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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.01 君に出会った時から俺の(昼寝)人生設計が崩れ始めた

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10 対話

 キャンプ地を制圧していた部隊の指揮官であるソルダートの軍人は、異変に気付いていた。
 学生や教師を囲んでいた光の檻が揺らいで消え、彼方から不思議な歌が聞こえてくる。続けて、学生の検閲をしていたテントから銃声が響き、部下の兵士の何人かが倒れた気配がした。

 キャンプ地の中央で様子を見ていた指揮官は、エファランの国軍が来たのかと考える。しかし、それにしては早い。
 奇襲を警戒した指揮官は竜騎兵に命じて、意識を失っている学生達の前に竜を配置した。

「動くな!! 寝ている学生たちを踏み潰すぞ!」

 キャンプ地の隅々に届くように声を張り上げる。
 潜入してきているだろう、エファラン国軍の兵士に対する牽制のつもりだった。
 竜の前に並べた意識のある教師達をちらりと見る。彼等は状況に戸惑っているようだ。ということは、学校関係者にとっても想定外の状況らしい。

「テントの陰に、数人潜んでいるようです」

 副官が、探知の呪術を起動しながら告げる。
 指揮官は歌は無視して、目の前の状況の対処をすることにした。

「そこにいるのは分かっている! 両手を上に上げて出てこい! さもなくば……」

 竜が前脚を意識不明の学生の上に振り上げる。
 しかし、テントの陰に身を潜めている何者かは、沈黙して出て来る気配がない。
 ここに来てようやく、指揮官は何かがおかしいと思い始めていた。

 キャンプ地に響く少女の歌声に、低い地響きと、紙を擦り合わせたような不気味な振動音が混じり始める。

「いったい……」
「隊長、あれを!」

 部下が空を指した。
 指揮官は指差された方向の空を見上げて絶句する。

羽虫フライだと!?」

 キャンプ地の明かりを跳ね返して、虫の複眼と透明な羽が不気味に光る。彼方から飛来した羽虫フライの群れは、突然の事態に戸惑うソルダートの兵士の頭上に襲い掛かった。

 さらに、近くの地面がボコリと盛り上がり、体長数メートルに渡る巨大なミミズが、細かい牙の並ぶ大きな口を開いて姿を現した。
 大地虫ワームはエファランの学生や教師を無視して、次々とソルダートの竜騎兵や兵士に食らい付いていく。

 キャンプ地は大混乱に陥った。




 その頃、カケルとイヴは、キャンプ地を見晴らせる高台を目指して、崖を登っていた。
 遮るもののない月明かりに晒されて、イヴの長い髪が柔らかい金色の光を帯びる。演習中は女子も、ダニやヒルに噛まれないようにズボンを履いている。脚にフィットしたズボンは、カモシカのようにすらりとした脚線を強調していた。

 大人の身長ほどもある岩を、イヴは次々と乗り越えていく。
 その動作は野生の獣のように軽快で、美しかった。
 カケルはその様子に見とれながら後を追う。

 目的地まで後少しというところで、イヴが不意に話しかけてきた。

「……私、貴方に聞きたいことがあるのだけど」
「何?」

 問い返しながら、カケルは胸の鼓動が速くなるのを感じた。
 カケルには、兄と慕っているロンドにも話していない過去がある。

「ロンド先輩は知らないかもしれないけど…
 貴方が持つ魔眼は、自然発生した能力ではなくて、ハッキングに秀でた呪術師を作るために、人為的に遺伝子操作をした結果生まれたもの。
 魔眼を作ったのは、呪術師の大家、七司書家セブン・ライブラリアン。 七司書家の血が混じっていないと、魔眼は現れない」

 さすが優等生。良く知っていると感心する。
 別に隠している訳ではないのだが、問い詰められたら、どうしようかとは考えていた。

「このエファランに七司書家の血を引く家はないわ。七司書家があるのは、高天原インバウンドか……ソルダート」

 淡々と言ってから、イヴは足を止め、カケルと向き合う。
 鮮烈な空色の視線がカケルを真っ直ぐに貫いた。

「疑ってるの?」

 七司書家はエファランの敵国に強い影響力を持っている。
 敵国と繋がっている事を疑われたのかと、カケルは思った。しかし、イヴはゆっくり頭を振る。

「いいえ。敵の内通者なら、自分が魔眼を持ってることを話したりしない筈だもの。
 ただ、確実に呪術師の貴族の血を持っているだろう貴方が、なぜエファランにいて、なぜ竜になりたいだなんて言ってるのか、分からなくて」

 素直な娘だな、とカケルは苦笑した。
 真正面から聞いて来られると、流石にいつものようにふわふわと笑ってごまかすことは難しい。
 カケルはその問いに答えず、逆に聞き返した。

「イヴの方こそ、なんで竜騎士になんてなりたいのさ。女の子にはきつい仕事だろ」
「それは……」

 聞き返されて、イヴは戸惑ったように言いよどんだ。
 カケルはプライバシーに踏み込まれた意趣返しをしたくなって、わざと意地の悪い笑みを浮かべて言う。

「親に言われたから? アラクサラを国一番の名家にするために働きなさいって」

 そう言うと、イヴは整った柳眉を逆立ててこちらを睨んだ。

「馬鹿にしないで!
 私が竜騎士を目指すのは、親に言われたからなんて理由じゃないわ!」
「じゃあ何?」
「憧れの人が竜騎士なのよ。私はいつか、彼に並ぶ竜騎士になりたいの」

 イヴは真剣な顔で、茶化すことは許さないという雰囲気だ。
 曇りのない明るい眼差しを、カケルは眩しく思った。

「……俺は、君が羨ましいよ。君は俺がどれだけ望んでも得られなかったものを持ってるから」

 カケルの呟きに、イヴは怪訝な顔をする。

「何を言ってるの? 貴方は魔眼を持ってるじゃない。それは、呪術師なら喉から手が出る程欲しいけど、普通は手に入らないものよ」
「確かに魔眼は希少だけどさ…君は言ったじゃないか。呪術師じゃなきゃ、意味がないって。俺は……」

 会話の途中で、カケルの声を掻き消すように爆音が響いた。
 二人は会話を切り上げ、崖の下のキャンプ地の方を見る。
 キャンプ地では虫が暴れてソルダートの兵士たちを襲っている。それはリリーナの歌う虫を寄せる歌の効果だった。虫を防ぐ歌もあれば、逆に引き寄せる歌もあるのだ。
 ソルダートの兵士たちは虫と戦っているが、一体の竜騎兵は虫と戦わずにキャンプの入り口を目指している。

「あの竜騎兵、ロンド先輩の元へ向かってるの?」
「歌がどこからきてるのかバレたんだ!」

 どうやら敵は、ロンドとリリーナのしていることに気付いたらしい。先に歌を止めようとしているようだ。
 このままではロンドとリリーナが危険だ。

「援護しないと……!」

 イヴが険しい表情でナビゲータを召喚した。
 彼女の肩の上に、黒いタキシードを着た白い兎が現れる。

「ミカヅキ、射程距離を出来るだけ伸ばして。
 紅光弾ルビーショット!」

 空中に描き出された光の矢をつがえて、イヴは彼方の竜騎兵に照準を定めた。
 カケルはその様子を黙って見守る。手伝いたくとも、彼に今出来ることは無い。


 ――せめて竜に覚醒していれば。


 こんないちかばちかの危険な作戦をしなくても、自分が竜であれば、もっと役に立てたのに。
 このチームの中で一番無力な自分を、気にしていなかった訳じゃない。ただ、落ち込んでもどうしようもないと、割り切っていただけだ。
 表面上はふわふわ惚けた表情を装っていたが、カケルの心中は複雑だった。

《 軌道の計算完了。こっちはいつでもOK! 》

「……当たれ!」

 イヴは気合いを入れて矢を放つ。
 超遠距離狙撃の光の矢は、曲線を描いて彼方の竜騎兵へと落下した。竜騎兵の前で紅い火花が散る。
 目を凝らしたカケルは、火花の向こうで竜騎兵が無事な様子を確認して息を飲んだ。イヴは敵の防御が破れなかったことに唇を噛んで、次の矢を放とうとしている。

「もう一度っ!」
「駄目だ! 狙撃は失敗したら、反撃が来る。場所を移動しないと!」

 敵に矢を当てることに夢中になっているイヴに、カケルは警告しつつイヴの腕を引く。
 しかしイヴは、仲間の窮地を放って置けないと足を踏ん張った。

「今攻撃しないと、ロンド先輩達が」
「ロンド兄は自分で何とかするってっ! イヴ!!」

 女の子を無理矢理引きずって行く訳にいかず、カケルは声をかけながら彼女の肩を揺さぶった。
 カケルに腕を引かれつつも、イヴは片手で弓を引き絞って矢を放つ。

 それはちょうど、カケルが懸念していた、反撃と同時だった。

 敵の竜騎兵が放った攻撃の術式が、イヴの放った矢と空中で交差する。イヴの矢は、敵の術式に弾かれて明後日の方向に逸れた。一方、敵の術式もイヴの光の矢の影響を受け、微妙に狙いが狂う。

 結果、敵の反撃はカケル達を逸れて、真下の岩壁に突っ込んだ。

「うわあっ!」
「きゃっ」

 足元で爆発が起き、二人は悲鳴を上げる。
 ずるりと崖の一角が崩れ、カケル達を載せたまま岩盤が滑り落ちる。真下はキャンプ地の裏手の川だが、水面までは数百メートルはあった。
 崩れ落ちる岩と共に、カケル達は空中に投げ出される。

「イヴっ!」

 落下の瞬間、カケルは彼女の手を離さないようにしながら、必死に自分が下になるように体勢を入れ替えた。
 暗い闇の淵がすぐそこに待ち構えている。

 カケルは目をつぶって着水の衝撃を待った。



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