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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.13 もう一度、君と出会うために

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突然番外編 夏祭り

 イヴは、ついうっかり失言してしまうことがある。
 母親にもこの前注意されたばっかりだ。思ったことをそのまま口に出すと、その時と状況によっては宜しくない場合もある。分かってはいるが、癖というのは中々止められない。

 それはある日の授業の間の休み時間のこと。

「北国生まれの俺は暑いのが超苦手なんだよー」

 カケルがそう言って、べろーんと目の前の机に伸びる。
 軟体動物のようにふやけた彼を見下ろして、イヴは頬杖をつく。
 暑いと言っても、ここは教室の中で、そこそこ空調が管理されている。屋外で真夏の炎天下の下という訳でもない。けれど、力なく横たわるカケルは、いつも以上にやる気がない様子だった。今からこんな調子だと、午後の授業は言うまでもないだろう。
 学生の本分は勉学にある。
 けれどカケルは自分の本分はお昼寝にあると言って憚らない。

「もう駄目ぇー。死ぬー……」

 男子の癖に情けない。
 しかも、カケルはただの人間ではなく竜だ。イヴとパートナーを組んでいる風竜である。
 仮にもパートナーを組んでいる竜騎士の私には彼を管理する管理責任がある。腕組みして彼女は考え込んだ。長く伸ばした自慢のストロベリーブロンドの髪が一束、身体の前に落ちてきて、それを軽く払いのける。

「仕方ないわね」

 考えた末、イヴは魔法の一種である呪術で、手元のハンカチを濡らすと氷の術式で凍らせた。
 氷枕のいっちょうあがりだ。
 作った氷枕をぐったりしているカケルの首筋に当てる。

「ふおおぅ」

 カケルが目を閉じたまま感嘆の吐息を漏らした。
 どうやら気持ち良いらしい。

「冷やしてあげるから、ちょっとくらいは午後の授業を真面目に聞きなさいよ」
「頑張るー」

 やる気のない返事を聞きながら、動かないカケルの額や耳の後ろを氷枕で撫でた。
 なんだか動物を撫でている気分になる。
 ほえー、だの、ふえー、だの、カケルが変な鳴き声をあげるから余計にいけない。
 カケルは男子の癖にむさ苦しくない。割合に清潔な格好をしていて物腰が柔らかい。しかし、行動は一般的な男子のそれとは異なり動物的だ。突拍子もなく奇妙なことをしでかす。こいつはこういう生き物だと納得するしかない。
 だからかしら。
 総体的に見ると、結論として以下のような言葉が出てくる。

「可愛い……」
「か、かわいい……?!」

 途端に、机にのびていたカケルが頭だけ起こして変な顔をする。
 イヴは内心まずいことを言ったと思いつつも、自分の過ちを認めたくないので開き直ることにした。

「何か文句でもあるの?」
「かわいい……かわいい……カッコイイじゃなくて、かわいい……」

 虚ろな目でブツブツつぶやくカケルにちょっと引く。

「あ、あんたは自分が恰好良いとか思ってたの? 明らかにそういうキャラじゃないわよ。どっちかというとペットみたいな」
「ぺっと?!」
「うるさいわね! あんたなんてペットで充分よ!」

 逆切れして叫ぶと、机に噛り付いたカケルが瞳を潤ませた。

「酷いよイヴ!」
「ええいっ、だまらっしゃい! お昼寝大好き竜の癖に、私の主観にケチ付ける気?!」
「ケチなんか付けないよ。ただ俺のなけなしのプライドが意外に悲鳴を上げてるだけで……ああ、暑いし酷いしもう駄目だ。こんな時は、お昼寝、お昼寝に限る……」
「あ、ちょっとカケル」

 よろよろと立ち上がったカケルは、止めるイヴを振り切って教室を出て行ってしまった。
 爪先くらいの罪悪感が胸をよぎる。
 様子を見ていた同級生のクリス青年がつぶやいた。

「女子に可愛いって言われたら、意外にショックだよな」

 教室の隅で固まっていた男子共がうんうんと首を縦に振っている。
 何これ。私が悪いって雰囲気なの。





 可愛い、かあ。俺ってそういうキャラなのか?
 何だか微妙に落ち込むなあ。
 暑いしだるいし、と思いながら、カケルは涼を求めて校内をさ迷った。
 外は暑い。校内で空いてる部屋を探して潜り込もうと、廊下を歩いていると、先輩の竜に出会ってしまう。

「セファン先輩」
「よう、カケル。どうしたんだ、こんなところで。確か4年生はこの時間は座学じゃなかったか」

 特徴的なオレンジ色の髪をした背の高い先輩の竜は、カケルを見つけて寄ってくる。

「近付かないで下さい。火竜は暑苦しいです」
「おまっ、先輩に向かって……あーでも、お前は風竜だったな。夏は苦手か」
「溶けちゃいますぅ」

 強い火の属性を持つセファンから熱気を感じて、カケルは後ずさった。
 これ以上暑くなるともう耐えられない。
 失礼な後輩に一瞬ムッとしたセファンだが、カケルが本気で嫌がっている様子を見てとって眉を下げた。
 年上の竜達にとってカケルは可愛い弟キャラだ。ふわふわしていて低姿勢だが、たまに小生意気。だけど憎めない。

「そうだ、授業に出ないつもりなら校内でバイトするか?」
「バイト? 俺これからお昼寝タイムなんですが」
「涼しいバイトだぞ」
「涼しい……」

 働くのは嫌だ。けれど暑いのも嫌だ。
 カケルの中の天秤は揺れ動いた。
 聞くだけ聞いてみようか。

「どんなバイトですか」






 結局、カケルは戻って来なかった。
 いったい何処でお昼寝しているのやら。
 授業が終わって筆記用具を纏めているけど、別のクラスの女子生徒が教室に入ってきた。友人のリリーナ・アルフェだ。
 リリーナは緑色のショートボブの髪以外、特別目立つところのない大人しそうな生徒だ。しかし彼女は他の生徒をよく見ていて、噂話から学校の七不思議まで色々な情報に通じている。

「ねえ、イヴ。カケルが今何処でお昼寝してるか知ってる?」
「いえ。何かあったの?」
「カケル、今、冷蔵庫で寝てるわよ」
「冷蔵庫……?」

 冷蔵庫というと、冷気を発生させる呪術を掛けて密封した箱の中に、野菜や果物を保存するアレのことだろうか。しかし、冷蔵庫って竜が入れるくらい大きかったかしら。
 イヴの頭上に疑問符が飛び交った。






 いやあ、こんな素晴らしいバイトが世の中にあるなんて。エファランに来て本当に良かったなあ。
 カケルはしみじみ感動していた。
 夏なのに涼しい。
 寝そべってるだけで何もしなくていいなんて最高。

「……ちょっと貴方、ちゃんと風で空調管理しなさいよ」
「やってるよ~」

 壁際の長椅子の上でカケルは寝転がって目を閉じていた。
 近くの折り畳み式テーブルで読書中の銀髪美女が、眉を吊り上げて睨んでいるが無視する。
 銀髪美女はルルキスと言う先輩の竜だ。暑苦しいセファンとは違って彼女は水竜。冷気を操るのを得意としている。

 カケルとルルキスは学校の体育館にいた。
 体育館の中には本日の夜に夏祭りにて御披露目になる氷の彫像が並んでいる。ルルキスは冷気で体育館の内部を冷やして、体育館を巨大な冷蔵庫にすることで、氷の彫像が溶けないようにしていた。
 夏祭り用の氷の彫像を保管する、これがカケル達が依頼された校内バイトの内容である。

「全くこの子は」

 横目で寝ている後輩を眺め、ルルキスは嘆息する。カケルは風竜として、体育館内の空気をかき混ぜる役目を期待して呼ばれた。風竜が冷気を効率よく撹拌してくれれば、ルルキスは魔力を消耗せずに冷気を放ち続けることができる。
 ただ昼寝しているだけなら叩き出されるところだが、こう見えてカケルはきちんと竜の魔力で微風を起こして空調を管理していた。
 ルルキスにはカケルの仕事ぶりが分かっている。
 ただ目の前でゴロンゴロンされると何となく苛つく。
 彼女はお昼寝を満喫する後輩を指導するのは諦めて、読書に戻った。しばらく平和な沈黙が続く。

「……カケルっ!」

 放課後しばらく経ってから、バタンと音を立てて扉が開き、ストロベリーブロンドの美少女が顔を出す。
 カケルは起床を余儀なくされた。

「うげ、い、イヴ。何でここが分かったの?」
「リリーナに聞いたのよ」
「相変わらず地獄耳だな……」
「あんたルルキス先輩に迷惑掛けてないでしょうね」

 イヴとカケルの会話を聞いていたルルキスは、手に持っていた本をパタリと閉じた。

「……迷惑よ。貴方たち二人とも、出ていきなさい」
「は、はーい」

 銀髪美女にドスのきいた声で命じられて、後輩二人は震え上がって「すいません」と謝った。






 体育館を追い出されたイヴ達だが、このまま帰宅かと思いきや、カケルが意外なことを言い出した。

「イヴ、これから一緒に街の上空を飛んでみない?」
「どうしたの。あんなに溶けそうとか言って伸びてた癖に」

 暑さで参っていたのではなかったのか。
 不思議に思って聞くとカケルはふわふわ笑った。

「冷蔵庫に入ったら、ちょっと元気になったんだよ」

 涼しいところでお昼寝できたからとカケルは満足げだ。
 もう可愛い云々は気にしていないらしい。
 気持ちの切り替えが早すぎる。
 カケルらしい能天気さだとイヴは呆れ半分に思った。

 体育館から少し歩いて、開けた場所に行ってからカケルが竜に変身する。彼がいた場所に空色の鱗の風竜が姿を現す。イヴは身軽に竜の背に飛び乗った。彼女の騎乗を確認した竜は、翼を広げて飛び立つ。
 みるみる内に地上が遠くなる。
 放課後を過ぎた時刻なので、空の色は黄昏の赤に染まりつつある。
 夕暮れの光を浴びながら雲の上ギリギリまで昇って、ゆっくり旋回しながら街に降りていく。
 その頃には太陽は沈み、漆黒の天蓋には一番星が瞬き始めていた。
 竜は高度を落とし市街地すれすれの低空飛行に移行した。

「あれって……」

 街にいつもとは違う灯りが点っている。
 子供を連れた家族が大通りを行き来していた。
 人で賑わう大通りにはライトアップされた氷の彫像が並んでいる。

『夏祭りが始まったみたいだね』

 飾り付けがされた通りの光景が見えるように、竜は速度を落として飛ぶ。夏祭りの賑わいを見下ろしながら、イヴはカケルがどうして自分を誘って飛行を始めたのか悟った。

「ねえ、カケル」
『んー?』
「時々、貴方って最高に格好いいことをするわね」

 竜は咳き込んだ。
 イヴは彼が照れていると分かってクスクス笑う。
 照れ屋の竜と一緒にイヴはその夕暮れ、夏祭りを特等席で思い切り楽しんだのだった。


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