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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.12 その手を離さないで

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08 貴方の本音が知りたい

 イヴは腹が立っていた。
 せっかく父親と引き合わせて、周囲も納得しそうな雰囲気なのに、肝心のカケルが「契約や~めた」と言い出したからだ。今更いったい何故そんなことを言い出したの。ふざけないで。
 このところカケルは大人しくイヴの言うことを聞くようになっていたのに、また以前のようにふわふわ捉えどころもなく逃げ回るカケルを追いかける毎日に戻ってしまった。

「こんなんじゃ、いつまで経っても契約できないじゃない。どうしたら……」
「お悩み?」
「わっ」

 夏寮の女子専用となっている3階の通路に佇んで、風に当たりながら黄昏ていると、同じ階に住んでいる先輩のアリエルが不意に声を掛けてきた。イヴは驚いて一歩下がる。

「驚かさないで下さい!」
「ごめんね」

 アリエルはイヴの一つ上の学年で、頼れる美人なお姉さんである。
 寮の中だからか、普段は後ろ頭で結んでいる長い髪を肩に降ろしている。
 豊満な胸元に落ちた髪の房が色っぽい雰囲気を出していた。

「イヴちゃんが悩んでるようだったから、アドバイスしようかな~と思って」
「アドバイス?」
「契約で悩んでるんでしょ。そんなの、既成事実を作っちゃえばいいのよ」
「な?!」

 アリエルの仄めかすところに気付いたイヴは絶句した。

「エファランでいう契約はさ、呪術師が竜に契約紋と呼ばれる支配の術式を掛けるのと、竜が大事な相手に印を付けて気持ちが伝わるようにする2つの方法を相互に行うことよね」

 彼女は竜騎士を目指す生徒なら知っていて当然の知識について、おさらいする。
 昔、竜と人間は別の文化を持つ種族だった。
 人間は竜を支配しようとして契約紋を作り出したが、逆に竜も気に入った人間を自分のモノにするために印を付けようとした。エファランでは二つの種族が交じり合ったことで独自の文化が生まれた。対等な関係を築くために、双方向に印を付けることによって、契約を為したことにしたのだ。

「竜が逃げ回るなら、逆に竜の方からその気にさせればいいんだよ」
「どうやって?」
「それはね、うふふ」

 アリエルが耳打ちした方法は、とんでもない方法だった。

「そんなの無理よ……」
「えー? 本当に契約するなら、避けて通れない道じゃない。特に貴方達は異性同士だから、どうせ結婚するんだし」
「け、けっこん」

 イヴは顔を真っ赤にした。
 お昼寝大好きな青年を追いかけ始めた時点でうっすら思い描いていた未来だが、いざ言葉にしてみるととても恥ずかしい。本当にあの馬鹿と一緒になっていいの、と自分に問いかけたくなる。

「覚悟がないなら、そもそも付き合うのは止めた方がいいんじゃない?」
「……」

 アリエルの有無を言わさない上からの言葉に、イヴの心は揺れ動いた。
 自分の主義に反することをしようとしているのだが、それでも試してみたいと思わせる何かが心にある。それは、カケルという青年と出会った頃から、胸に抱いていた疑問のせい。

 貴方は本当に……なの?

 イヴは顔を上げた。

「アリエル先輩、教えてください」






 竜と竜騎士合同の授業の終わりに、イヴはわざとミスをして、怪我を負った。
 最後の竜から飛び降りる際に足首を捻ったのだ。

『だ、大丈夫、イヴ?!』

 蒼い竜は可哀相なほど動転して右往左往する。
 わずかな罪悪感を感じながら、イヴは痛む足を引き寄せた。

「大丈夫よ。念のため保健室に行くから、付き合って」

 竜から人の姿に戻ったカケルに付き添われて、イヴは保健室を目指す。
 この学校では戦闘訓練をしょっちゅう行うので怪我人が多い。軽微な傷なら消毒して寝てれば治るだろう、ということで、呼び出されない限りいちいち治癒担当の教師が出てきたりはしない。広い保健室には様々な種類の薬がおいてあって、生徒は適当に使って、その辺のベッドで休んでいいことになっていた。
 自由に薬を使わせると悪用する生徒が出てくるかもしれないので、最低限のルールはある。保健室を使った生徒は、所定の用紙に自分の名前と何の薬を使ったか、書いて出すことになっていた。

 イヴは机の上の用紙に自分の名前を書いて、湿布薬の欄をチェックした。
 落ち着いて湿布を貼るために、布の仕切りの付いたベッドの上に移動する。
 人気のないベッドの側にカケルを引き込んだ。

「あー、俺は外で待ってるよ」
「ここにいて」

 落ち着かない様子で出て行こうとするカケルを呼び止める。
 目を逸らして仕切りから出ていきたそうなカケルの前でブーツを脱いで、タイツをずらして湿布を広げた。そして、ポケットに密かに忍ばせておいた薬の蓋を開ける。
 強い花の匂いが仕切りの中に広がった。

「何、この匂い」

 カケルが不思議そうな顔をする。
 この匂いは人間にはただの良い匂いだが、竜には違う効果をもたらすらしい。その効果について、イヴはアリエルから聞いて知っていた。
 もう、後には引けない。
 イヴは湿布を足に貼りながら、カケルの横顔を見つめた。

 今度こそ、本当のことを聞かせてもらうわよ。



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