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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.12 その手を離さないで

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05 宣戦布告

 竜と竜騎士のパートナー契約を在学中に済ませる生徒は多い。
 竜騎士は優れた竜と契約を結びたいし、竜だって呪術に秀でて体力もある竜騎士を選びたい。そしてお互いにできれば異性がいいと思っている。ただ、竜騎士を志望するのは男性が多い。竜騎士と言うのは戦闘職である以上、基礎体力が低い女性には向いていないのだ。
 なので、竜騎士を志望する女子は大人気だ。
 パートナー契約は一度決めてしまえば基本的には変更不可。早い者勝ちである。

 美少女で優れた呪術師であるイヴは、竜達が喉から手が出るほど、契約を結びたい相手だ。
 お昼寝大好きなカケルだって状況は理解している。
 彼女が自分に気がある内に契約してしまった方がいい。
 竜として、将来エファランの空軍に入って仕事するなら、なおさらのこと。
 それでもカケルが一歩踏み出すのに迷っているのは、自分の出身が関係している。望む望まざるにかかわらず、七司書家の名前はカケルに一生ついてまわる。その十字架を彼女にまで背負われるのは、いかがなものか。

「お前いつアラクサラさんと契約するんだよ」

 同級生の竜のクリスが、空戦科の竜専門の飛行講義の後に、カケルを捕まえて雑談の体で話しかけてくる。そこかしこから同級生達の視線を感じる。イヴとカケルが親公認で付き合っていることは、先日の寮対抗戦のせいで知れ渡っていた。
 周囲はカケル達が契約するものと思っている。
 それでも、あわよくば……と皆思っているのだ。お昼寝大好きで落ちこぼれだったカケルがドロップアウトすれば、自分達がイヴと契約できるチャンスがあるかもしれない、と。

「んー。そのうち」

 耳を澄ませている同級生達の前では迂闊なことを言えない。
 カケルはふわふわ笑って言葉を濁した。

「ちぇー、なんだよ。魔力レベルAの竜は予裕だよな。くっそー、さっさと契約しちゃえよ」

 クリスは唇を尖らせて文句を言った。
 彼はさっぱりとした気質でカケルにも好意的な生徒だ。文句を言ったりするものの、基本的には同じ竜として良き友人でもある。カケルは朗らかに笑って「あはは、ごめんね。そうするよ」と適当なことを言った。
 嫉妬の視線が飛んでくるが気にしない。
 七司書家にいた頃に浴びていたドロドロ暗い視線に比べたら、同級生達が向けてくる視線は春の木漏れ日のようなものだ。同じ竜の彼等は、ライバルではあるが、同じ竜族の仲間でもある。彼等はエファランに吹く乾いた風のように、執念を引きずらないカラッとした気持ちの良い性格の者が多かった。カケルを気に入らないといっても、せいぜい授業や戦闘訓練で嫌味を言ったり攻撃を当ててくるくらいで、裏でこそこそ画策したりはしない。

「空を飛んだ後は腹が減るなー。食堂で甘いものでも食べようぜ」
「そうだね」

 カケルは同級生と共に、夏寮の食堂へ向かった。
 食堂に入るとテーブルにノートを開いて自習中らしい、イヴとリリーナの姿を見つける。クリスが「お疲れ様~」と彼女達に話しかけたので、カケルも苦笑しながら二人のテーブルへ歩み寄った。
 流れで注文した食事を持って、彼女達の前に座る。

「へえー、真面目に授業に出てるの」

 カケルの姿を見たイヴは目を丸くした。

「酷いなあ。君が真面目に授業に出るように言ったんじゃないか」
「言ったわよ。私と釣り合うように、最低でも上から10番以内の成績を取りなさいね」
「……やだよー。お昼寝させてよー」

 注文の多いイヴに、カケルはぐったり背もたれにもたれて溜息をついた。
 真面目に授業に出てるのだってカケルなりに最大の譲歩なのだ。
 成績かあ。もちろん勉強すれば良い点を取れないことはないけど。
 自分の頭の良さは把握しているカケルである。歴史や呪術に関する知識の方面、雑学については、実家で叩き込まれているので今更何もすることなく試験に対応できる。しかし、その他の知識については、いかなカケルでもそれなりに勉強しなければ点数を取れない。
 努力して成績上位に食い込んだところで、何か意味があるんだろうか。
 面倒くさい。

「さっさと契約するわよ。契約したら、私には絶対服従よ! 馬車馬のように働いてもらうわ!」
「勘弁してくれ……」

 鼻息荒く言い放つイヴ。
 猫にくわえられたネズミのようにカケルは震えた。
 彼女に捕まったのは運の尽きかもしれない。

「あれ、何か放送があるみたいだぞ。ソルダートからの通達……?」
「何ですって」

 壁に掛けてあるテレビを見てクリスが呟く。
 テレビと言っても正確にはテレビのようなもの。設置型の呪術で、四角い板にニュースや広告の映像を投影しているだけの代物だ。チャンネルの切り替えなどの機能は無く、映像を流し続けるだけである。
 クリスの言葉に、リリーナが顔を上げる。普段は柔らかで穏やかな表情が、何故か不安と焦燥で揺れていた。
 嫌な予感がする。
 学生の姿が少なく静かな食堂に、放送の音声が響く。

「……我が国と緊張関係にあるソルダートですが、先刻、我が国にメッセージを送ってきました」

 ソルダートの国旗である太陽と狼を模した深紅の布の前に、国の高官とおぼしき軍服の男性が立つ。
 片目に眼帯を巻いたその男性がメッセージの内容を話し出す。

「エファランの諸君へ。我が国は貴国を告発する。告発の内容は、貴国が不当に資源を専有している件についてだ。先日アクレス近郊で我が国の軍と貴国の軍の衝突があったが、そもそもアクレスは我が国が最初に見つけた地である。我が国は我等の土地を取り返そうとしたに過ぎない」

 ソルダートの軍人の宣言に、食堂の学生達がざわめく。

「なんだって」
「んな訳ねーだろ! 言いがかりだ!」

 記録を遡らないと正確には分からないが、アクレスはエファランの土地で間違いない。
 ソルダートの主張は傲慢そのものだ。
 映像の中の人物はさらに言葉を重ねる。

「エファランは我等から資源を奪い、占拠している。ソルダートはこれに抗議し、ダイアルフィールドの連盟に国際裁判を依頼するものである。もしエファランが反省し、我等と和解をはかるのであれば、速やかに我等の土地を返還し、空軍を解体せよ。あくまでも連盟と我等に反旗を翻すのであれば、我等も実力行使をせざるをえない」

 土地を奪われているのはエファランの方で、侵攻を受けているのはエファランだ。問題をすり替え、ソルダートはあたかも自分が被害者のように言い立てている。そして卑怯にも数の暴力を揮おうとしている。高天原インバウンドの諸国に協力させると言って。
 空軍を解体されればエファランの戦力は無くなる。そんなことが受け入れられるはずがない。
 これは、宣戦布告だ。

高天原インバウンドもこの事態を重く見ている。我等を支援するために、軍事顧問を派遣された。ここでその軍事顧問に挨拶していただく」

 片目に眼帯をした男性は壇上から少し下がった位置へ移動する。
 入れ替わるように国旗の前に別の人物が登場する。
 それは黒髪の美しい少女だった。
 呪術師のローブを羽織り、ソルダートの軍服をカスタマイズした衣装を身にまとっている。華奢な手足は白く、ほっそりとしている。少女が動くと長い黒髪がローブの上にこぼれた。おっとりした雰囲気の少女は、つぶらな琥珀色の瞳で前を見据える。年齢に見合わぬ落ち着き。微塵も緊張している様子はない。

「……私の名は、フウカ・エルナ・ライブラ。七司書家から参りました」

 画面を見つめていたカケルの手から、水の入ったグラスが落ちた。




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