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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.12 その手を離さないで

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01 ぴよ?



 お昼寝に行きます。探さないで下さいぴよ。

 ……ぴよ?



「ぴよってなんなの?! 逃げ回るのもいい加減にしなさいよ!」

 イヴは置き手紙をちぎってちぎって、ちぎりまくった後に呪術の炎で燃やし尽くした。白い灰が雪のように3階の窓から舞った。校舎の本館3階の窓からは広いグラウンドが一望できる。校舎の前には整えられた植生が夏の花を咲かせていて、二頭の竜が絡み合うオブジェが設置されている。絡み合う白と黒の竜は、この国の建国の伝説にある竜王らしい。

 熱気を含んだ風が憤然とするイヴの長いストロベリーブロンドの髪を揺らす。

 整った顔立ちに凛々しい眉、戦闘職である竜騎士を目指している彼女は、一般の女子よりすらりと引き締まった手足をしている。軍服に近いデザインの紺色の制服も勇ましい彼女にはよく似合っている。怒っている彼女には迫力があり、同じ空戦科の竜や竜騎士といえど、簡単に声を掛けられる雰囲気ではない。
 窓の前に立つ彼女の後姿を眺めてクラスメート達は声を掛けるかどうか迷っていた。
 そこへ、別のクラス、同じ学年の生産科に所属する女子が通りかかる。

「どうしたの?」
「ああ、リリーナさん、良いところに!」

 緑の髪をショートボブにした大人しい雰囲気の女子生徒が教室を覗き込んで首を傾げる。
 その女子生徒、リリーナの姿を見つけた、イヴと同級生の竜のクリスは顔を輝かせた。

「何とかしてくださいよ。カケルの奴、授業をさぼって逃げ回ってるせいで、アラクサラさんピリピリしちゃって」
「それは……」

 話を聞いたリリーナは苦笑する。
 友人のイヴ・アラクサラと、そのパートナーの竜であるカケルの素行は、リリーナも良く知るところだった。仕方ないな、と呟いて彼女は空戦科の教室に足を踏み入れる。
 窓際の友人に声を掛けた。

「イヴ」
「リリーナ! 聞いてよ! あいつ、あの馬鹿竜、また私を避けてるのよ! 本当にあの根性なしはもう……」
「落ち着いて」

 愚痴るイヴをどうどうと宥める。
 高天原インバウンドから戻ってきてからというもの、カケルはまたイヴを避けるようになってしまった。どうやら契約の話をしたくないらしい。イヴが憤るのも無理はなかった。
 最近イヴとカケルは仲良くなっていたというのに、逆戻り。
 リリーナは友人の愚痴を聞きながら、溜息をはいた。






 話題に上がっていた馬鹿竜こと、カケルはどこにいたかというと。
 彼は学校から少し離れた公園でお昼寝中だった。
 竜や獣人と人間が共存する国エファランらしく、公園には悠々と寝そべっている竜の姿も見受けられたが、カケルは今回は人間の姿でベンチに寝そべっている。
 カケルは鮮やかな空色の鱗を持つ風竜だ。
 風竜自体も希少な種族なのだが、その中でも輪を掛けて希少な、魔力レベルの高い竜であるカケルの竜の姿は、眩いばかりの魔力を感じさせるコバルトブルーである。街中で竜の姿をさらすと目立って仕方ないのだ。
 人間の姿は地味な紺色の髪と榛色の瞳でそこまで目立たない。

 頭の後ろで手を組んで枕代わりにして、ベンチで日光を浴びながら目を閉じる。
 平日の日中なので公園には人気が少なく、静かだった。

 目を閉じて考えるのはイヴのこと。
 先日の戦闘でカケルは彼女を守り切れず、肩に怪我を負わせてしまった。
 自分は竜としてそこそこ強い方だと思っていたカケルだが、戦闘経験も少なく、まだまだ未熟なのだと思い知らされた。この先彼女を傷つけずに守り切れるか、自信がない。

 自信がないのに、前に進まなければいけない。

 それは過去に天才だともてはやされたこともあるカケルにとって、とても怖いことだった。
 得意分野で勝負すれば負けない自信はあるのに、彼女と一緒に生きるなら、苦手な分野でも勝てるようにならなければならないのだ。恥をかきたくない。みっともない姿を見せたくない。けど、今更だろう。
 今更見栄を張ってどうなる、カケル・サーフェス。
 お前はもう七司書家から出たんだ。ただの竜なんだよ。何をうぬぼれてる。彼女にも言われただろう、守ってもらわなくても良いって。だけど……現実にもし俺のせいで彼女が傷ついたら。

「カ・ケ・ルさーん」
「ふにゃ?」

 物思いに耽っていたカケルは、自分を呼ぶ少女の声に、現実に戻ってきた。
 目を開けると淡いクリーム色の髪をした少女が覗き込んできている。つぶらな瞳は蜂蜜の色だ。カケルは甘そうな髪と瞳だなと思った。まるでお菓子のように甘い容貌をした少女を見上げる。

「誰?」
「一度しか会ってませんでしたね。私はミレーヌ・マクセランと言います!」

 マクセラン。
 この国で竜騎士を多く輩出する名家で「空のマクセラン」と呼ばれる有名な苗字だ。先日お世話になった竜騎士のアロール・マクセランを思い出す。この娘は彼の妹らしい。

「どうしたの? 学校は授業中の時間だけど」
「それはカケルさんだって同じでしょう。私、カケルさんとお話したくて、抜け出してきたんです」
「俺に話?」

 昼寝の邪魔をされたカケルは、もうこの場所での睡眠は諦めて、上体を起こして少女を向き合った。
 ミレーヌは甘い微笑みを浮かべて言う。

「はい。竜と竜騎士の契約について。お話をしましょう、カケルさん」



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