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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.11 君が選んだ俺の「ほんとう」を見て欲しい

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08 君が大切だから

 蒼い竜は全速力で空を飛ぶ。
 樹海の上を、雲を切り裂きながら竜は上昇し、中央山脈の峰を越える。
 魔力の高い風竜であるカケルだが、相手も風竜だ。風に流されるストロベリーブロンドを紐でくくりながら、イヴは後ろを振り返る。ターコイズブルーの竜が追いかけてきている。

「カケル! 根性見せなさいよ! それでもあんたは風竜なの?!」
『ええ~、俺はお昼寝竜です。でも頑張る』

 とぼけた返事が返ってくる。
 上に乗っているイヴとリリーナ、オルタナの重量もあるので、なかなか速度が上がらないのかもしれない。それでも蒼い竜は翼を二度三度上下に動かすと速度を上げる。
 敵の風竜の姿が遠くなる。

「このまま結界を抜けてエファランまで帰ってしまえば……」
『いや……参ったな、このタイミングでお出ましか』

 このまま振り切ってエファランへ帰ろうと言うイヴに、蒼い竜は念話で、そううまくいかないと告げる。
 何かが起こっている。
 イヴは嫌な予感に眉をひそめる。

『オルト、リリーナを連れて地上に降りてくれ。一旦速度を落とすから』
「どうしたの、カケル」
『正面からお客様が来てるんだよ。イヴも一緒に降りてくれ』
「え?」

 リリーナ達が降りるのはともかく、パートナーの竜騎士であるイヴに降りろとは。イヴは一瞬愕然として、次の瞬間に猛烈な怒りに襲われた。カケルはまた、私を遠ざけようとしている。
 蒼い竜は速度を落として樹海すれすれを飛ぶ。

『イヴ、君を危険な目に合せたくないんだ』
「私はあなたの竜騎士だわ! 危険なんか覚悟の上よ!」
『それでも、駄目なんだ。何かあったら俺の方が耐えられないんだよ』

 蒼い竜の真剣な声に、イヴは唇を噛んだ。
 もどかしい。
 こんなに近くにいるのに、心は遠くある気がする。つい先日の寮対抗戦で心を重ね合わせ、同調技を使ったのが遠い昔のことのようだ。カケルはまだ何かをイヴに隠している。
 イヴの気持ちは竜の感覚で理解しているだろうに、蒼い竜は彼女を無視したまま叫んだ。

『降りて!』

 竜は木々に衝突するすれすれまで高度を落とし、速度を下げる。
 オルタナは無言のまま、リリーナを抱えて樹海に身を投げた。
 イヴは……黙って蒼い竜の首筋を抱きしめる。

『イヴ……』
「逃げないで。前も、そう言ったでしょ」
『……』

 蒼い竜は二人が降りて身軽になった身体で急速上昇する。
 速度を落とした間に追いついて来たターコイズブルーの竜は、状況を把握しようと蒼い竜の周囲を旋回していた。
 そして宙を裂いて迫る呪術の攻撃。

「!」

 閃光が蒼い竜の近くの空中を横切る。
 続けて放たれた攻撃を蒼い竜はひらひらと舞うように躱した。身体の近くを通り過ぎる高熱の白い光に、イヴの動悸が激しくなる。明確な殺意。冷や汗が背筋を伝った。

『姿勢を低くしてて』

 ささやくようなカケルの声。
 連続して放たれる閃光を躱しながら、蒼い竜は雲の上まで上昇する。
 薄い空気にあえぎながら、竜の背でイヴは敵の姿を確認する。
 新手の黒い鱗の竜が追いかけて上昇してきている。先ほどの解放運動の竜とは別口のようだ。黒い竜の背には黒い衣服をまとった人影が見える。竜騎士を乗せた竜だ。

『俺を追いかけてきたんだよ。七司書家の息の掛かった連中だ。一体だけじゃない』

 黒い鱗の竜の斜め後ろに、鮮やかな赤い鱗の竜が現れる。竜の背には竜騎士らしき人間が乗っている。
 二対一。
 無言で追いかけてくる所属不明の竜二体からは、絡みつくような悪意が感じられた。
 下に降りたリリーナ達は大丈夫だろうか。イヴはチームメイトの心配をしつつも、今一番危険な場所なのは、執拗に狙われる蒼い竜の背だと悟りつつあった。






 オルタナはリリーナを抱えると、樹海に飛び降りる。
 獣人の動体視力を活かし、手近な太い木の幹に着地し、身軽な動作でするすると地上に降りた。突風を吹かせて蒼い竜が去る。付近の木々が風に揺れて葉を散らせた。

「……カケルの追手かしら」
「他人のことより、お前自身の身の安全を考えろよ」

 腕の中から地上に降ろされたリリーナは空を見上げて憂い顔だ。
 しかしオルタナはそっけない。

「心配じゃないの?」
「あいつなら適当にうまくやるさ。殺したって死にやしねえよ」

 ぶっきらぼうに告げるオルタナ。
 口ではそう言いつつも心配していない訳ではないことは、彼の眉間の皺を数えれば分かる。リリーナはそれ以上、心配ごとを口にせずに周囲を見回した。

「ここは高天原インバウンドのどの辺かしら。中央山脈を越えたのは、上から見えたけど。東ユーダ帝国に入ったあたりかしら」

 エファランと違い、未開の大地と繋がっていない、結界に囲まれた高天原インバウンドは、そこそこ歩けばすぐに人里に出る。遭難の心配はしていない。
 それよりも危険なのは……。
 木々を揺らして不自然な突風が吹き渡る。
 オルタナは舌打ちをしながら、リリーナの前に出る。
 身構える彼等の前に上空からターコイズブルーの鱗の竜が舞い降りる。
 カケル達が二手に分かれたことを、竜族特有の感覚で敏感に察して、カケルを追わずにこちらに降りてきたらしい。

『小僧。姫を寄越せ』

 巨大な竜の影がオルタナとリリーナの上に落ちた。
 竜の羽ばたきから生まれた風がリリーナの頬を撫でる。それはぞっとするほど冷たい風で。リリーナは無意識に頼るものを求めてオルタナの腕に手を伸ばし、そのまま動作を止めた。

 この腕にすがっても、いいのだろうか。

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