挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.12 その手を離さないで

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

116/160

02 お昼寝させてください

 カケルは少女を連れて、喫茶店へ移動した。
 喫茶店はカケルのチームの溜まり場になっている「葡萄」だ。顔馴染みの店主は少女を連れたカケルの姿に眉を上げたが、ひとまず何も言わずに席を用意してくれた。
 ミレーヌはケーキを食べたそうだったので、カケルは自腹を切ってケーキを注文する。

「はぐっ……美味しい! カケルさんもいかがですか?」
「や、俺は別に甘いもの好きって訳じゃないから」

 年頃の少女らしく、ミレーヌはケーキを頬張って幸せそうにする。
 カケルはその可愛らしい顔を眺めながら、釘を刺した。

「ミレーヌ。俺は君と契約するつもりないよ」

 アロールは迷っているカケルに、どうせなら自分の妹と契約してみるか、と誘いかけていた。ミレーヌが来たのもその関係だと踏んでの発言だった。
 口の端についてクリームをぬぐわずにミレーヌは首を傾げる。

「じゃあ、イヴさんと契約するんですか?」
「……」
「カケルさん。竜が誰とも契約せずに戦うのは自殺行為ですよ。カケルさんは魔力が高いから、ある程度は大丈夫かもしれないけど、同格の相手や手強い竜騎士と組んだ竜には負けますよ」

 そうなのだ。
 竜は強大な力を持っている故の制約か、竜騎士なしには不便なようにできている。カケルの知る限り契約とは、もともと人間が呪術を使って竜を従わせることを指していたはずだ。それがここ、エファランでは双方向に契約を結ぶことでお互いに利益があるように調整している。
 面倒くさいなー。
 カケルは少女にまで諭される現実にうんざりした。
 パートナーを選んで戦えと言われて素直にうなずけないのが、カケルの性格だ。

「兄から話を聞きました。カケルさんはアラクサラさんを守りたいんだって。私と契約すれば、アラクサラさんを巻き込まなくて済みますよ?」
「君みたいな可愛い女の子を巻き込めないよ」
「何言ってるんですか、カケルさん。例え私がごつい男でも、竜騎士を守れなかったらカケルさんは落ち込みますよ。断言します。竜はそういう生き物です」

 少女の声音には奇妙な説得力があって、カケルは気おされて黙り込んだ。

「アラクサラさんはまだ契約している竜がいないんですよね。もし、アラクサラさんが、他の竜を選んで契約したらどうします?」
「……祝福するよ」
「本当に?」

 もやもやとしたものを胸に抱えながらカケルは意地を張った。
 認めたくない感情がそこにある。

「ケーキありがとうございました。契約の話、前向きに考えてくれると嬉しいです」
「俺は契約は」
「マクセランはカケルさんを利用したいと考えています。これは私たちとカケルさんにとって、双方に都合が良い取引です。カケルさんは、こういう関係の方が気軽なんじゃないですか?」

 利害の一致で結ばれる関係。
 それは七司書家で嫌というほど慣れ親しんだ関係だ。確かにイヴと契約するより、心安らかに冷静に対応できるだろう。けれど、本当にそれでいいのか。自問自答しながら、カケルは学校に戻るというミレーヌを途中まで見送った。






 ここ最近、またイヴを避けていたカケルだが、空戦科の必須講義はさすがに出席しないとまずい。
 竜と竜騎士合同の授業で必然的に顔を合わせることになってしまった。
 久しぶりに顔を合わせたイヴは、目が合うなりそっぽを向く。
 ああ完全にへそを曲げられたな……とカケルは自業自得と知りながらショックを受けた。

「今回の授業は、竜と竜騎士の相性を見るものだ。パートナーが何かの都合で一緒に戦闘に出られないときは、できるだけ相性の良い他の相手を選んで可能なら戦闘に出る。そのための前準備として、これからランダムに組んで相性を確かめるんだ」

 教師の説明に、既にパートナーの決まっている竜や竜騎士の生徒は嫌な顔をする。
 抽選の結果、同級生の竜のクリスとイヴが組むことになった。
 カケルの方はよく知らない同級生の竜騎士の男子生徒が相方になる。
 苛立つ気持ちを抑えて、カケルは竜の姿に変身すると、同級生を背中に乗せてゆっくり空を旋回した。

「おお、すげえ滑らかな旋回だな!」

 同級生はカケルの背中ではしゃぐ。
 カケルは鬱陶しいなと思ったが口には出さない。

「なあ、お前って魔力レベルAの竜なんだろ。夏寮の奴に聞いたぜ」
『……』
「そりゃアラクサラは上等だけどよ。もしアラクサラに振られたら、俺と組もうぜ。お前とならうまく飛べる気がするよ」

 ふざけるな、こっちが合わせてやってるんだ、という文句をカケルは飲み込んだ。
 横目で空を観察すると、同級生のクリスとイヴが楽しそうに斜め下の空を飛んでいる。その姿にカケルは苛々した。俺はイヴが良いんだと知ってしまった。けど、イヴは? 彼女は俺以外でも良いんだろうか。
 もし彼女が別の竜を選んだら、俺はちゃんと笑顔で祝福できるのか。

 空を飛んでいるというのに爽快な気持ちになれず、カケルは久しぶりにテンションが下がった状態で授業を終えた。教師の終了を告げる声と同時に、とぼとぼと同級生たちを離れて歩き出す。お昼寝しよう……こんな時はお昼寝に限る。

「カケル!」
「ふえっ」

 離脱しようとした彼の襟首を、誰かがガシッと掴む。
 振り返るとそれは、怒った顔をしたイヴだった。

「ちょっと来なさい!」
「俺は用事が」
「ある訳ないでしょ用事なんて。さあ言ってみなさいよ、何の用事?」
「す、すいません」

 咄嗟に逃れようと嘘をいくつか思い浮かべたが、こちらを睨みつける蒼天の瞳にカケルは降参した。
 そのままズルズル引きずられながら聞く。

「どこへ行くの?」
「うちの家。お父さんに挨拶して」
「え? えええええええ?!」

 心の準備ができていない!
 契約の話もするのが怖いのに、彼女のお父さんに挨拶?!
 ありえない!

「いいい、イヴ! それはちょっと無理というか何というか」
「黙らっしゃい。あんたのペースに付き合ってたらいつまで経っても話が進まないわ! さっさと白黒つけるわよ!」
「何ですと?!」

 イヴは本気だ。本気と書いてマジというくらい目が据わっている。
 あまりの暴挙に為すすべなく、カケルは引きずられていった。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ