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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.12 その手を離さないで

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07 未来への道筋

 目の前の友人は変に几帳面だと思う。
 喧嘩上等の空気を漂わせて、制服を着崩している癖に、シャツはきっちり洗濯している。短気で誰にでも喧嘩を売るかと思えば、そうでもない。相手は選んでいるようだ。戦闘スタイルも数度一緒に戦って見ているが、獣人の膂力にものを言わせてがむしゃらに突進するのではなく、可能な限り急所を狙って一撃で敵を仕留める。
 友人のオルタナ・ソレルは賢い獣のような青年なのだ。

「オルトってさあ……」

 自分の獲物、特製の鋼牙ファングである二本の剣を研いでいるオルタナを、カケルはのんびり眺めていた。カケルと彼は寮の同じ部屋を使っているルームメイトで、ここは寝室とは別に共同で使っている居間だ。休日の気だるい夕方、オルタナは珍しく早く帰ってきて武器の点検をしているようだった。
 カケルはお手製のイルカさん抱き枕を抱え込みながら、規則正しい友人の手の動きをぼーっと見た。

「将来のこと、どこまで考えてる?」
「……なんだいきなり」

 お昼寝大好きなカケルの口から出た予想外にまともな質問に、オルタナは眉根を寄せて怪訝そうにする。

「いやあ、リリーナとのこと、どうするつもりなのかと思って」
「どうするって……なるようにしかならねえだろ」

 友人は達観したように言うと、それ以上の質問は受け付けないとばかり、剣の砥ぎに戻った。
 カケルは相手が聞いていることを確信しながら、背を向けた友人に向かって独り言のように話しかけた。

「俺はさあ、自分が望んでることと、イヴや皆が望んでくれてること、幸運にも重なってるように感じたから、将来については決まっているように思う。でも……」
「……」
「その前に過去を清算しなきゃな」

 イルカさん枕をぎゅっと抱え込む。
 あれから、妹の宣戦布告を聞いた時から何度も考えた。
 これは正しい選択なのか、と。綱渡りになるかもしれない、と。
 だから万が一の時のための保険として、友人に情報を託すことにした。

「……オルトには、これから先のことを話す。これからエファランとソルダートの間に何が起こるか、俺がどうなるか、話しておく」

 黙ったままの友人の背に、カケルは淡々と話した。
 未来の話を。
 話し終わってカケルが口を閉じた後、ややあって、オルタナは振り返ってカケルを見た。

「……今の話、あと一人くらい誰かに話しておけよ。あと、最後まできちんとお前が作戦を立てろ」
「作戦?」

 カケルはきょとんとした。
 これから起こることを想定したシミュレーションをしていたが、それがオルタナの言った作戦とどう繋がるか、思い至らなかったからだ。話したのは、あくまで予想した未来の話だけで、カケルは作戦を立てているつもりはなかった。

「俺達はチームだ。目標を設定して、道筋をつけろよ。カケル、お前はリーダーだろ」

 ぶっきらぼうに言ったオルタナにカケルは唐突に気付く。
 そうか。
 これがイヴのお父さんや、アロールさん達が遠まわしにアドバイスしてくれようとした事だ。
 俺は独りじゃない。
 独りで戦わなくてもいい。
 オルタナやリリーナに頼っていいのだ。彼等の力を借りれば、未来を切り開くことができる。

 目の前が一気に開けた気持ちになる。
 それと同時に、いかに自分が七司書家の考え方に囚われていたか、確認する。
 自分が何者であるか。
 それを決めるのは、自分自身なのだ。

「ありがとうオルト!」
「はあ」
「オルトには、栄えあるお昼寝同盟の会員一号の身分を進呈するよ!」
「いらねえよ」

 嫌がるオルタナの頭の上に、ヒヨコさん縫いぐるみを乗せると、カケルは鼻歌を歌いながら部屋から出て行った。ヒヨコさんを払い落とすのも面倒なオルタナは、溜息を吐きながら研ぎの作業を続ける。ヒヨコさんを乗せた姿は若干シュールだったとだけお伝えしておこう。






 翌朝、空戦科の教室でイヴはおかしなものを目撃した。
 机がいくつか繋げられていて、机の上に行列を作るように、拳より小さい置物が陳列してあった。
 近づいてみると、それは羊の縫いぐるみだった。

「何これ」

 イヴは机から羊の縫いぐるみを持ち上げて、眺めた。
 教室には早くに来た生徒が何人かいたが、いずれも引きつった顔で陳列された羊の縫いぐるみを遠巻きに眺めている。その時、教室の扉がガラッと開いて、木箱を抱えたカケルが入ってきた。

「あ、イヴおはよー」

 振り返ると、カケルの抱えた木箱の中身が目に入る。
 木箱には大量の羊の縫いぐるみが。

「犯人は、あんたなのね……」
「うん。授業が始まる前に羊さんの即売会を開こうと思って。羊さん効果で皆眠くなったら、俺が昼寝してても森の中の木のごとく、先生に指摘されない」
「そんな訳ないでしょ!?」

 イヴは思わず羊さんをカケルの顔面に投げつけた。

「しまいなさい! 今すぐ撤収なさい! まったく、私と契約したらこんな勝手許さないんだから!」

 怒って叫んで、人差し指を突き付ける。
 顔面直前で羊さんをキャッチしたカケルは、ふわふわ笑顔を浮かべた。

「そのことだけど」
「何よ」
「やっぱ俺、イヴと契約や~めた」
「はああああ?!」

 突拍子もないことを言い出すカケルに、イヴは思わず声を上げた。
 昨日の今日で、何故そんな話になったのか。

「だってイヴ、俺にお昼寝させてくれないんだもん」
「だもん、て貴方……」
「羊さん即売会も許してくれないし。俺そんな狭量な竜騎士はヤダ」

 唇を尖らせて文句を言うカケルに、イヴは言葉もなく絶句した。
 阿呆だと思ってたけど、こんなに阿呆だったとは。
 やだ、どうしよう……。



 
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