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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.13 もう一度、君と出会うために

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03 変わり始める日常

 ロンド・イーニークがその知らせを聞いたのは、週末に実家に帰った時の事だった。ロンドは空戦科5年生で竜騎士志望の男子生徒だ。
 落ち着いた雰囲気と冷静な判断力でお兄さんキャラとして通っている彼だが、実際は彼は兄を数年前に無くして現在は一人っ子だ。ただ、ロンドには弟のように可愛がっている近所の少年がいる。
 その少年、カケルの失踪を知らされたのは、母に頼まれて近所のカケルの家に晩御飯のおかずをお裾分けに立ち寄った時の事だった。

「ソルダートに連れていかれたらしい……」

 玄関に立った汚れた白衣を着た無精髭の男性が、暗い顔で言う。
 カケルの保護者であるソウマ・サーフェスは、目の下に隈を作って見るからに疲労した様子だ。風呂に入っていないらしく、凝った汗の匂いがした。

「詳しく聞かせて下さい」

 ここ数日、カケルの姿を見掛けていなかった。
 ロンドはお昼寝大好きな彼の事だから、どうせサボって校内にいないのだろうと軽く考えていたのである。
 不在の理由を知ったロンドは慌てて晩御飯のおかずは脇に置き、勝手知ったる家に上がり込んで居間の椅子に座った。落ち着かない様子のソウマを座らせて、話を聞き出そうとする。

「数日前に、星翼協会エクセラードの研究棟に侵入者があったんだ」
「ソウマさんはもしかして」
「私は職員だからね。警護の者と応戦したさ」

 ソウマは星翼協会エクセラードの研究棟に勤めている呪術師だ。

「侵入者はソルダートの関係だったんだ。徹夜明けの私は、カケルがソルダートに連れ去られたことを聞いた……」
「そんな、どうしてカケルを? あいつが魔力レベルAの風竜だからでしょうか」

 ロンドの疑問を聞いたソウマは、うつむいてフケの漂う藍色の髪を掻き回した。

「君は知らなかったか。私もカケルも七司書家セブン・ライブラリアンの関係者だ。特にカケルは本家直系の血を引き、高位の呪術師になることを期待されていた」
「あいつが?」
「見えないだろうが、本当のことだ。カケルは本家直系のみが知りえる知識を持っているんだ。だから狙われて、連れ去られてもおかしくはない」

 ロンドは冗談ですよね、と言って笑いたかった。
 しかし暗く沈むソウマの表情は真剣で、とても冗談を言っている風ではない。徐々に現実がロンドに浸透する。カケルがいない現実が。
 そして最悪の未来を想像する。

「あいつはまだ、パートナーと契約していなかった……」

 未契約の竜は、呪術によって操られる危険がある。ソルダートの侵入は数日前のこと。数日あれば、抵抗する竜を組伏せて無理矢理契約するには十分な時間がある。
 もう、手遅れかもしれない。
 ソウマはロンドの懸念を察しているだろうが、何も答えなかった。
 彼は絶望しているのだ。
 絶望して、でも諦めきれなくて、思い悩んでいる。






 七司書家セブン・ライブラリアンは呪術師にとっては有名な家である。ロンドだって呪術師の端くれだ。七司書家のことは聞き知っていた。しかし、教本に書いてあること以上の知識を持っている訳ではない。
 呪術の発展に寄与した一族であり、今なお高天原インバウンドでは権力を持っている。知っているのはその程度のことだ。

 前触れなく失踪したカケル。その彼が七司書家の関係者だと言われたところで、だからそれが何の意味を持つのか判然としない。
 仲が良いとはいえ、四六時中一緒にいた訳ではない。
 だから喪失に苦しむ機会が中々訪れなくて、変わらない日常の中でカケルがいなくなったというのは性質の悪い冗談なのではと感じる。
 しかし、変わらないように思えた日常は変化を始めていた。

 学内で教師に呼び出されたロンドは、空軍の竜騎士と会っていた。
 青い軍服に銀に近い金髪と灰青色の瞳を持った優男だ。軍人という荒っぽい仕事に就いているとは思えない程、繊細で年齢不詳の容貌を持っている。しかし彼は紛れもなく空軍の要職に就いている竜騎士だ。
 彼の名はアロール・マクセラン。

「君とは前に会ったことがあるね」
「はい、年明けの演習に纏わる騒動で……」

 ボス級の虫が出てきたと思ったら、ソルダートに基地を占拠されてトラブル三昧だった演習を思い出す。あの事件の最後に後処理のためにやってきた軍人がアロールだった。直接、話す機会は無かったが。

「ロンド・イーニーク、三級戦務呪術師の資格持ち。学校の成績も中々良い。水竜ステファンと組んで学内ランキング上位に入っている」
「……?」
「そして年明けの騒動では一時的に雷竜ステラ・ノクターンと組んだとか」

 ロンドはどきりとした。
 あの儚い美貌を持つ彼女と一瞬近付いたように思えたが、学校に帰ってきてから個人的に話す機会は無くなっている。

「ステラはパートナーがいないために、空軍から出向扱いで学校の臨時教師をしているのだ。ロンド君、君、彼女と組んでみないか」

 優雅に膝を組んだアロールは飛んでもない事を言う。

「え?! どういうことですか」
「ソルダートの進攻の噂は君も聞いているだろう」

 驚いて問い返すロンドに、アロールは淡々と説明する。

「奴らが国境線にでばってきているおかげで、エファランの空軍は徹夜で見回りを余儀なくされている。今は人手不足でね。戦える竜を遊ばせておく理由はないのだ。学生でも君は最低限の単位を取っているから徴兵に問題ない」
「……ノクターン教師は、僕と組むことを受け入れているのですか?」
「これから説得するところさ」

 憂いに満ちた藤色の眼差しを思い浮かべて、ロンドは身震いした。彼女は竜騎士を亡くした竜だ。その傷を引きずっていて、誰とも契約するつもりがないと言っていた。
 契約を望むロンドを乗せることは彼女にとって不本意に違いない。
 軍の命令とはいえ……そんな簡単にいくだろうか。波乱が大いに予想できる。
 しかしこれはチャンスでもある。
 ずっと近付きたいと願っていたステラと一緒に行動できる。そして、いなくなったカケルの情報を追うこともできるかもしれない。
 ロンドは膝の上の拳を固く握り締めた。


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