挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.13 もう一度、君と出会うために

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

125/160

01 後悔

 放課後、学校の図書室に残って資料を読んでいたウィルは顔を上げた。
 ウィルヘルム・ラーソンは、研究科5年生の呪術学専攻の男子生徒である。本の虫と有名な彼は、研究者に配布される白衣を必要な時以外も羽織り、背中を丸めてひたすら書物と向き合う生活を送っていた。
 その日も図書室に籠って日が落ちても書物を読み耽っていたのだ。
 しかし彼の安寧は破られた。
 彼にしか聞こえない、プツンと弦楽器の弦が切れるような音とともに。

「……接続が、切れた? 予行練習のために掛けた術式のつもりだったのに、もしかして本番になってしまったということか」

 ウィルは呪術師だ。
 つい先日、ウィルは後輩の竜の青年と話をした。その話の中で、万が一の事態が起こった場合に備えて、いくつかの術式を仕掛けておこうということになったのだ。
 先ほどの音は仕掛けておいた術式が動作した音だった。
 呪術師にしか見えない、光の文字や紋様が渦巻く視界の中で、ウィルは考えられる可能性について思索に耽る。しばらく考えた後、彼はふと我に返った。本当に懸念していた事態になっていたなら、一刻も早く動かなくてはならない。

「まずは、ソウマ・サーフェスに連絡を。それからマクセランの誰かを捕まえて……」

 手元の資料を閉じて立ち上がる。
 今夜は眠れぬ夜になりそうだ。






 結局、カケルは帰ってこなかった。
 寮の玄関で待ち続けていたイヴは、さすがに待ちきれずに自室に戻った。何か嫌な胸騒ぎがして落ち着かない。彼女は浅い夢の狭間をさまよった。それでも朝はやってくる。
 朝一番で、寮の部屋の戸を叩く音がした。

「はい」
「私、アリエルよ。ウィルが呼んでるから、リリーナちゃんと一緒に図書室に来て欲しいって」

 アリエルは寮内でお世話になっている女性の先輩だ。
 現在の副寮長でもある。ウィルは先代の寮長セファンがもうすぐ卒業なので、現在の寮長になっている研究科の男子生徒だ。朝から異例の寮長の呼び出しとは、穏やかではない。

「図書室?」

 疑問に思いながら、同室のリリーナと一緒に身支度を整えて寮を出た。
 まだ誰も学校に登校していない時間帯。
 静まり返った校舎にイヴ達の足音が響く。

 レグルス王立中央学校の図書室は、王都でも三本の指に入る規模の蔵書数を誇る。
 広い図書室で自習用の机が並んでいる一角でウィルが待っていた。
 ウィルの隣には先代寮長のセファン、同じチームでカケルのルームメイトのオルタナの姿もある。
 席に着くように促されてイヴ達はテーブルを囲むように椅子に腰かけた。
 真っ先に口を開いたのはセファンだった。

「……昨夜、キグナスでソルダートの襲撃があった」
「!」

 キグナスとは、レグルスの南東にあるエファランの街の名前だ。

「そいつはどうやら陽動だったらしい。目的は王都レグルスに潜入して、情報を盗むことだったんだ。王都が手薄になった瞬間を狙って、ソルダートの精鋭がレグルスに侵入していた。星翼協会エクセラードの研究棟で夜番をしていた呪術師が応戦したと聞いている」

 セファンは優秀な火竜だ。彼は学校を卒業後、パートナーのイリア・マクセランと共にエファランの空軍に就職することが決まっている。既に空軍に出入りして訓練にも参加したりしているらしい。
 一般の生徒では知らないような軍事的な情報を知っていてもおかしくはない。

星翼協会エクセラードということは、お父さんは……」
「リチャード氏は今、管理責任やら何やらで忙しくしているだろう。アラクサラ、問題はそこじゃないんだ。お前達を集めたのは、サーフェスのことで知らせなければいけないことがあるからだ」
「カケル……?」
「昨夜の襲撃で、サーフェスはソルダートに連れていかれた」

 一瞬、何を言われたか分からずにイヴは茫然とした。
 固まってしまった彼女を余所に、会話が続く。

「ソレル、お前はサーフェスと話していたそうだな」
「ああ。でもあいつが予想していたよりも早かったんじゃねえか」
「そうなんだよオルタナ君。僕はつい先日話を聞いたばかりだったのに……」

 カケルがいなくなったことに驚く様子もなく、平然と話すセファンとオルタナ、ウィル。
 イヴは彼がいない現実が信じられずに眩暈がする気分だった。

「サーフェスは、エファランに帰るつもりだと言っていたか?」
「俺が聞いた時は何も。一応、ゴールに向かって動けと言っといたんすけど」

 まさか、自分から出て行ったの、カケル……?
 帰るつもりが、無い……?

「イヴ、大丈夫?」
「……私が、私が昨日無茶なことを言ったから」

 リリーナが心配そうにイヴを見つめる。
 それに対してイヴはうわごとのように呟いた。思い出すのは昨日の保健室での遣り取り。怒りに燃える黄金の瞳と、悲しそうな横顔。夕暮れの光が差し込む保健室の窓は開いていて、風にカーテンが揺れるばかりだった。

「カケルは本当に、私とは契約したくないのかも……」

 分からない。貴方が遠すぎて分からない。
 イヴは頭を抱えてうずくまる。
 周囲の先輩や同級生達が口々に「そんなことはない」と言って慰めるが、その言葉は彼女の耳に入っていなかった。ただ彼女は昨日の会話を思い出して、記憶の刃で何度も自分の心を突き刺した。悔恨が止まなかった。


 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ