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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.13 もう一度、君と出会うために

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04 覚悟を示して

 元よりすんなり受け入れられるとは思っていなかった。
 ステラ・ノクラーンは黒髪と薄紫の瞳を持つ清楚な雰囲気の女性だ。どこか儚い花のように見える彼女だが、その正体は黒い鱗を持つ雷竜である。珍しい属性である「雷」の竜は、気性が荒い火竜と同じくらい攻撃的な竜だ。彼女も、虫も殺さぬ外見とは裏腹に頑固で意思が強い一面を持っている。

「辞退なさい」

 放課後の教室のロンドと向き合う位置で、黒板を背景にしたステラはそう告げた。
 藤色の瞳は冴え冴えとしていて、口調は荒くないものの、そっけない。
 冷たい目線を受けたロンドは内心怖気づいたが、踏みとどまった。

「嫌です」

 胸を張って告げる。
 二人の視線が交差した。
 譲らないものを込めて、どちらかが譲るまで折れるまいとした二人の間に沈黙が流れる。
 ロンドはただひたすらに待った。
 彼女が折れて和解の言葉を口にするのを。

「……なぜ、そこまで拘るのかしら。理由を聞いてもいい?」

 しばらくの沈黙の後、ステラは静かに問いかけてくる。
 貴方と契約したいから。
 ロンドは邪な本心の方は胸の中にしまっておくことにした。
 理由はひとつでなくてもいい。

「カケル・サーフェスが今どうしているか、ご存知ですか」
「サーフェス?」

 彼女はどうやら、知らないようだ。
 眉根をひそめて怪訝な声を出すステラに、ロンドは密かに落胆した。
 もし知っていれば情報が欲しかった。

「貴方とサーフェスは親しかったわね。サーフェスは病気のため自宅で療養していると聞いているけど」
「違います。あいつはソルダートに攫われたんだ!」

 自分でも驚いたことに、口から出た言葉は荒ぶる感情がこもっていた。
 ロンドは自分の声を聞いてようやく、カケルがいなくなったことに動揺している自分を発見する。弟のように思っていた彼がいなくなることなど、考えたこともなかったから気付かなかっただけで。ロンドは彼の失踪にショックを受けていたのだ。

「それは確かなの……?」

 はじめて、絶対拒否の姿勢を見せていたステラの表情に困惑が混じる。

「ソウマ・サーフェス、カケルの叔父さんの話です。ソウマ叔父さんは星翼協会エクセラードの研究部門の所属です。星翼協会エクセラードは戦務呪術師の組織だ。冗談で言っている訳がない」

 説明を聞いたステラは考え込む様子を見せた。
 ロンドは彼女に向かって強い意思を込めて頼む。

「僕はカケルを追いたい。力を貸してください、ノクターン先生」

 真摯な言葉に、しかしステラは首を横に振った。

「もう国内にいないなら、手遅れよ。未契約の竜がソルダートに連れていかれれば、行きつく先は決まっているわ。諦めなさい」
「もしカケルが敵に利用されているなら」

 ロンドは言葉をつづけながら覚悟を決めた。

「僕があいつを討ちます」

 ステラははっとして息を呑んだ。
 彼女はその藤色の眼差しでロンドの真意を確かめるように見つめる。

「……どうやら、私には貴方を止められないようね」

 絶対零度の空気をまとっていた彼女は、溜息をついてその空気をやわらげた。

「ステラ」
「?」
「名前で呼びなさい。軍に復帰して貴方の騎竜となるなら、先生と呼ばれるのはおかしいわ」

 彼女は数歩進んでロンドの前に立つ。
 比べてみるとロンドの方が背が高い。ステラは悲しそうに、苦しそうに眉をしかめながら、その口元を笑みのかたちに曲げた。
 ステラ。
 呼び捨てにするのは憚られるその名前を、音には出さずに口の中だけで転がしてみて、その違和感にロンドは笑いそうになった。自分はまだステラと対等になれるほど経験を積んだ竜騎士ではない。

「ステラ先生。お願いします。僕と一緒に戦ってください」

 ロンドは頭を下げる。
 自分よりも小柄で儚そうな彼女に向かって、滑稽な仕草だと思った。ロンドは彼女を守りたいのに、彼女と一緒になるためには戦いに飛び込む必要がある。守りたいと思った彼女を危険にさらすのだ。この矛盾はいったい何なのだろう。
 唇を噛みしめたステラが頷く気配がする。
 その気配を感じながら、ロンドは己の無力さを悟っていた。
 学生の立場では封鎖されつつある国境線から外に出られるか怪しい。竜なら振り切って飛んでいくことができるかもしれないが、竜でないロンドは空を飛んでソルダートへ向かうことはできない。 己一人では何一つ為せることはないのだ。







 レグルスの北には国の中心となる王族の住まう城と、政治が行われるエファラン統括府がある。
 空軍の要職に就くアロールに呼び出されて、ロンドは統括府に赴いた。
 統括府は三つの棟からなる巨大な建物で、要人が会議するための広間や、統括府に努める文官や武官が事務仕事をするための部屋が入っている。また、空軍の騎竜が飛び立つための専用の発着場や、陸軍が訓練をするための施設も併設されている。
 迷子になりそうな程に広い統括府。
 その廊下を歩くロンドは見覚えのあるストロベリーブロンドの髪をなびかせた少女の姿を発見する。

「アラクサラ君」
「ロンド先輩? なぜこんなところに」

 勝気な蒼天の瞳を向けてくる彼女は、イヴ・アラクサラだ。
 カケルとパートナーを組んでいた少女と会って、今更ながら彼女はカケルの失踪を知っているのだろうかと思う。

「どうしてというのは、僕の台詞だよ、アラクサラ君。僕は空軍に呼ばれてるんだ。君は……」
「私はお父さんの手伝いをしているの」

 そう言われてみるとイヴはレグルス王立中央学校の制服ではなく、星翼協会エクセラードの職員の服装をしていた。片手に書類や荷物を持っている。彼女の父親は星翼協会の代表だ。

「ロンド先輩は知ってるの、カケルのこと……」

 聞きたいと思っていたことを、先に向こうから遠まわしに示唆されて、ロンドはゆっくり頷いた。
 あまり大きな声で話す話題ではない。

「私は諦めない」
「アラクサラ君……」
「あの馬鹿を、首に縄を付けてでも、連れ戻してやるんだから」

 少女の瞳には決死の覚悟が放つ強い煌めきがある。
 不思議なことに彼女からは絶望の気配は感じられない。イヴからは強い怒りと目標を成し遂げるという強い意思のみが感じられた。その姿勢はまるで折れぬ剣のように気高く、揺るぎがない。
 たとえ向かう先に絶望があったとしても、彼女は躊躇わずに光の軌跡を描いて進むのだろう。
 そんな気配がした。



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