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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.12 その手を離さないで

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04 空に翔ける夢

 リチャードは終始穏やかな態度だった。
 カケルは七司書家や呪術学について、問われるまま素直に彼と話をした。和やかな団らんはあっという間に過ぎ、夕食を終えたカケルは「そろそろお暇します」と立ち上がる。
 イヴの両親は玄関まで見送りに来てくれた。
 その好意的な態度にカケルは戸惑う。

「今度来るときは、もう少し娘を制御して、連絡を寄越させるようにしてくれ」
「はあ、すいません」
「うちの娘が破天荒なのがいけない。カケル君が付いていてくれた方が返って安心かもしれん」

 普段はカケルの方がふらふらしているのに、今日は逆のパターンだったようだ。
 思いがけぬ言葉にカケルは顔を引きつらせる。
 リチャードはカケルの肩を叩いて笑った。

「お父さん、私、途中までカケルを送っていくから」

 それって逆じゃね?
 色々調子を崩すなあと思いつつ、カケルは軽く頭を下げると、アラクサラ家を後にした。
 夜道を少し歩いたところで一緒についてきたイヴに声を掛ける。

「イヴ、もうここまででいいよ。君が一人で夜道を歩く方が危ないよ」
「大丈夫よ。私は竜騎士志望よ。護身術くらい心得てるわ」

 澄ました顔で言うイヴは、カケルに向き直った。

「ね、大丈夫だったでしょう?」

 主語や目的語を抜かした言葉だったが、何となく意味が分かる。
 カケルは苦笑した。

「……てっきり、イヴのお父さんに怒られるかと思ったよ」
「うちの父は理不尽に怒ったりしないわよ。真面目で責任感のある人が好きなの。あなたは見た目阿呆だけど、話せば意外に真面目だって分かるわ」
「うーん。褒められてるのかな、それ」

 頬をかく。
 突然の訪問だが確かに収穫はあった。
 イヴの父親との会話は、カケルに自分の足りていないものをはっきり自覚させた。カケルは七司書家で外交だの交渉術だのを叩きこまれてはいたが、それは悪意のある人間に対応する方法に偏っていた。七司書家にいた頃から、独りで戦う方法をずっと模索してきたのだ。
 誰かに頼ることを、カケルは知らなかった。

「……まだ、私とは契約しないって言う?」
「言わないよ」

 夏の夜風が二人の間をするりと吹き抜けた。
 一年前の今日は君と俺は同じ学年というだけの他人で、こんな会話をするなんて夢にも思っていなかった。

 周囲に人がいないことを確認すると、カケルは彼女との距離をそっと詰めて、腕を伸ばして顔を近づける。そのまま、抵抗しない彼女に静かな口付けを落とした。






 逃げても無駄と悟ったカケルは次の日からイヴを避けるのをやめた。
 授業もさぼらずに真面目に出る。
 空戦科の授業はエファラン独自の知識や技術も多く、そこはカケルも知らない部分なので、どの道授業に出なければ試験に合格できない。
 その日の授業は竜騎士と竜の合同の座学で、旧世界の技術についての講義だった。

「……我々は現在、竜騎士は竜に乗って自由に空を飛ぶことが可能だが、旧世界ではそうでは無かったそうだ。旧世界では竜や獣人が存在せず、ソルダートが使用しているような機械が生活の中心だった。その機械も無かった時代が、古代にはあったらしい」

 教師は壇上に立って、紙の資料をとんとんと叩く。
 竜騎士志望の呪術師の生徒は、予め講義の内容のデータを渡されているため、呪術を同時に使用して詳細なデータを閲覧できる。呪術の使えない竜には、紙の資料が配布されている。

「竜がいなかったら、我々はどうやって空を飛んだらいいと思う? はい、そこの君、考えてみて」

 空戦科の教室内にいる生徒をランダムに指名して、教師が聞く。

「空を飛ぶ方法ですか……考えたこともありませんでした。ええと、大きな凧のようなものを用意するとか、飛行船みたいに風船を飛ばすとかですか」

 指名された生徒が考え込みながら答える。

「うん。確かに空に浮かぶことは、それで可能だね。だけど望む方向に進んだり、速度を変えたりすることは、その方法では難しいと思わないかな?」
「言われてみれば……」

 飛行船は基本的に大きな風船だ。高速で移動してなおかつ方向を変えることには向いていない。

「空を飛ぶ……ということを、思い描く通りの速度で空中を自由に移動することだと仮定すると、飛行船では役不足なのだ。旧世界では竜の代わりに飛行機と呼ばれる機械が存在した」
「飛行機……?」

 カケルは話を聞きながら、うつらうつらと寝入りかける。
 この話の続きはカケルも知っていた。

「鳥のような翼を持ち、機械の心臓、動力炉でプロペラを回転させて推力を確保する、竜のような乗り物が古代にはあったのだよ」
「へえ……」
「この飛行機、飛行船もだが、とても危険な乗り物だったらしい。当時の人々は呪術を使えなかった。だから、高い空中から落ちたら死ぬしかなかったんだ。しかも機械は竜と違って、飛んでいる途中で故障したりもする」
「うわっ、むちゃくちゃ危険じゃないですか! そんな乗り物に当時の人達は乗ってたんですか?」
「記録では多数の人々が乗っていたそうだよ。軍人ではなく一般の人まで」
「理解できないですね。なんで死にに行くような真似をするのか」

 生徒達は感想を口にして騒ぐ。
 窓際の日当たりのいい席でカケルは半分以上、夢の世界にいた。
 夢うつつだったカケルの耳に、すっと、教師の声が入ってくる。

「それでも彼等は、空を飛びたかったのさ」

 カケルは目を開けた。
 窓の外の夏の空には入道雲が湧き上がっている。
 抜けるような蒼天に一筋の白い線が横切る。上空を竜が通過したのだ。

「とても多くの人が飛行機に乗って死んでいった。それでも人間は空に憧れつづけた。竜は、その人類の夢の果てに生まれたんだよ。その辺の話を次の授業でしようか」

 頬杖をついたカケルは、ぼんやりと思い出す。
 機械文明は進化しつづけ機械が生物になりかわる時代がくる。機械と人の境目が無くなった頃、大きな戦争が起きて人はすべてを失った。生き残ったのは、自らの肉体を造り変え生物兵器にした「竜」達だけだった。
 歴史を知る者の中には、竜の存在を過ちだと、汚染された遺伝子だと唱える者もいる。
 旧世界の歴史は断片的にしか残されておらず、今となっては推論を重ねるしかない。
 だから今、教師が言ったことも本当かもしれない。
 いや、本当の方がずっと良い。
 カケル自身も、空に憧れて竜になったのだから。


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