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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.13 もう一度、君と出会うために

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02 前を向いて

 イヴは、自分がどうすればいいのか、分からなくなった。
 いなくなってしまったカケル。
 彼は出会った頃から、常にイヴと距離を置こうとしてきた。追っていったのはイヴの方から。いつかは「好きだ」と告白してくれたけれど、あれは本当のことだったのだろうか。彼が目の前にいない今、自信が揺らぐ。

 お昼寝竜の癖に貴方は私を散々に振り回す。

 私のことなんてどうでも良かったんじゃないの? 私だって貴方みたいな竜はお断りよ。口を開けば昼寝のことばっかり。もう、うんざりよ。いなくなってせいせいするわ。
 せいせいするわよ……。

「イヴ……」

 唇を噛むイヴの顔を覗き込んだリリーナは顔を曇らせる。
 きっと酷い顔をしているのだろう。

「きっとカケルは、帰ってくるわ」

 リリーナは穏やかな声音で撫でるように言う。
 心配してくれる友人には悪いが、イヴはそう楽観的になれなかった。

「戻ってきても私の竜になってくれるか、分からない」
「カケルはイヴを好きだって言ってたよ……?」
「口先ばっかりで実際は私を遠ざけようとしたじゃない。今回だって」

 オルタナやウィルは、カケルの事情を知っているようだった。
 しかし肝心の、竜騎士でパートナーのイヴには、カケルは何ひとつ話さなかったのだ。

「……おい、アラクサラ。てめえ諦めるつもりか。いつもの威勢はどうした?」

 図書室を出る手前でオルタナが声を掛けてくる。
 珍しい。いつも彼は自分からイヴに話しかけることはない。
 イヴとこの獣人の青年はいわゆる犬猿の仲だった。

「うるさいわよ。あんな馬鹿、こっちから願い下げなんだから!」

 売り言葉に買い言葉。
 イヴは顔を背けて吐き捨てると廊下を歩き出した。





 カケルがいなくなってから数日が経った。
 雨に濡れた窓を見つめながら、イヴは頬杖をついた。
 何もする気が起きない。
 億劫な気分になってイヴは参考書を広げたままページをめくらずに雨音を聞いた。

 カケルの不在は、学校では長期休暇として処理されている。保護者であるソウマ・サーフェスやマクセランが手を回しているらしい。表向きは平和な学校生活が継続している。
 しかし、ソルダートとの国交悪化の影響は確実に表れてきている。
 エファラン国内でソルダートの軍隊が姿を見せ始め、侵攻を始めているという噂になっていた。空戦科と陸戦科の上級生、一番上のセファン達6年生の姿が見当たらない。彼等は噂によるとエファラン国軍の予備戦力として徴収されたらしい。
 戦争が始まるのかしら。
 それはあまりに非現実的な想像だった。
 イヴ達、エファランの民は、虫と呼ばれるモンスターとは戦ってきたが、同じ人間とはなるべく争わないように努めてきたのだ。昔話にあるような血が血で洗うような抗争とは無縁だった。

 その日の放課後、職員室に呼ばれたイヴは、学年主任の教師であるパレアナ女史と話をした。

「アラクサラ君。気付いているかもしれないが、ソルダートとの関係が悪化している今、学生である君達にも戦場に出るよう依頼することになるかもしれない」
「私は……竜騎士ですが、竜がいません」
「君は三級戦務呪術師の資格を持っているだろう。いざとなれば、そちらでお願いするかもしれない」

 そんな事態にはなるべくならないようにするが、念のためだ。
 そうパレアナ女史は静かに締めくくった。
 イヴの他にも成績優秀な生徒には個別に声を掛けているらしい。
 職員室を出たイヴは廊下を歩きながら、そういえばリリーナがいないなと思った。リリーナはカケルが姿を消した日から、学校を休んでいる。オルタナも同様だ。
 身の回りの人々が次々と姿を消している。

 イヴはふと廊下の中央で足を止めた。
 いつもの喧騒が別の音のように聞こえる。
 知っている場所なのに、見知らぬ場所で一人きりになっている気がした。

「……アラクサラさん!」
「クリス?」

 その時、同級生で竜のクリスが走り寄ってくる。

「あーもう探したよ! お願いしたいことがあって」
「何?」
「カケルの奴がさー、ちょっと来てくれよ!」

 彼の口から出た名前に、一瞬イヴはどきりとした。
 カケルが帰ってきたのかと思ったのだ。
 しかし当たり前だが違った。
 クリスは空戦科の教室の隅までイヴを引っ張っていくと、教室の壁際にあるロッカーを開いた。ロッカーの中には見覚えのある木箱が詰まっている。

「これってカケルの奴の持ち物だろ? 何とかしたいんだけど、勝手に捨てるのもどうかと思ってさ」
「捨てればいいじゃない。ええ、どんどん捨てるがいいわ!」
「え?! そう? まあ飼い主のアラクサラがOKならカケルも良いんだろうけどさ。よっと」

 許可を得たクリスは木箱をロッカーから引きずりだす。
 ロッカーの扉が途中で引っかかって、木箱の中身がこぼれた。
 小さな羊さんの縫いぐるみが床に散らばる。

「あ!」

 ばさり、と羊さんと一緒に何かの本が落ちた。
 拾い上げたイヴは瞠目する。
 それは竜の飛行に関する数少ない参考書だった。

「あれ? カケルの奴、実は真面目に勉強してたのか?」

 本を見たクリスが目を丸くする。
 無理もない。普段のカケルはお昼寝上等の不良学生で、授業をさぼってばかり。試験の成績も、竜の飛行実技以外は手を抜いていて、同級生達にはお馬鹿な竜だと思われていた。
 イヴは無言のまま参考書のページを開く。
 人間の呪術師の彼女には竜の飛行技術については専門外で、参考書の内容は目新しいものだった。天候によってどう飛ぶか、疲労を覚えた時はどのように姿勢制御すれば楽に飛べるか。スピードを出すときはどのように羽ばたけば良いか。参考書には竜の身体の構造に基づいた分析と理論が詳細に書いてあった。
 後半には予備知識が記載してある。
 その中には、竜騎士の体格や性別によって、乗せて飛ぶ時に異なる注意が必要だと記してあった。女性の竜騎士を乗せて飛ぶ場合は、男性より体力が少ないので、長期飛行は避けた方が良い云々。
 開いたページから付箋がひらりと床に落ちる。
 付箋が貼ってあった項目は明らかだった。

「……っ! あの馬鹿……」
「アラクサラさん?」

 思わずイヴは本で顔を覆い隠した。
 実は真面目で誠実な竜だと知っていたはずなのに。影で努力する性格だと分かっていたのに。
 カケルは彼女と契約するつもりがあった。だから参考書で女性の竜騎士と飛行する時の注意点について調べていたのだ。



 君とずっと一緒にいたいよ! 一緒に空を飛んでいたい、いつまでも……



 カケルの叫びが蘇る。
 なぜ忘れていたのだろう。
 どうして疑えたのだろう。

 自分ばかりが追いかけていると思っていた。
 しかし思い返してみればカケルの方から手を伸べた時も何回もあった。いつだって、さりげなくイヴが窮地の時に飛んできて助けてくれて。好きだという告白も実はカケルの方からだった。



 貴方に会いたい。



 イヴは参考書から顔を上げた。
 彼女の蒼い瞳は強い意思を秘めて、晴れた日の空のように鮮やかに輝いた。



番外編「夏は竜を冷やすべし」を以下URLにてアップしています~
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882684281/episodes/1177354054883764846
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