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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.11 君が選んだ俺の「ほんとう」を見て欲しい

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05 逃げ出したい

 慣れた様子で寺院の廊下をすいすい歩くカケルに、イヴは小走りでついていく。
 横に歩調を速めたオルタナが並んだ。

「……それで、どこへ行くんだ?」
「まずはこの街を出なきゃね。その後でアロールさんと連絡を取って、リリーナの場所を教えてもらう」
「マクセラン隊長が場所を知ってるのか」
「知ってるよ。こんな時のために、リリーナは居場所を発信する道具を身に着けているはず」

 呪術で探査できるよう、目印になる道具を身に着けているだろう、とカケルは言う。
 イヴもそういった小道具については聞いたことがあるので、カケルの話に納得する。アロールと連絡を取るのは、イヴの役目になるのだろう。このメンバーで呪術師なのはイヴだけだ。
 歩きながら彼女はカケルの顔を覗き込んだ。

「ユエル」
「!」
「第二の名前は親しい人に呼ばせるって、リリーナが言ってたわ。ユリアン王太子とは親しいの?」

 カケルの顔が引きつる。
 彼は気まずそうな顔をして視線を逸らした。

「親しいっていうか……向こうが勝手に呼んでるだけで」
「じゃあ私もユエルって呼んでいい?」
「え? うわわ、それはちょっと勘弁……」

 親しい者に呼ばせるという第二の名前を呼んでいいかと聞くと、カケルは何故か眉根を寄せて嫌そうな顔をした。

「ユエルって名前には良い思い出がないんだよ。カケルって名前の方が気に入ってるんだ。妹も俺のことはカケルって言ってたし。だから、これまで通り、カケルって呼んでよ」

 また妹?
 このところ頻発するキーワードにイヴは眉を潜めた。
 親しくなって気を許すようになってきたからこそ、カケルは今まで口にしなかった妹について話すようになった。だが、妹のことを話すカケルには、無意識の執着が感じられる。普通の兄妹よりも、何かしら強い拘りがあるような。

「それにカケルもユエルも同じ意味の言葉だし。古代語でたしか空を飛ぶみたいな意味だったような」
「名前なんかどうでもいいじゃねえか。カケル、どっちだ」
「んー」

 気が急いているらしいオルタナが話を遮る。
 どちらに行けば騒ぎに巻き込まれることなく、街を出られるかと問いかけるオルタナに、カケルは「こっちだよ」と先導して歩く。風の魔力を操って状況を把握しているらしい。
 確かに今は暢気に雑談している場合ではない。
 イヴも気を引き締めて、彼等の後について歩き出した。





 その頃、リリーナは廃墟になった森の中の洋館にいた。
 フレイは海に面した国だが、今彼女がいる場所は高天原インバウンドを貫く中央山脈に近い山側のようだ。中央山脈近辺は険しい山が続くため人が住む場所が少ない。
 埃が積もった窓枠から、見渡す限り森と山が続く。

「リリーナ様、エファランの力で我等をこの地獄から解放してほしい」
「私の一存では……」
「エファランは我等、竜や獣人を解放する国ではないのか?!」

 赤茶色の髪をした獣人の青年が机を叩く。
 その音にリリーナはビクリとした。

「シジル、落ち着け」
「だけど……」
「いざとなったら彼女を人質にエファランの助力を取り付ければいい。そのつもりで連れてきたんだから」

 シジルと呼ばれた獣人の青年の肩を、背の高い男が軽く叩く。
 青い髪を長く伸ばして項で一括りに纏めた、がっしりした体格の男だ。この男はリリーナを攫ったターコイズブルーの鱗の竜である。
 解放運動を主導しているのは、シジルとこの竜の男らしい。

「エファラン建国から数百年……もう当時の気概なんてないさ。高天原インバウンドに取り残された俺達のことは見てみぬふりなんだから」

 男の言葉にリリーナはうなだれる。
 エファランは差別されていた竜や獣人達が集まって作った国だ。しかし、長い年月が経ち国として成熟すると、保守派が幅をきかせるようになった。彼等の言う通り、エファランは自国を守るために、高天原インバウンドに残された竜や獣人達を放置している。

 苦しい。
 私はエファランの王族だから、彼等の言葉を受け止めなければいけない。
 けれど私は王族である前に一人の人間の少女に過ぎない。

 ただの女の子であるリリーナの心は「私には関係ない、放っておいて」と叫ぶ。国がどうとか政策がどうとか、私には重すぎる。そんなものを背負いたくないのだ。


 --一緒に逃げようか。


 思い出の中で金髪の少年が悪戯っぽい笑みを浮かべて、リリーナに手を差し伸べる。
 彼の手を取って逃げ出せたら、どんなにか楽だろう。

 ああ、オルタナ。
 弱い私の心を知ってなお、貴方は手を差し伸べてくれるかしら。
 貴方にまで拒絶されたら私は……。

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