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。
 竜は己の持つ力を制御し、その力を適切に用いられるよう努力しなければならない。エファランでは強い魔力を持つ竜は空戦科に属して、竜騎士と契約するよう定められている」

 憲法まで持ち出して反論したカケルだが、パレアナは冷静に返した。
 カケルは呆然として聞き返した。

「もう一度お願いします」
「空戦科に所属して、竜騎士と契約したまえ」

 えええ。俺は道端でお昼寝したくて竜になったんだよ。
 空戦科って、軍人コースじゃないか。

「キャンプで一緒だった、イヴ・アラクサラはどうだい? 彼女は空戦科の竜騎士志望だ」
「絶対イヤです」
「竜騎士との契約かい? それともアラクサラとの契約か?」
「両方」

 真面目そうな少女の顔を思い出して、カケルは嫌な顔をした。
 どうにもイヴには密かにコンプレックスを刺激されるのだ。
 カケルがなれなかった呪術師になり、竜騎士を目指す少女。
 羨ましくて眩しくて、苛立たしいような愛おしいような、複雑な気持ちになる。今までも気になる存在だった。できれば近付きたくないと、何となく思っていた。

「何がそんな不満だ? 別に、空戦科になっても、昼寝が出来ないということもないだろう。たぶん」

 拒否の姿勢を貫くカケルに、パレアナは形のよい指を顔の前で組むと、改めて問い掛けた。

「たぶん!? 俺は平和的に穏やかに、のんびりダラけて日々を過ごしたいだけなんです。空戦科なんか……暑苦しくてサボりにくいじゃないですか!!」

 半分以上本音である。
 パートナーになる竜騎士を選んで戦うとか面倒くさい。
 明後日の方向への熱意を聞いたパレアナは、呆れた顔で嘆息した。

「諦めたまえ」

 最終宣告をされて、カケルは専門科目を変えられないことを悟った。
 涙目で叫ぶ。

「やだっ、俺は、俺は……ぜったい毎日昼寝して過ごすんだぁーーー!!」







 Act.01 君に出会った時から俺の(昼寝)人生設計が崩れ始めた 完

 Act.02 竜になったはいいもののパートナーを選べと言われて悩む俺 へ続く


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