挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.11 君が選んだ俺の「ほんとう」を見て欲しい

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

112/160

09 必要としてほしい

 伸ばしかけた腕を途中で静止して、リリーナは逡巡する。
 とても身勝手な期待を抱いている。
 幼い頃に出会った同年代の金髪の少年は、彼女にとってヒーローだった。彼は自由で、彼女に光を与えてくれる気がした。成長して逞しくなった少年の背を見つめる。あの頃とは見違える程に広くなった背中。
 この背中にすがってもいいのだろうか。

「……なんで手を伸ばさない」
「オルタナ」

 獣人の鋭敏な感覚でリリーナの動作を察知していたらしい青年は、振り返らず、敵の竜を睨みながら言った。

「あなたが無理することはないの。私が大人しく捕まれば……」

 竜に1人で向かっていくのは無謀だ。
 彼等の目的はリリーナだけだ。大人しく投降すればオルタナに手出しはしないだろう。
 だから無茶をしないで。
 そう言おうとすると、彼は弾かれたように振り返った。

「兄貴より頼りない俺は、信用できないか?」
「そんな訳じゃ」
「俺は、お前にとって必要ない存在か」

 紅玉の瞳は切なく揺れている。
 答えに迷ったリリーナは気付く。彼女は遠慮をして、少年を遠ざけていた。しかし、それは逆に少年のプライドを傷つけていたのだ。
 ここで遠慮をすれば、決定的に彼との間に垣根ができる。
 リリーナもオルタナも、お互いそんなことを望んではいない。

「……逃げ出したいの。私はあの頃と変わっていない。私は弱くて情けなくて」
「助けてくれって言えよ」

 震える手を伸ばす。
 その手が届く寸前でオルタナは一歩踏み込み、彼女の腕を掴んだ。
 青年の瞳に狂おしいほどの熱が宿る。

「言え。俺が助けてやる」

 一緒に逃げ出そう。
 言葉にならない声を聞いたリリーナは、小さな声で「助けて」とつぶやく。
 獣人の青年は頷いて彼女の身体を引き寄せて抱きしめた。
 熱が身体中を駆け巡って冷えた心を暖めてくれる。

『何をやっている』

 無視されていた敵の竜が唸り声を上げた。
 オルタナはリリーナから身を離すと竜に向き直った。
 彼は不敵に唇をつりあげて笑う。鋭く尖った犬歯がのぞいた。

「こいつは俺のだから、てめえらにはくれてやらねえ」
『何?!』

 宣言したオルタナは竜に向かって踏み込むのと同時に、その姿を獅子に変える。
 金色の鬣の獅子が逞しい足で大地を蹴って跳躍した。
 そのまま竜の首元まで飛び上がり、無防備な顎の下を蹴り上げる。

『ぐぉっ!』

 急所を蹴られた竜はのけぞって数歩後ずさる。
 竜の首を基点に方向転換した獅子はリリーナの前まで戻ってくると、前足と口を使って彼女をひっぱって、器用に背中の上に乗せ上げた。

『しっかり掴まってろ!』

 少女を背に乗せた獅子は森の中へ駆け込む。
 リリーナは振り落とされないように必死に獅子の鬣を掴んだ。
 竜が頭をふって我に返ったときには、獅子の姿は樹海に消えていた。

『くそ……舐めるなよ小僧』

 ターコイズブルーの竜は翼を動かして風を起こす。
 風竜は風を操って獣人の青年の居所を探す。
 彼はゆるやかに上昇して、樹海の上を飛び始めた。
 敵が追ってきていることはオルタナも当然気付いている。敵の目的はリリーナなので、殺傷力の高い攻撃はしてこないだろう。地面を這うように飛ぶ竜は低空ゆえに速度が出せない。獅子の姿のオルタナの逃げる速度とどっこいどっこいだ。
 一見、オルタナに有利な状況に見えるが、こちらもリリーナを乗せているため、竜に攻撃できない。
 両者ともに手詰まりな追いかけっこが始まった。

『カケルの阿呆が何やってんだ。さっさと上の敵を片付けて降りてきやがれ』

 この膠着状態は、どちらかの味方が追いついてくるまで続くだろう。
 オルタナは獣人の感覚で、上空でカケルが戦っていることを察知していた。二体の竜を相手に苦戦していると知りつつも、この状況を打破できるのは蒼い竜だけだ。
 リリーナを乗せて樹海を走りながら、彼は状況が変わる瞬間を待った。






 追いかけてくる二体の竜、彼等に騎乗している竜騎士から次々と呪術の攻撃が雨あられと飛んでくる。
 蒼い竜は速度を上げ下げしながら、時には雲を盾にして攻撃を避け続ける。避けるだけで精一杯で、他に何かをする余裕はない。無言の竜の背で、激しく揺られながらイヴは竜の鬣を強く握りしめた。

 このままではいけない。

 何もしないままでは追い詰められて撃墜されてしまう。
 しかし全速力で逃げ回る竜の背中から攻撃するのは意外に難しいものだ。
 先ほどから呪術を起動して、後ろに迫ってくる竜達に照準を合わせようとしているのだが、的がぶれて照準が定まらない。こちらから攻撃するには速度を落とすか止まる必要がある。だが止まればハチの巣にされるだろう。
 ロンドのように光盾イージスが使えれば、攻撃を完全に遮断して猶予を作ることができる。しかし彼女は攻撃系の呪術師だ。防御の術は苦手である。そこで、イヴは思い出した。
 カケルは補助、防御を得意とするタイプの竜なのだ。一瞬でも隙があれば自力で風の防御をはることも可能だ。

「カケル、合図をしたら止まって。守護シールドをはるわ」

 竜から返答はない。しかし、竜の能力でイヴの考えは読み取っているはずだ。
 彼女は祈るような気持ちでタイミングを待った。
 周辺を漂う大きな雲に飛び込む、その瞬間を待ちわびる。

「3…2…1……今!」

 蒼い竜は急ブレーキをかけて静止する。
 イヴは呪文コマンドを唱えた。

守護シールド!」

 薄い光の盾が竜を囲む。
 この隙にカケルに風の防御を張ってもらって、私は攻撃の術式の準備を……

『イヴ!!』

 慌てたようなカケルの声。
 何かと訝しく思う時間もなく、イヴの張った守護シールドをすり抜けて、針のような黒い矢が、竜の背で身を起こした彼女の肩を貫く。
 黒い矢はすぐに消え、代わりに鮮血が宙を舞った。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ