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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.12 その手を離さないで

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06 嫌な予感

 映像の中に佇んでいるのは、かつて七司書家で別れた少女だった。
 カケルと同じ黒に近い紺色の髪、琥珀色の瞳。男女の差はあっても、双子ゆえに、よく見れば容貌を構成する線に共通の要素を多く見出せるだろう。しかし、二人の立場や育った環境、性別が大きな差となって共通要素を覆い隠していた。ひとめで兄妹と分からぬほどに。

「……」

 カケルは動揺して、グラスを取り落としかける。
 テーブルとグラスがぶつかって音を立てたが、食堂の生徒達はソルダートの宣戦布告のインパクトもあって、カケルの様子に気付かない。唯一、イヴだけがカケルの動揺に気付いて眉を上げた。

「カケル……?」
「……なんでもない」

 必死で平静を装うカケルだが、内心は混乱していた。
 考えてみれば次期当主であったカケルの双子の妹であるフウカは、カケルがいないなら持ち上げられていても不思議ではない立場だ。まさかソルダートの軍事顧問として登場するとは、予想していなかったが。

「エファランの皆様。貴方がたは過去の過ちを省みず、危険な竜の力を借りて破滅へと突き進もうとしています。私はそれを止めに参りました。どうか、私達から奪ったものを返してください。今ならまだ、間に合います」

 涼やかな声で少女は悲しそうに歌う。
 ああ、嘘だな。カケルには分かる。彼女は複雑な政治の糸に絡めとられた操り人形。その言葉に真実などない。かつてカケル自身も、他者の思惑という鎖にがんじがらめにされていたのだ。今は妹が、その鎖に囚われている。
 カケルは痛いほど拳を握り締める。
 スピーチを終えた少女は、大衆の視線を浴びて口元をかすかに笑みのかたちに歪め、壇上から降りながら声なき言葉をつぶやいた。


 ……にいさまを、かえして。


 フウカ……?
 どういう意味だ。
 それは一瞬のモーションで、気付いた者は少なかった。
 少女が壇上から去り、また眼帯の軍人の男が現れて締めの言葉を話していたが、カケルの耳にそれは聞こえていなかった。ただ少女が去り際に残した言葉で、頭の中がいっぱいになっていた。






 ソルダートからのメッセージは終わり、映像は別の内容に切り替わる。
 食堂にいた生徒達は不安そうな顔で雑談を始めた。
 話題は、エファランが開戦するかどうか、だ。

「武力衝突にならないように、色々な方が手を尽くしてきたのに。ああ……」

 リリーナが嘆いて頭を抱える。
 彼女は国の中枢に近いところにいる。
 高天原インバウンドとの交渉で駆け回っている人々を知っているからこそ、今回のメッセージは遺憾なのだろう。平和を望むエファランの民の努力を無に帰す内容だ。
 同じテーブルにいた竜のクリスが、沈んでいる他のメンバーを見て不思議そうにする。

「いいじゃん戦えば。戦力では本当はエファランが上なんだろ。竜の力を思い知らせてやれば」

 おそらく、血気盛んな竜達の意見はクリスの言う通りなのだろう。
 イヴは憂鬱な顔で説明をした。

「確かにエファランの空軍の力は世界一だわ。でも、ソルダートを叩き潰すだけじゃ、戦争は終わらない。高天原インバウンドとどう付き合っていくかが、問題なのよ」
「放っておけばいいじゃん」
「そうはいかないのよ。ソルダートと高天原インバウンドは関係が深いから、ソルダートを倒したらソルダートに身内がいる高天原インバウンドの人々の恨みを買うわ。現状、エファランは完全に高天原インバウンドから完全に独立できる訳じゃない。まだ高天原インバウンドから輸入している物資もあるし、土地も同じ大陸で地続き。関係を断つには近すぎるのよ」

 クリスはイヴの説明に顔をしかめた。
 説明されればある程度理解はできるが、だからと言って戦う以外の方法を思いつくはずもない。

「……けど、だからって奴らの言う通り土地を差し出して、空軍を解体するのか。それってエファランが乗っ取られるってことだろ。俺は絶対に嫌だ!」

 テーブルに沈黙が降りた。
 学生の彼等には、それ以上の議論をしても事態を変える力はない。

「そうならない方法を、今、お父さん達が考えてるんだわ。待ちましょう」

 イヴはそう言ってノートを鞄に放り込んで立ち上がった。
 もう自習や食事の雰囲気ではなくなってしまった。
 カケル達はそれぞれトレーや筆記用具を片付けて、解散の雰囲気になる。
 食堂から出たカケルは、他の面々と別れて学校の裏の森へ歩き出した。夕日が校舎の影を長く引き伸ばしている。その影を縫って他の学生がいない方向へ歩く。とにかく今は1人で考えたかった。

「カケル!」

 後ろから追いかけてきたイヴが声をかける。
 呼び止められてカケルは立ち止まった。

「……さっきの、ソルダートの宣言で出てきた女の子、七司書家って言ってたけど」
「妹だよ」

 詳細を聞かれる前にカケルは正直に答えた。

「妹さん? カケル、あなた1人で考えて、変な方向に暴走したりしないでよ」
「変な方向……」
「ソルダートに妹さんに会いに行ったりとか」

 イヴの心配に、カケルはきょとんとした。

「あ、そうか。そういう手もあったか」
「カケル!」
「冗談だよ」

 ふわりと笑って答えるカケルに、イヴは嫌な予感を覚える。
 夕闇に照らされたカケルの微笑みが酷く儚く見えた。
 まるで今にも消えそうな程に。


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