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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.11 君が選んだ俺の「ほんとう」を見て欲しい

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11 本当のことは言えない

 イヴが放った呪術の矢は、敵の竜の翼に次々と命中した。
 暴風と負傷で飛行が難しくなった敵の竜の間を、蒼い竜は悠々とすり抜ける。

『下のオルト達の援護に向かう!』
「ええ。さっさと脱出しましょう」

 カケルは風の魔力を操って、オルタナの場所を把握すると降下する。
 そして、樹海の上を飛ぶターコイズブルーの鱗の竜を発見した。

『邪魔だよ!』

 蒼い竜は上からのしかかるように、ターコイズブルーの竜を圧迫すると、そのまま横へ蹴飛ばした。

『何だと?!』

 相手の竜も風竜なのでカケルの接近には気付いていた。
 しかし、風竜の中でも格別に早いカケルの速度には対応できなかったようだ。蒼い竜の降下速度は素早く、降下から攻撃まであっという間だった。体勢を崩したターコイズブルーの竜は山肌に叩きつけられる。
 蒼い竜は敵の撃墜を確認すると、樹海すれすれに飛んで速度を落とす。
 下を獣の姿で走っていたオルタナが跳躍して、竜の背中に飛び乗った。
 彼は竜の背に降りると同時に人の姿に戻る。その腕にしっかりとリリーナを支えながら。

「遅せえよ、馬鹿」
『いやあ手間取っちゃって、ごめん、オルト』

 全員を乗せた蒼い竜はするすると上昇し、空を飛び始めた。
 しかし、撃墜された敵の竜たちも離れて後を追ってくる。
 先ほど同調技で作った暴風域は空域限定かつ一時的なものだ。今はもう空は元の穏やかさを取り戻している。翼を負傷したはずの敵の竜だが、どうやら呪術の援護でまだ空を飛べるらしい。
 振り返ったイヴが苛立ちを込めて空色の瞳で敵の竜を睨む。

「鬱陶しいわね!」
『……大丈夫だよ。俺達は充分時間を稼いだ。チェックメイトだ』

 蒼い竜は旋回して来た方向へ戻り始める。
 その進行方向に美しい深紅の竜の姿を認めてイヴは息を呑んだ。

「アロールさん……なの?」

 深紅の竜の横には、緑の鱗の竜が並んでいる。
 緑の竜は首筋にフレイの国旗をつけていた。フレイの国軍の竜らしい。
 一方のアロールも肉眼で蒼い竜の姿を確認していた。

「やあ、うちの子供達は無事みたいだな」
『でも追手が付いてるわよ』
「ふむ。所属不明の竜だな。解放軍の仲間かもしれない。攻撃してもいいですよね?」

 台詞の後半の確認は、隣を飛ぶ緑の竜に乗る、フレイの竜騎士に向かってだった。
 フレイの竜騎士は「いや、我々が」と都合が悪そうにもごもご言っているが、アロールは無視する。許可は既にフレイの王太子からもらっているのだ。フレイの国軍さえ攻撃しなければいい。

「レディー、我等が空のマクセランと呼ばれる理由を見せつけてやろう。夜明けを知らぬ者達に、暁の炎を!」

 同調のキーとなる言葉を伝えると、紅の竜は竜騎士の戦意を感じ取って吠えた。
 鱗と同じ色の炎が竜の周囲に燃え盛り、炎の雨となって放射線を描きながら次々と放たれる。一筋、一筋があまりにも美しい火花となって、敵に襲い掛かる。
 その攻撃範囲はフレイの竜騎士が想像しているよりずっと、広範囲だった。
 アロールの優れた呪術の探査能力により、狙いすまされた炎の攻撃は、外れることなく敵の竜に着弾し、ついでに解放軍のアジトにまで届く。紅の竜は空の上で星のように輝いた。

「なんという攻撃だ……これがエファランの竜……」

 フレイの竜騎士は戦慄する。
 竜の軍事運用についてエファランの右に出る国はないのだ。モンスターが跋扈する葦原国アウトバウンドで、虫から人類の生存圏を奪還できる唯一の国、それがエファラン。
 蒼い竜の合流を確認すると、アロールは茫然とするフレイの竜騎士に向かって頭を下げる。

「ありがとうございます。貴国の援助のおかげで我が国の姫を無事取り戻すことができました」
「い、いえ」

 ほとんど何もしていないフレイの竜騎士は、引きつった笑みを浮かべて返礼する。
 嫌味か、それは。






 フレイに引き返したカケル達は、リリーナを無事取り戻せたことを、真っ先に王太子ユリアンに報告することになった。王太子側が指定してきた離宮の庭に着陸したカケルとレディーネは人間の姿に戻る。
 カケルは人の姿に戻ると疲れた顔で嘆いた。

「俺もう限界……眠いよー」
「何言ってるのよ、馬鹿」

 無茶な動きをした上に同調技を使ったカケルの疲労は想像できるが、イヴはあえて彼の頭を叩いた。
 甘やかすとためにならない。

「……解放運動の獣人や竜たちを、何とかエファランに受け入れる方法はないかしら」

 そんなやり取りの横でリリーナが憂い顔で呟く。
 彼女は誰かの返事を期待した訳ではない。だが、返答は返ってきた。

「簡単だよ。リリーナは彼等によって被害を受けたと主張して、犯罪人の引き渡し条約に基づいて彼等の身柄を請求すればいい」

 よっこらしょっと背筋を伸ばしながら、カケルが何でもないように言う。
 思いもかけない助言に、リリーナは目を丸くする。

「私にできるかしら」
「大丈夫大丈夫、交渉なんて、気合と根性とはったりだよ。それよりも……イヴ、肩の傷は」

 前半の台詞はリリーナに、後半はイヴに向けた確認だ。
 カケルに聞かれてイヴは自分が負傷していたことを思い出した。
 戦いの最中はアドレナリンのせいか、興奮していて気にならなかったのだ。
 言われるとじくじくと傷跡が痛む。

「平気よ……」
「アラクサラ君、無理をしないように。レディーネ、傷の具合を確認してやってくれ」

 アロールは同じ女性であるレディーネに言って、イヴを別室に連れて行かせた。
 リリーナは王太子と話すために出ていき、護衛としてエイドも同行する。
 女性陣がいなくなって、控え室にはアロール、カケル、オルタナの3人が残された。部屋が静かになると同時に、カケルははあっと溜め息をついて、椅子に腰を下ろし、両手を額の前で組んでうつむいた。
 イヴやリリーナの前では見せない、疲れた浮かない表情だ。

「……出発の前に、この小旅行で将来について考えてみてはどうかと、私は言った。カケル君、結論は出たかい?」

 アロールは沈んだ様子のカケルに声を掛ける。

「結論なんか、出る訳がない……」
「……」
「怖いんです。今回は重傷じゃないかもしれないけど、次はどうか分からない。俺と一緒にいると彼女が危険な目にあう。取り返しのつかないことが起こったら、俺はきっと凄く後悔します」

 だから、契約できないんだ。
 カケルは組んだ手の下で歯を食いしばった。

「それはアラクサラ君にとっても同じじゃないかな。君が傷ついたらアラクサラ君は凄く悲しむよ。そろそろ話したらどうだい? 君が置かれている状況と、君の名前の意味、七冊目の呪術書アーカイヴについて……」

 あくまでも押し付ける風ではなく、穏やかに淡々とアロールは言う。
 決断の刻限は迫っている。
 話すのか、話さずに彼女の前から去るか。
 迷っている時点で答は決まっているのかもしれないけれど。


 かつてカケルは七司書家セブン・ライブラリアンで、一族の歴史に残る天才だと言われていた。幼少時から呪術の術式を理解するだけに留まらず、既存の術式の改良や、新しい術式の開発、研究に関わっていた。優れた呪術師を輩出することで有名な七司書家でも、カケルの若さでその知識と技術を持つことは異例であった。
 稀代の天才である息子に父親は傲慢な野望を抱いた。一族が管理する呪術書アーカイヴについて、密かにカケルにある実験を行ったのだ。

 それが悲劇の始まりだと気付かずに。







 Act.11 君が選んだ俺の「ほんとう」を見て欲しい  完

 Act.12 その手を離さないで  へ続く


 
そろそろ本題に入っていきます。
本題……カケルとイヴの契約のお話です。作者も忘れそうになってるけど!

風雲急を告げる風竜をこれからもどうぞお楽しみに。
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