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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.11 君が選んだ俺の「ほんとう」を見て欲しい

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07 演技

 洋館に入ったカケル達を迎えたのは、険しい面持ちをした十数人の獣人達だった。
 玄関から入ってすぐの場所は広いホールになっていて、目の前には二階への階段がある。扉の脇に数人、階段の上に数人、人間の姿の獣人や竜、獣の姿をして威嚇している者もいる。
 階段の上に立っていたのは、フレイ国内を列車で移動するときに見かけた、赤茶色の髪の獣人の青年だった。

「……なんだ、君達は。エファランの軍人じゃないのか」

 カケル達の姿を見た獣人の青年は不可解といった表情を浮かべる。
 確かに本来はアロール達、正式な大人の軍人が動くはずだったのだ。
 イヴは進み出て声を張り上げた。

「私達はリリーナの学友よ。将来はエファランの空軍、陸軍に入ることが決まっているわ」
「姫の護衛はどうした。まさかお前達のような子供が王族の護衛をしている訳がない」
「いや~、リリーナ様が心配だったんで、おじさん達を置いてきちゃった」

 ふわふわとしたカケルの声が場違いな程明るく響く。
 彼はいつも通りの間抜けな表情で笑った。

「でも安心したよ~、皆も獣人や竜なんだね。リリーナ様を怪我させたり、してないよね?」

 無邪気そのものといった様子で朗らかに聞くカケルに、敵の獣人の青年は気が削がれたようだ。

「ああ、別に危害を加えるつもりはない。そうか、お前達は護衛を振り切って、姫を助けにきたのだな」
「うん、軍人の先輩達は国がどうとか言って動けないみたいだからさ。後でむちゃくちゃ怒られるだろうけど、俺達はリリーナのことが気になって」

 確かにその通りなのだが、イヴは隣で聞いていて微妙な気分になった。
 カケルはわざと幼く見えるように演じているのだと分かっていても、自分達のふるまいが子供じみていると錯覚してなんだか恥ずかしい気持ちになる。

「なるほど……姫は二階の奥にいる。一緒に茶でも飲むか」
「シジル!?」
「相手は子供だ。姫の学友のようだし、うまく話をすれば……」

 シジルと呼ばれた獣人の青年は意味深に仲間に目くばせをする。
 こちらが子供と侮って、リリーナ諸共、人質にするか、懐柔するか、考えているのだろう。しかし、エファラン王立中央学校の空戦科、陸戦科で学ぶイヴやオルタナは只の子供ではない。実戦も経験済みの軍人の卵なのだ。奴隷のように扱われていても、戦いの経験が少なく軍事教育を受けたことのない高天原インバウンドの彼等は、子供達を年齢だけで判断してしまっていた。
 カケル達はシジルの先導で二階の一室に通される。
 奥まった部屋には離れ離れになっていたリリーナの姿があった。

「リリーナ!」
「イヴ、それにカケル、オルタナ……?!」

 暗い表情で俯いていた彼女は、カケル達を見て仰天したようだ。
 イヴは大きな声でリリーナの名前を呼ぶと、大げさに腕を広げて走り込み、リリーナを抱きしめた。シジルや他の獣人達はイヴの動きを一瞬止めようとしたが、邪気のない少女の行動を見て踏みとどまった。
 リリーナの背に腕を回して抱きしめながら、イヴは横目で部屋の窓を確認する。小さな窓だ。脱出するには少し小さすぎる。彼女は密かにナビゲータを呼んで呪術の準備を開始する。ここには呪術師がいないので、イヴの術式が感づかれることはない。

「来てくれてありがとう、皆……」

 リリーナが強張った頬をゆるめ、イヴを抱き返した。
 感動の再会シーンを冷めた目で見守っていたシジルが、カケル達に席につくように言う。
 部屋の中にはシジル以外にも敵の獣人が3人いる。階下や隣の部屋にも数人待機しているようだ。イヴは探査サーチの呪術でそれを察していた。言葉に出して確認はしていないが、カケルは風の魔力を使って、オルタナは獣人の鋭い感覚で、敵の配置や数を確認しているはずだ。
 敵が油断して数が少なくなる、ベストのタイミングを測って脱出しないと。
 楕円形のテーブルにつくように言われて、イヴは強引にリリーナの隣に座る。いかにも心配そうな表情を作って、リリーナの腕をぎゅっと握った。オルタナとカケルはシジルに近い位置に座る。
 不機嫌そうな顔をした獣人の少年がお茶を持ってきて、すぐに去っていった。

「君達は高天原インバウンドにおける我々の扱いについて、どこまで知っているんだ?」

 一同に茶が入ったカップが行き渡ったことを確認して、シジルが切り出す。
 その問にカケルが白々しい困った顔を作って返事をした。

「俺達は初めて高天原インバウンドに来て……自分達と同じ竜や獣人が酷い扱いをされてるって、最近知ったんです」
「そうか。エファランは平和か」
「はい」
「それは偽りの平和だ。ここにいる俺達を見捨てて、犠牲にした上で成り立っている」

 シジルの言葉にリリーナの肩がびくりと跳ね上がる。
 彼女の様子を横目で見たカケルは、一瞬、笑みを消した。

「……犠牲のない平和なんてあるんでしょうかね」
「何?」
「何でもありません。いや~、喉乾いちゃったな~、お茶お代わりいただけますか」

 図々しくねだるカケルに、部屋にいた女性の獣人が「ではお茶を持ってきます」と退出しかける。ついで「俺も」と獣人の男が一緒に出て行った。カケル達の戦意がない様子に油断したのだろう。
 敵の数が半分に減った。チャンスだ。
 見計らったようにカケルが朗らかな声で合図を出した。

「美味しいお茶をありがとうございました。俺達はこれでお暇したいと思います。秘技、ちゃぶ台返し!」

 カケルはそう言うのと同時にテーブルをひっくり返した。
 台詞の最後の「ちゃぶ台」ってなんなのと思いつつ、イヴはリリーナの腕を引いて壁際に下がる。
 ついで、オルタナが滑らかな動作で隠しポケットから武器を抜いた。今回は隠密性重視で重い剣は持ち運べず、武器はナイフだけだ。しかし、接近戦に秀でた獣人の名家、陸のソレルに生まれ育ったオルタナにとっては、ナイフだって充分な武器になる。
 彼は一瞬で踏み込んでシジルに肉薄すると、ナイフを突き出す。
 敵も獣人、人間を越えた反射神経でナイフを避けられるが、オルタナは冷静にナイフの軌道を変えて、その切っ先をシジルの足に定めた。冷たく薄いナイフがシジルの足に突き刺さる。

「この野郎!」

 ようやく事態を悟ったもう一人の敵がオルタナに向かって身構えるが、遅い。
 体勢を崩したシジルを踏み越えたオルタナは、敵に向かって駆け込むと、がら空きの胴に拳を入れる。「うぐっ!」と呻いて敵が崩れ落ちた。大人と子供の差はあっても、正式な軍事訓練を受けているかどうかの差が如実に現れた結果だ。

紅炎爆破カーネリアン!!」

 イヴが呪文コマンドを口にすると、彼女の背後に鮮やかな赤い炎が燃え盛り、館の壁を溶かした。爆風が吹くが、それは敵に向かってだけだ。イヴの斜め前に立ったカケルの瞳が金色に輝く。風竜の力で爆風を操作し、味方に害のないようにしているのだ。
 壁が崩れて穴が空く。
 身を翻してカケルが一番先に穴から飛び降りる。それを追うようにイヴがリリーナの手をひいて飛び降りた。女子二人の無事を確保するため残っていたオルタナが一番最後に飛び降りる。

「くそっ、餓鬼ども!」

 歯噛みするシジル達の目に、上昇する蒼い竜の姿が映る。
 シジルはナイフの刺さった足を引きずって、穴の空いた壁に近寄った。

「逃がすなよ……!」

 彼はターコイズブルーの鱗の竜に向かって叫ぶ。
 見上げた空では、既にターコイズブルーの竜が蒼い竜を追って飛び立つところだった。


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