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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.11 君が選んだ俺の「ほんとう」を見て欲しい

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10 君の言葉だけが俺に力をくれる

 針に突き刺されたような鋭い痛みが身体を通り抜ける。
 これは誰の痛みか。
 カケルは、竜族特有の感覚で背に乗る人間の感情や考えを把握している。この痛みは自分のものではない。背に乗っている少女のものだ。とても大切な人が感じた痛み。
 茫然とする彼女の肩から血が飛び散り、灰色の雲に溶けていく。
 その様子を蒼い竜は視覚ではないもっと別の感覚で把握する。

 痛みの後に襲ってきたのは怒り。

 彼自身も把握していない魂の奥底の方から、憤りの声が響き渡る。竜の本能が人の理性を食いつぶす。黒い感情がカケルの中を駆け抜けた。

 許せない。よくも俺の……

 竜にとって絆を結んでいる竜騎士は特別だ。
 契約をしていなくても、同調できるほど近しい相手、背中に乗せて飛んでも良い、命令を聞いてやっても良いと思う相手は、そうそう出会える訳ではない。
 そんな特別の相手が傷つくことを、竜は何よりも嫌がる。
 己が傷つくことよりも、竜騎士が傷つくことを、彼等は厭う。

 蒼い竜は怒りの咆哮を上げる。

 溢れ出た魔力が大気を震わせ、続けて投擲された呪術の黒い矢が霧散する。
 竜の輪郭に強い風の魔力が纏わりつく。高密度の魔力は青白い光を現出させる。蒼い竜はコバルトブルーの光を乱反射させ、翼を打ち鳴らした。
 暴風が生まれて雲を引き千切る。激しい風が一瞬にして雲を押しのけ、数キロメートル四方に突風が拡散する。

 敵の竜二体が驚いたように動きを止める。
 大気を揺り動かすほど明確な怒りの波動が敵にも伝わる。

 怒りに我を忘れた蒼い竜は、猛禽のように敵の竜に向かって急降下する。
 火竜と違って炎を吐くことも、水竜と違って水の弾丸を飛ばすことも、風竜にはできない。彼は本能の赴くままに尾をしならせ鞭のように相手に叩きつけた。爪で切り裂き、牙でもって噛みつこうとする。
 尾の攻撃を受けてよろめいた敵の竜だが、竜騎士が呪術で防壁を張ったため、続く爪や牙は届かなかった。挟みこむように浮上したもう一体の敵が、呪術の矢を浴びせる。蒼い竜はその気配を察知して素早く上昇して回避した。
 非力な風竜の攻撃はさして敵にダメージを与えられなかったようだ。
 上昇しながらカケルは風竜である我が身を悔しく思った。
 蒼い竜の反撃に驚いていた敵は、今はもう冷静になってしまっている。挟みこむように追ってくる敵にカケルは為すすべもない。しかも彼は、感情に任せて攻撃したせいで体力を消耗していた。

 このままじゃ追いつかれる。
 俺はともかく、イヴが……

 自分の死よりも恐ろしいもの。それは、背に乗せている少女を失うことだ。
 彼は最後に何ができるか、どうすれば彼女を逃がすことができるか、シミュレーションを始める。しかし、首筋を叩かれて、我に返った。

「カケル! この馬鹿!」

 彼女は肩の傷を押さえながらカケルに呼び掛ける。

「何やってるのよっ、貴方らしくもない。へっぽこお昼寝竜の癖に、気負いすぎなのよ! 私は貴方に守ってもらわなくてもいいの! 私は、自分のことは自分でどうにかするわ!」
『イヴ……』
「七司書家だか何だか知らないけど、今の貴方はただの竜! エファランの風竜よ! 違う?!」
『違わない』

 イヴの叱咤は、カケルに冷静さを取り戻させた。
 本当に君には敵わないな。俺が越えられなかった壁をあっさり越えてくるんだから。
 そう、家のしがらみも、苦しかった過去も、今は関係ない。エファランでは俺は只の子供で、一生懸命頑張らなくてもいいんだと知った。色々な人が俺自身の、天才でもなんでもない本当の姿を見てくれた。
 そして君は、俺を自由にしてくれる、唯一の女の子だ。

『イヴ、俺を信じて。俺に命令して。君の言葉だけが、この窮地を乗り越える力をくれる』

 竜騎士の言葉が、竜の力を解放するキーとなる。
 少女はストロベリーブロンドの髪を靡かせながら竜に向かって叫んだ。

「カケル! 空は私達の、風竜である貴方の舞台よ! あんな奴らに好き勝手させないで!」
『了解』

 心臓に火がつく。魂が燃え上がる。
 大空は風竜であるカケルの領域だ。逃げ回るだけなんて、性に合わない。そうだ、味方の動きを支援するだけじゃなく、敵の動きを阻害することもできるかもしれない。かつてロンドと同調した時に起こしたあの技なら。

 蒼い竜の身体から風の魔力が沸き起こる。
 風に乗って魔力の残滓が大気に溶け込み、周囲の空域を変質させる。
 空気が渦を巻いて流れ始め、風の流れが変わる。
 いつの間にか吹き始めた暴風が敵の呪術の攻撃を逸らし、敵の竜の飛行を妨げ始めた。


 攻撃用の特殊同調技、乱気流風域タービュランス


 次第に激しくなる風に、敵の竜は飛ぶのもやっとの状態になる。
 今や暴風に翻弄される浮き船のよう。
 蒼い竜は敵の上空で悠々と旋回し、イヴはその背中で膝立ちになり、呪術の弓矢を引き絞る。

紅光弾ルビーショット!!」

 鮮やかな紅の光を放ちながら、呪術の攻撃は流星のように宙を切り裂き、敵の竜の翼に命中した。


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